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TV司会者の降板が示したオーストラリアの素顔…「多文化」の裏の人種主義

登録:2023-05-25 06:38 修正:2023-05-25 08:20
オーストラリア放送局(ABC)の先住民出身の時事番組司会者スタン・グラント氏が人種主義を告発して降板し、同僚のジャーナリストたちが「私はスタンを支持する」と書かれた紙を掲げ彼を支持する集会を開いている=シドニー/AP・聯合ニュース

 オーストラリア先住民出身のジャーナリストが「不当な人種主義の非難を受けた」として放送番組を降板し、同国をめぐる古い人種主義の論議が加熱している。

 公共放送「オーストラリア放送協会」(ABC)の時事番組「Q+A」の司会者スタン・グラント氏は、英国王チャールズ3世の戴冠式の報道の際にかつて英国がオーストラリア先住民に加えた暴力について言及した後、「情け容赦のない」人種主義的な非難を受けたと述べた。強いショックを受けたグラント氏は、現在放送中の番組を降りる意向を表明した。

 グラント氏は22日の番組の最後に出て、SNSやいくつかの保守メディアが自身を歪曲したとし「私たちの家族を苦しめた人たちに伝える。あなたたちの目標が私に傷を与えるためのものであるのなら、成功した」と述べた。グラント氏は「社内の誰も、戴冠式の報道に参加してほしいと要請した人たちも、公開の場で私を守る発言をしなかった」とも明らかにした。

 オーストラリア先住民のウィラジュリ出身であるグラント氏は、1992年に先住民として初めてオーストラリアのプライムタイムの時間帯に放送される番組の司会者となり、注目された。その後、CNNやアルジャジーラなどを経て、2019年にふたたびABCに戻り活動してきた、約30年のキャリアを持つジャーナリストだ。

 グラント氏は今月初め、英国王チャールズ3世の戴冠式を報道し、かつて英国が王の名のもとにいかにして先住民を「抹殺するための戦争」を宣言したのかについて説明した。あわせて「(戴冠式の行事は)遠くで繰り広げらえている私たちと無関係のものではなく、重量感のない儀礼行為でもない」としたうえで、この行事が「先住民には重く受け止められる。王冠の重さが今でも私たちを圧迫しており、私たちはそれに耐えている」と述べた。

 放送後、内容が過度に批判的だとする視聴者の不満が殺到した。ある有名なラジオ司会者は、放送内容が「完全に雰囲気を誤った方向に導き、憎しみに満ちている」と批判した。「むだな不平不満を並べたもの」や「罵り」だと非難する意見もあった。

 オーストラリアは自らを多文化社会だと語る。だが、多様性という観点で政府、メディア、放送界の構成を見ると、欧州や米国など他の西側社会に比べはるかに遅れていることがわかる。英国BBCは、2022年の調査を引用して、オーストラリアのテレビ放送記者と番組司会者の70~80%が英国系文化圏の出身だと報じた。

 グラント氏の降板は、オーストラリア社会の人種主義にふたたび大きな警鐘を鳴らしている。同僚のジャーナリストは「私はスタンを支持する」として抗議集会を開いた。先住民のヌンガ出身のテレビジャーナリストのナレルダ・ジェイコブス氏は「今回のグラントの事例は、先住民出身のジャーナリストが主流の見解に挑戦するためには、いかに高い代価を支払わなければならないのかをよく示している」とし、「この国メディアはバランスを失っており、グラントがこれを正そうとしたが攻撃された」と述べた。

 ニューヨーク・タイムズは、今回の事態は、先住民の血が染みついたオーストラリアの歴史が今でも現実に影響を及ぼしていることを示すものだと報じた。ABCは今回の件について謝罪し、過ちを正すことを約束した。ABCの報道責任者であるジャスティン・スティーブンス氏は「彼が私たちの組織で体験した挫折について深く謝罪する。それを正すため、私たちが行えることをすべて行う」と述べた。ABCは、社内の人種主義をどのように扱うのか検討し、社内の多様性を高めるために努力すると約束した。オーストラリアは今年末、先住民問題に関して政府に助言する組織を憲法機関にするのかについて、国民投票にかける予定だ。

パク・ピョンス先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/asiapacific/1093163.html韓国語原文入力:2023-05-24 18:19
訳M.S

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