新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行に続くロシアのウクライナ侵攻と気候変動によって食糧危機に対する懸念が高まっていることで、学校給食の重要性が新たに注目されている。貧困のせいで学業をあきらめる子どもを減らすと同時に、猛暑をはじめとする気候変動で危機に直面する農民に地域社会内の固定的な供給先を提供することで、食糧供給システムの安定も図れるとの認識が広がっているのだ。
このような認識は、コロナ禍で全世界が教育危機に直面し、フランスとフィンランドの主導で2021年10月に国際組織「学校給食連合」が発足したことで、急速に世界に広がっている。61カ国で発足した同連合は、2年足らずで加盟国が85カ国に増えた。
そのおかげで全世界の学校給食は、コロナ禍とそれにともなう学校運営の中断の余波をほぼ克服した。世界食糧計画(WFP)が今年上半期に発表した報告書「2022世界の学校給食の現状」によると、昨年全世界176カ国で学校給食の提供を受けた生徒は、コロナ禍以前の2020年初めに比べ3千万人ほど多い4億1800万人と推定される。ただし、世界で最も貧しい国々の給食だけは後退したことが明らかになっており、彼らに対する迅速な支援が求められる。
学校給食は、先月末にイタリアのローマで行われた国連食料システムサミットでも重要な関心事となった。国連のアミナ・モハメド副事務総長は同サミットで、生徒たちに毎日給食を提供することは、生徒はもちろん、社会全体と世界の食糧供給システムにも莫大な利益をもたらすと強調した。同氏は、学校給食は「未来世代の支援のために私たちが提供しうる最も大きなセーフティーネット」だとし、「学校給食は気候変動に直面する農村社会に弾力性を提供するという潜在力も非常に大きい」と指摘した。
国連のアフリカ担当特別顧問を務めるクリスティーナ・ドゥアルト氏は「学校給食は公共の支出ではなく投資であり、公共サービス提供の入口のようなもの」だとし「アフリカの場合、青少年に食べ物を提供することは、結局は彼らの母親、家族、地域社会に食糧を提供する効果を発揮する」と語った。
■教育の不平等の解消効果は非常に高い
教育政策や食糧政策の専門家たちは、学校給食の強化は低所得層、その中でも女性に教育の機会を提供することにより、性や階級間の不平等を解消するのに非常に直接的な効果を発揮すると指摘する。アフリカ大陸の国マラウイの女子高生マリア・ンコマさん(17)の例はこれを象徴的に示している。ンコマさんは国際開発専門メディア「デベックス」とのインタビューで、学校給食がなかったら学業を続けることは考えられなかっただろうと語った。ンコマさんは「干ばつのせいで我が家の農業がうまくいかないため、両親は常に十分な食糧を収穫できていない。両親が肉体労働の仕事を探しに出かけている間に家で雑用をするために、学校を休んだこともある」と話した。学校できちんとした食事を提供してくれるため、家族の食糧不足がカバーでき、そのおかげで自分も学校に通うことができるというわけだ。
WFPの資料によると、マラウイで飢きんが最も深刻な地域に給食プログラムが導入された後の2019年、生徒たちの欠席は5%ほど減った。特に女子生徒の学業中断率は15.6%から5.2%へと急激に低下。マダガスカルでは、昨年WFPが支援する給食プログラムを公立学校の23%にまで拡大して以降、出席率が前年の67%から76%に改善された。WFPのマダガスカル担当官を務めるアイナ・アンドリアナリジャハさんは「学校給食は食費の節減を通じて保護者を直に支援している格好」だとし、学校給食の直接的な効果は非常に高いと強調した。
■ルワンダやベナンなどは給食拡大に積極的
WFPは、このところ学校給食の拡大に最も積極的なアフリカの国としてルワンダとベナンをあげた。ルワンダ政府は2019年に学校給食を国の優先課題の一つに選定し、2021年には全ての初等教育機関に普遍的な給食を提供するという目標を立てた。それに向けて2020年には800万ドルほどだった給食予算を、昨年は9倍を超える7400万ドルにまで増やした。そのおかげで給食の提供を受ける生徒は、2021年の66万人から2022年には380万人に増えた。ただし、無償給食の恩恵を受ける児童はまだ小学生全体の7%にとどまる。
ベナンは2021年の「学校給食連合」への加盟を契機として、学校給食の拡大を重要国政課題とした。2016年までは、同国で学校給食の提供を受ける生徒は全体の20%、政府の関連予算も150万ドルに過ぎなかった。しかし2018年には全生徒の半数にまで給食対象を拡大するとの目標を立て、2021年にはすべての生徒に給食を提供すると目標を上方修正した。政府はそれに向けて、今後5年間で2400万ドルの予算を投入することを決めている。昨年、同国で無償給食を提供された小学生は全体の38%で、貧しい国の中では良好な方に属する。
WFPによると、学校給食連合の結成を主導したフランスとフィンランドは、環境にやさしい学校給食プログラムの導入に政策的関心を集中している。フランスは現在、1290万人いる就学児童の75%に毎週1回以上の給食を提供しており、給食には菜食を含めるよう義務付けている。2020年からは気候変動に対応するために生ゴミの縮小を義務付け、2025年からはプラスチック容器の使用を全面的に禁止することを決めている。フィンランドは1940年代からすべての生徒に無償給食を提供しており、最近の給食政策は環境にやさしい農業で生産された農産物の優遇などの、納品基準の強化を通じた給食の質の改善に取り組みを集中している。
■低所得国の無償給食は後退
学校給食に対する認識は世界的に高まっているが、低所得国の無償給食は逆に後退している。WFPが世界163カ国の資料を収集、分析したところ、昨年全世界で無償給食または給食費の補助を受けた小学生は2020年に比べ7%増えたが、低所得国だけは4%減少していた。低所得国の無償給食後退は国際支援の減少が最も大きな要因だ。WFPによると、2020年には低所得国に対する国際社会の支援金は2億6700万ドルだったが、昨年は2億1400万ドルに減っている。
無償給食は低所得国の間でも国ごとの格差が非常に大きい。アフリカのブルキナファソはすべての小学生に無償給食または給食費補助を提供しており、ネパール(76%)とマラウイ(60%)も多くの生徒が無償給食の恩恵を受けている国だ。一方タンザニア、コンゴ民主共和国、モザンビークなどは無償給食の普及率が5%にも満たない。
国家間格差は中所得国や高所得国の間でも同様にみられる。中所得国のうちイラン、アルジェリア、ベトナム、インドネシアなどの小学校の無償給食率は1%未満だが、ボリビア、東ティモール、モンゴル、パラグアイ、ブラジルなどはほとんどの生徒が無償給食の恩恵を受けている。高所得国の中ではギリシャ、オーストラリア、カナダ、スイスなどが、無償給食の恩恵を受けている生徒の割合が全体の15%未満だ。
WFPは、学校給食プログラムのおかげで85カ国で約400万の雇用が創出されたとし、これは10万人の生徒に給食を提供するたびに1377の雇用が生まれる計算になると指摘した。WFPは、このような経済的波及効果まで考慮すれば低所得国に対する支援の拡大はさらに急がれるとし、国際機関などに10億ドル以上の追加支援を求めている。