フィンランドとスウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)への加盟について、トルコの反対が激しい。
トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は18日の議会演説で、スウェーデンとフィンランドはトルコが要求する「クルド人テロ分子」を引き渡していないとして、両国のNATO加盟に反対することを確認した。ロイターなどが報じた。
エルドアン大統領は「我々は30人のテロリストを要求したが、彼らは『引き渡さない』と言っている」とし、「あなたたちは、テロリストを引き渡さないとしながらNATO加盟を望んでいる」と批判した。エルドアン大統領は「我々は、安全保障が欠如した安全保障機関に対して『イエス』とは言えない」とし、「我々の同盟国のうちどの国も、この敏感な問題に対して我々が期待する尊重を示さなかった」と述べ、不満を表明した。
16日には両国のNATO加盟について「肯定的な見解を持っていない」と述べたエルドアン大統領が、具体的な要求事項とともにさらに強硬な立場を示したのだ。
ワシントンを訪問したトルコのメヴリュット・チャヴシュオール外相もこの日、米国のアントニー・ブリンケン国務長官との会談で、「我々は両国の安全保障への懸念を理解するが、トルコの安全保障への懸念も払拭される必要があり、米国を含む友好国や同盟国と論議を続けていく」と述べた。
トルコの大統領と外相はこの日、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟については余地を残したが、要求条件を高めた。ルクセンブルクのジャン・アセルボーン外相は、ドイツのラジオのインタビューで、エルドアン大統領は北欧諸国がNATOに加入する基準を引き上げていると指摘した。
トルコは、フィンランドとスウェーデンにクルド労働者党の関係者の送還を2017年に提起したが、これまでほとんど話題にすることはなかった。しかし、今回トルコはこの問題を公論化しつつ、トルコに有利に活用しようと動いている。
西側は、イスラム原理主義武装勢力「イスラム国家」(IS)の撃退戦を遂行したシリア民主軍の主軸であるクルド人民防衛隊(YPG)に対する軍事作戦を行ったトルコに制裁を科した。人民防衛隊はクルド労働者党の武装集団だ。トルコは人民防衛隊の勢力が大きくなることを懸念し、2019年にシリアとの国境地帯で大規模な掃討作戦を行った。トルコは、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請を機に、両国が当時参加したトルコに対する制裁を解除するよう要求したのだ。
トルコのこのような動きは、フィンランドとスウェーデンだけでなく、西側全体を狙ったのものだ。イスラム主義勢力を基盤とするエルドアン大統領の政権発足以降、トルコは中東において米国一辺倒の外交安全路線を抑え、ロシアとの関係を改善するなど、独自の動きを加速してきた。トルコのこのような動きにより米国との摩擦が強まり、摩擦はトルコが昨年ロシア製の新型地対空ミサイルS-400の導入を発表したことで頂点に達した。これに対して米国は、トルコにF35戦闘機のライセンス販売を中断する報復を加えた。
トルコは2009年、デンマーク出身のアナス・フォー・ラスムセンNATO事務総長の任命にも反対したことがある。トルコはデンマークがクルド人のテレビ局を閉鎖するよう要求した。ラスムセン氏は総長に任命されたが、1年後にデンマークはこの放送局を閉鎖した。トルコは両国のNATO加盟をめぐり、そのような水面下での取引を行うものとみられる。
クルド人問題は名目にすぎないという見方もある。エルドアン政権では、西側の制裁と景気低迷で通貨リラの価値が過去2年間でほぼ半分に下がり、インフレ率は66.9%に達する。クルド人問題を刺激し民族主義感情を鼓吹することで、直近の来年夏の選挙に対処しようとする国内政治的な目的も垣間見える。
中東地域の勢力再編におけるトルコの役割を最大化しようとする、一連の地政学的な動きの側面もある。特にトルコは、ウクライナ戦争において和平交渉を積極的に仲栽している。トルコはNATOでは米国に次いで多くの兵力を保有する加盟国だ。NATOはトルコ抜きでは中近東での作戦は困難だ。
NATOは、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請を1~2週間以内にすみやかに処理した後、候補国の資格を付与するという立場だった。しかし、トルコという壁を前にして、スケジュールが不透明になった。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が近くアンカラを訪問するといううわさも外交関係者の間で出回っていると、英紙「ガーディアン」が報じた。ウクライナ戦争の渦中でトルコが駆使するカードは、まだ多く残っているということだ。