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ウクライナ住民、1700万人が「限界状況」…国連機関の報告書、凄惨な現状明かす

登録:2023-06-28 06:22 修正:2023-06-28 15:43
ロシアによる「ウクライナ侵攻」1年4カ月、生活を妨げる砲煙 
人道支援が必要な人口、1700万人に急増 
児童の割合10%→23%…避難民は540万人
ウクライナ東部の都市リシチャンシクで定住する場所のない避難の道に出た母親と2人の子ども=リシチャンシク/AP・聯合ニュース

 ロシアの民間軍事会社「ワグネル」を率いるエフゲニー・プリゴジン氏の24日の反乱によって、ウラジーミル・プーチン大統領の指導力が大きく損なわれ、ウクライナ戦争の状況にも変化が予想される。

 ロシア内部の混乱を機会を利用し、ウクライナが強力な反撃の機会を得ることもありうるが、プーチン大統領が政治生命をかけてさらに好戦的になるかもしれない。戦争がよりいっそう激しい対決局面に陥り、ウクライナ国民の生活は、ふたたび大きな危機に直面することになった。

 国連が把握しているウクライナ国民の状況は凄惨だ。現在受けている苦痛と同じくらい未来も暗い。国連開発計画(UNDP)、ユニセフ、国際移住機関(IOM)など12の国連機関が12日に出したウクライナ戦争に関する報告書「ヒューマン・インパクト・アセスメント(Human Impact Assessment)」では、多くの住民が限界状況に追い込まれていると警告した。

 報告書は「住民たちは、貯蓄していた資金や人道支援金、借金などで持ちこたえ、生活必需品の購入のために医療費の支出まで最小化しているが、もはやこれ以上は持ちこたえることは難しい」と伝えた。

 この報告では、昨年末から今年初めまで全国24州で3239世帯を対象に調査を行い、10回のフォーカスグループインタビューと23回の専門家による深層インタビューを行った後、過去の資料と比較した。

戦争開始から1年4カ月、ウクライナ国民の生活の変化 //ハンギョレ新聞社

■危機に陥った未来世代

 ロシアが昨年2月24日に侵攻する前から、ウクライナ国内に存在した都市と農村の貧富の格差は、1年あまりの間にさらに広がった。特に、主な戦闘地域である北部と南部の農村は、廃虚に変わっている。戦争前の2021年末には、人道支援が必要な人口は、東部の紛争地域の住民など合計290万人だったが、昨年末には1760万人と5倍以上増加した。

 さらに懸念されるのは、支援が必要な住民に占める児童の割合が10%から23%に急増したという点だ。人口の高齢化と若年層の国外移住などによって、今後30年間で人口が3分の1に減少する可能性もあるという予想が出ている状況を考慮すると、子どもたちが直面している現在の危機は、ウクライナの未来をよりいっそう暗鬱にさせる。

 教育危機も暗い未来を予告している。報告書は「ウクライナ西部の一部地域でのみ対面授業が完全に行われ、残りの地域ではオンライン授業に大きく依存している」としたうえで、「ザポリージャ州、ヘルソン州、ドネツク州ではインターネット接続が難しく、オンライン授業の大きな障害となっている」と指摘した。特にヘルソンとドネツクは、教師の77%が他の地域に避難して離れており、「教育不毛地」に転落した。

 未来世代の健康も深刻な状況だ。報告書は、支援団体ワールド・ビジョンの資料を引用し、「中南部のドニプロペトロウシク、北東部のハルキウ、南部のヘルソンで子どものケアを行う状況を評価した結果、子どもたちが低年齢から喫煙、中毒、物理的暴力にさらされるリスクが高いと指摘された」と明らかにした。

 ワールド・ビジョンの資料によると、青少年が感じる不安とストレスが強まり、9~13歳の少年と少女のそれぞれ39%と44%が、タバコのような中毒性物質に手を付けていることが明らかになった。14~17歳の少年と少女は、この割合がそれぞれ78%と55%に達した。学校の授業に出ない青少年の割合も36~50%だという調査結果が出ている。

ロシアのドローン攻撃で崩れ落ちたウクライナの首都キーウのマンションの建物=キーウ/AP・聯合ニュース

■低下する生活の質

 1年以上続く戦争によって、調査対象の世帯の13%が、爆撃や戦闘によって家が壊される経験をした。過去1年間に全国で損傷した家屋は140万軒程度と推算される。こうして生活基盤を失った住民の多数が、避難の道に進み、1月時点で故郷を離れて生活する人は、全体の15%の水準である540万人に達した。

 昨年秋にロシアがウクライナの発電所などの社会インフラを集中攻撃した後、飲料水や暖房など基本的な公共サービスまで十分に享受できない人たちも同様に急増した。特に、北部と南東部の住民の77%が、飲料水の中断などによって苛酷な冬を経験した。相対的に安全な西部も、戦争前には体験しなかった飲料水不足で苦しむなど、インフラ不足は全国的な現象だと報告書は指摘した。

 調査対象の世帯の22%は、所得の25%以上を保健・医療費に使っていると答えたが、家族が病気になっても医療機関に行かないと答えた世帯も38%に達した。全般的な保健危機のなか、階層別の医療格差も広がっていると推定される。

■自立不可能な人口が雪だるま式に増加

 ウクライナ経済は、戦争のために昨年は-29.2%のマイナス成長を記録した。これにより、自ら生計を立てる余力を失った世帯が急増した。報告書は、主な収入源が「有給労働」である世帯は全体の67%から53%に大幅に減少したと明らかにした。仕事がある世帯構成員が1人もいない世帯も26%に達した。

 これにともない、人道支援金が主な所得源である世帯が、戦争前の1%から1年ほどで21%にまで大きく膨らんだ。さらに、全世帯の13%は、親戚や友人から経済的支援を受けていることが明らかになった。この割合は、戦争前より8ポイントも増えたものだ。生活が苦しく政府から一定の所得支援を受けている世帯の割合も、1年間で53%から60%に高まった。国際通貨基金(IMF)は、今年のウクライナの経済成長率を-3~1%程度と予想している。世帯所得がすぐに増加するよう期待することも難しい状況だ。

 6日にヘルソン州のカホウカダムが崩壊して浸水騒動となり、主要産業である農業生産が大きな打撃を受けると予想されている点も、今後の経済見通しを暗くする。報告書は「ウクライナは農産物の輸出大国であるため、これまで食糧安全保障問題はほとんどなかったが、戦争によって、食糧を十分に消費できない世帯が全体の10分の1の水準から3分の1にまで増えた」と明らかにした。戦争がさらに長引けば、食糧問題が住民たちの新たな心配事に浮上する可能性も排除できない。

ウクライナ東部ドネツク州クラマトルスクのある教会で、食事の配給を受けるため待っている住民たち=クラマトルスク/EPA・聯合ニュース

■対策なしで追い出される脆弱階層

 一人親家庭、高齢者、障害者、性的マイノリティ、ロマ民族のような少数民族の状況は、よりいっそう深刻だ。

 故郷を離れて慣れない土地に定着しようと努める「国内避難民」の境遇も、これらの人たちと大きな違いはない。報告書は「脆弱階層に属する人口は、1年間で全国民の34%から45%に増えた」としたうえで、「これらのなかでも、国内避難民が最も大きな困難に直面している」と指摘した。540万人程の国内避難民は、高齢者や障害者とともに最も所得が低い階層を形成しており、新たに定着しようとしている地域社会から排斥されることも多いと、報告書は付け加えた。

 ドニプロ地域に留まっているある避難民は、国連調査官に「私の履歴書には、国内避難民という表示がある。(そのため仕事を探すことができない)」としたうえで、「金銭関連の責任が伴う業務は、最初から(地域の)永住許可証を必須として要求する」と伝えた。黒海西部沿岸のオデーサ地域のある社会活動家も「地域社会には職はあるが、国内避難民が職に就くことは非常に難しいのが現実」だと述べた。

 女性や少数民族出身者なども、不利益を受けていることは同じだ。西南部地域のヴィーンヌィツャのジェンダー平等活動家は「女性たちは、男性より仕事をさらに必死になって探し、賃金が安い仕事も喜んで受けいれる」と伝えた。ハルキウの女性人権活動家は「子どもと老人の面倒をみなければならない負担のため、外での活動がまったくできない女性も多い」とし、「そのため、人道支援さえ受けられないことも起きている」と述べた。

 ウクライナ南部に主に集まって住んでいるロマ民族に対する差別は、はるかに深刻だった。オデーサ地域に住むあるロマ民族の住民は「戦争前も子どもたちを幼稚園や学校に行かせにくかったが、今はさらに難しくなった」とし、「結局、賄賂を渡して子どもを学校に登録させた」と打ち明けた。また別のロマ民族の女性は「仕事を見つけることが戦争後ははるかに難しくなった」と述べた。ウクライナには5万~26万人のロマ民族が暮らしていると推定される。

 報告書は、戦争の衝撃に苦しめられるすべての階層が権利を保護されるよう、国際社会の支援を求めた。特に、教育への投資と農業生産力の回復のための介入、女性と国内避難民の労働機会の拡大のための条件を設けなければならないと強調した。だが、戦争を終わらせる道を見つけることができない限り、ウクライナ住民たちの困難を画期的に改善させるのは難しいという点が、最も根本的な悩みだ。

シン・ギソプ先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/1097617.html韓国語原文入力:2023-06-28 01:19
訳M.S

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