ギリシャ「我々の海」トルコ「独占不可」…「エーゲ海使用権」で神経戦
犬猿の仲であるトルコとギリシャが、今度は「エーゲ海」の商標登録をめぐり対立している。
トルコは昨年末、欧州連合（EU）の知的財産権担当機関に「トルコエーゲ海（TurkAegean）」という名称の商標登録を申請した。観光広報キャンペーン用のスローガンに使うためのものだった。エーゲ海は、地中海にあるトルコとギリシャの間に広がる海を指す。
問題は、エーゲ海は古代ギリシャ文明が展開した舞台であり、現在もエーゲ海にある島々の大部分はギリシャに属しているなど、ギリシャと深く関係しているという点だ。エーゲ海という名称も、古代アテネの王アイゲウス（Aegeus）に由来する。そのため、ギリシャ人の間では、エーゲ海は「我々の海」という認識が強い。
にもかかわらず、EUは先週、「トルコエーゲ海」の登録を承認した。そうした事実が知られると、ギリシャでは「トルコが我々の海と歴史を奪った」という反発の声が噴出したと、英国紙「ガーディアン」が3日（現地時間）報した。ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は先週、スペインのマドリードで開かれた北大西洋条約機構（NATO）首脳会議に参加した際の記者会見で、「何人かの人が、単純に自分の仕事を真面目に行わなかった」としたうえで、「政府は、この問題を解決するため、可能なかぎりすべての法的可能性を動員する」と明らかにした。ギリシャ出身で欧州委員会（EC）のマルガリティス・シナス副委員長は、「トルコは、『トルコエーゲ海』という名称の登録を要請したという事実を、EUに適切な形で伝えなかった」と述べ、登録承認の決定は再考されなければならないと主張した。
トルコも、エーゲ海が古代ギリシャのヘレニズムの歴史の舞台だったという点については大きな意見の違いはない。しかし、ギリシャのエーゲ海独占は許さないという態度だ。トルコのメフメット・ヌリ・エルソイ文化観光相は、古代ギリシャのホメロスの叙事詩の舞台であるトロイやギリシャ中継貿易の植民都市のエフェソス遺跡はトルコ側の海岸にあるという点を示し、「トルコのエーゲ海は、トルコでも美しい場所だと指折り数えられる場所」だと述べた。
一部では、両国は隣り合っており、似た地理的環境や歴史、文化など多くを共有しているとして、和解の仲介に乗りだした。しかし、トルコのエーゲ海観光広報計画は、ただでさえ地中海東部海域の資源開発やキプロス紛争などをめぐり軋轢を生じさせている両国の対立を増幅させている。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、先週のNATO首脳会議で、ギリシャのミツォタキス首相が「冷静さを取り戻すまで」会わないと述べ、両国間の首脳会談を拒否した。5月にはミツォタキス首相が米国を訪問し、「トルコにF-16戦闘機を売ってはならない」と求め、エルドアン大統領の怒りを買った。
ギリシャでは、「トルコエーゲ海」キャンペーンについて、来年のトルコ大統領選を控えた政治的な動きが疑われている。ギリシャの進歩政党「シリザ」に所属のヨルゴス・カトゥルガロス議員は、「単なる観光広報広告ではなく、最終的にはエーゲ海にあるギリシャの島々と経済水域に対する領有権に疑問を提起しようとする意図」があるとしたうえで、「地理的に、トルコの海岸にエーゲ海に接している所があるということならば問題ないが、エーゲ海全部あるいは大部分がトルコのものだとする含意があるのなら、それは誤り」だと述べた。
専門家らは、ギリシャも9月に総選挙が予定されており、両国のどちらも譲歩は難しいという見方を示している。場合によっては、対立が武力衝突につながる可能性もあるという指摘が出ている。ギリシャの国際関係専門家のコンスタンティノス・フィリス氏は、「トルコのエーゲ海関連の主張は、非常に攻撃的に、しかもほとんど終末論的にアップグレードした」としたうえで、「トルコは、今後生じる可能性があることについて準備をしているようだ」と述べた。
ギリシャには、15世紀にオスマン・トルコに征服され支配された苦い歴史がある。ギリシャは19世紀に英国やフランスなどの助けを借りて独立を勝ち取ったが、その後もエーゲ海を挟んで向い合っている両国の間では、武力衝突など対立が絶えず、第1次世界大戦直後には全面戦争も経験した。
訳M.S
