3日(現地時間)午後3時、1979年にイスラム革命が成功した後にイランで発生した最もおぞましいテロに、全世界が強い衝撃を受けた。イラン中部のケルマン市にある「殉教者墓地」で開かれたイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)の精鋭部隊であるコッズ部隊の司令官だったカセム・ソレイマニ氏の4周忌の追悼式で、15~20分程度の時差を置いて2発の爆弾が爆発し、何と84人が死亡した。AP通信は4日、「時差を置いて2発目の爆弾を爆発させるのは、1発目の攻撃に対応するための応急要員を狙って被害を増やすため、武装勢力がよく使う手法」だと指摘した。イランを刺激するこの攻撃によって、ガザ地区内だけで進められているイスラエルとハマスの間の戦争が中東全体に拡大するかも知れない決定的な岐路に立つことになった。
イランは強く怒り、報復を誓った。イラン人の尊敬を一身に受けたソレイマニ司令官を2020年1月3日に米国の攻撃で失ったのに続き、追悼式でも激しい侮辱にあったためだ。最高指導者のアヤトラ・アリ・ハメネイ師はこの日声明を出し、「イランの邪悪かつ犯罪的な敵どもがもう一度悲劇を起こし、多くの人が殉教した」としたうえで、「加害者は明らかに正義の処罰の対象になり、強力な代償を払うことになるだろう」と述べた。エブラヒム・ライシ大統領の警告はより明確だった。ライシ大統領は米国とイスラエルに直接言及しながら、「犯罪的な米国とシオニスト政権に、あなた方が犯した犯罪に対して非常に高い代価を払い後悔することになることを告げる」と宣言した。
11月に大統領選を控え、いかなる手段を使ってでも戦争拡大を止めようとする米国のジョー・バイデン政権は事態鎮火に乗りだした。ホワイトハウスのジョン・カービー戦略広報調整官と国務省のマシュー・ミラー報道官は3日にそれぞれ記者会見を開き、今回の爆発で犠牲になったイラン人に弔意を示し、イスラエルが今回の事件に介入したという証拠は見つからないと口をそろえた。バイデン政権の高官はさらに一歩踏み出し、この日のメディアとの会見で、今回の攻撃はイスラム国(IS)が過去に実行した種類の「テロ攻撃」とみられるという推測を出したりもした。米国は開戦後5回目として4日にアントニー・ブリンケン国務長官を中東に派遣した。
戦争拡大のカギを握ることになったのはイランだ。米国のある官僚はニューヨーク・タイムズ紙に、イランは誰の仕業であったとしても、この事態に対して米国とイスラエルに責任を問う立場を維持すると明言した。しかし、イスラエルを相手に直接の軍事の行動に出るのかどうかについては不透明だ。国境を接しないイスラエルを相手にする軍事的措置は適切ではないうえ、昨年10月のガザ戦争開始後、米国の空母戦団が中東に密着して配備されているためだ。
さらに、イランがイスラエルを攻撃すれば、歴代最悪の極右政権を率いるベンヤミン・ネタニヤフ首相に翼を付けることになりうる。ネタニヤフ首相はこの3カ月間、ガザ地区で2万人以上の人々を死なせた残酷な軍事作戦で国際的に孤立しており、国内的には強い辞任圧力を受けている。そうした状況でイランの先制攻撃を受けることになれば、休戦を要求する国際社会の圧力は減り、政権維持に有利な環境が形成される。
実際にイスラエルは、最近になり露骨に戦争拡大を試みる姿勢をみせている。先月25日にはシリアのダマスカスで、この地域で活動していたイランのイスラム革命防衛隊のセイエッド・ラジ・ムサビ将軍を殺害し、2日にはヒズボラの拠点であるベイルート付近で、ハマス政治局のサレフ・アル・アルリ副局長を殺害した。さらに先月31日には、ガザ地区から5個旅団の兵力を撤収するなど、レバノンに第2戦線を作るための作業を進行中だ。そうした意味で、「ガザ戦争が拡大するだろうか」という質問は「イランがイスラエルのエサにかみつくだろうか」という問いに置き換えることができる。
結局はイランが報復するとしても、レバノンの武装勢力であるヒズボラやイエメンのフーシ派の反乱軍などを前面に出す間接対応をする可能性が高い。実際にヒズボラの最高指導者のハッサン・ナスララ師は3日、アルリ副局長の暗殺に対して「沈黙できない」としたうえで、「イスラエルがレバノンへの戦争拡大を選択するのであれば、けりをつける戦いをするだろう」と述べた。
当面は中東では戦争を継続しようとするイスラエルの攻勢が続き、親イラン武装勢力がそれに対抗して衝突が拡大する可能性がある。しかし、イランが慎重な態度を続けるかぎり、ガザ戦争がイランとイスラエルの全面対決までにはエスカレートしない可能性が高い。イランは戦争拡大の入口の敷居でためらうだろう。