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[寄稿]統治能力を失いつつある韓国の保守政治

登録:2024-05-22 02:28 修正:2024-05-22 11:33
シン・ジヌク|中央大学社会学科教授
尹錫悦大統領が18日、光州市北区の国立5・18民主墓地で開かれた第44周年5・18民主化運動記念式で、記念演説をおこなっている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 総選挙から1カ月が過ぎた。残念ながら尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権には何の変化も感じられない中、大統領の国政遂行支持率は20%台を抜け出せずにいる。このままやって行けるのか、3年後に国はどうなっているのか。行く先々で心配だ。尹大統領に投票した人も投票しなかった人も同じだ。

 前回の総選挙での最大の変数は尹錫悦大統領だった。選挙後の様々な分析によると、野党に投票した人たちは多くの場合、何よりも尹大統領に対する怒りから投票所に出向いた。大統領選挙で尹大統領に投票した少なくない人たちも、尹大統領に失望したために今回は野党に投票するか、投票を放棄した。

 このような民意は、単なる人物に対する感情や特定の政策への反対ではない。問題ははるかに根本的だ。国のガバナンスそのものを破壊した独断、乱用、無能に対するものだ。キム・ゴンヒ、イ・ジョンソプ、ファン・サンム、「長ネギ」はそのような社会の現実の具体的な表れだ。大統領審判では世の中は変わらないということを知らない人はいないが、現在の支配構造の頂点に尹大統領がいるため、そこに政治的怒りが凝縮され、そこから変化のエネルギーがあふれ出ているのだ。

 私たちは、尹錫悦政権の問題がどの程度のものなのかを正しく評価しなければならない。この政権は保守政権だと言われているが、この2年間、私たちには国政哲学とビジョンにもとづいた政策を見た記憶がない。政府の存在があらわになるのは家宅捜索のニュースだけであり、大統領の指示がすべてにおいて優先されてきた。すなわち、今問題になっているのは国家運営の基本資質、民主社会の最小限の規則だということだ。

 ここで既視感を覚えるのだが、その正体はまさに2017年のろうそくと弾劾だ。朴槿恵(パク・クネ)政権の崩壊は、何らかの政策の失敗が招いたものではなかった。政府を運営する基本的な資格のない人々が権力の座について国家システムを破壊しているという認識が、広範に共有されていたのだ。当時の朴大統領の支持率は20%程度だった。

 保守政権下でこのようなことが繰り返されているだけでなく、繰り返しの時間的間隔が徐々に短くなっていることに注意を払わなければならない。李明博(イ・ミョンバク)大統領は政権発足直後、支持率が20%台にまで暴落し、「実用政策」でようやく回復して任期を終えた。朴槿恵大統領は「国家不在」、「独裁回帰」を非難され続け、結局4年目に政権の座から引きずりおろされた。だが尹大統領は就任後ずっと「レームダック」状態にあり、3年目にしてすでに深刻な試練にさらされている。

 このような傾向は、韓国の民主主義がどこに向かっているのかを物語っている。学者たちは、「87年体制」と呼ばれた民主化後の政治体制の特徴は、民主主義の限定性と不安定さだと主張してきたが、そのような特徴はより良い民主主義へと向かう過程の過渡期的な現象とみなされてもいた。しかし、もはやそのような考え方は根拠が見出しがたい。韓国の民主主義はむしろさらに不安定化しており、民主社会の根本的な諸価値に対する社会的合意も揺らいでいる。

 盧泰愚(ノ・テウ)政権から盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権までは、多くの限界が存在したにもかかわらず、民主主義と自由、人権、参加が漸進的に改善されるすう勢にあった。そして改善され続けるべきだとの社会的合意があり、その合意の破壊は道徳的タブーであった。しかし2000年代以降は、韓国政治の様相が変化していった。民主主義と自由が伸張しても、政権が交代しさえすれば一気に後退するというパターンが繰り返されてきた。一時期語られた「今や韓国において民主主義は不可逆的だ」という言葉を信じる者は、今は誰もいないだろう。

 国際的に信頼される「民主主義多様性(V-Dem)指数」で、韓国は朴槿恵政権最後の年である2017年には調査対象国中37位だったが、文在寅(ムン・ジェイン)政権時代には13~18位に上昇した。だが今年は47位へと大幅に下落している。「国境なき記者団」の世界報道自由度ランキングでも、韓国は盧武鉉政権時代後半の2006年に31位だったが、李明博政権2年目に69位、朴槿恵政権後半期の2016年には70位にまで下落。文政権時代に41~43位に回復し、今年は再び62位に転落している。韓国の民主主義は上下に大きく揺れている。

 なぜなのか。保守政治内部の根本原因は、民主化後に独裁と断絶して生まれ変わるのではなく、その逆に進んだというところにある。ナチス敗戦後のドイツのキリスト教民主同盟、フランコ死後のスペインの国民党は保守政党だが、民主主義と人権、多様性の価値を受け入れた。しかし韓国の保守政治は、李承晩(イ・スンマン)、朴正熙(パク・チョンヒ)に自らのアイデンティティーの居場所を定め、民主化後の社会的成就を否定する方向へと進んだ。

 尹大統領の光復節の祝賀演説での「共産全体主義者たちが民主主義や人権の運動家として偽装している」という発言は、「(1980年5月の光州市民は)スパイ、不純分子、暴徒に操られている」と言った全斗煥(チョン・ドゥファン)政権の宣伝とまったく同じ意識構造だ。このような過去への回帰は、高度に発展し複雑化した今日の韓国社会に到底合わないため、民主主義の後退だけでなく統治能力の喪失につながらざるを得ない。それがまさに朴槿恵、尹錫悦両政権の「無能な権威主義」だ。

 このように退歩的な保守政治に韓国社会が繰り返し権力を明け渡したことには様々な背景があるが、民主的政治勢力が韓国社会の実質的な課題の解決に成功できていないという限界は特に大きかった。代表的な例が経済問題だ。政治学者のアダム・プシェヴォルスキは、民主化した国々は経済問題の解決に成功すれば民主主義が強固になるという理論を発表しているが、まさに韓国のためのメッセージだ。

 盧武鉉政権時代の非正規労働者の急増と所得格差の急拡大、住宅価格の暴騰、文在寅政権時代の再度の不動産暴騰と資産格差の拡大は、いずれも政権交代の致命的な原因となった。不平等な民主主義に失望して権威主義勢力の政権獲得を許し、その後は今のような混乱に直面して改めて民主主義を求めるという反復される歴史の中で、韓国社会は漂っているのだ。この悪循環の輪は、もう断ち切らなければならない。

 大統領選挙が行われる2027年までの3年間で、韓国社会は経済、外交、気候などの様々な重大な課題を乗り超えなければならない。そのような時期にあって、今後は尹錫悦体制の亀裂はさらに広がり、政局も混乱が続くかもしれない。無能で無責任な政権の下で国を漂流させたままにしておくことはできない。国民の代表機関である国会を率いる野党は、信頼しうる政策とビジョンによって統治能力を示さなければならない。民主主義の能力を立証する時だ。

//ハンギョレ新聞社

シン・ジヌク|中央大学社会学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1141462.html韓国語原文入力:2024-05-21 16:48
訳D.K

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