戦火から逃れるため、メティカ国境検問所を通じてポーランドに流れたウクライナの避難民たちは「プシェミシル」という名の小さな町に辿り着く。人口6万人のこの小都市は、先月24日、戦争が勃発してから数日でポーランドに押し寄せる難民を迎える前哨基地となった。普段静かだった鉄道駅や学校、体育館、文化センターなど様々な地域施設が今や難民のための空間に様変わりした。
中でも、1年あまり前に営業をやめたある大型スーパーは最も重要な場所になった。プシェミシルの第1号人道支援センター(Humanitarian Aid Center)で、難民のための「移動センター」としての役割を果たすこの場所は、欧州で最も有名な「バスターミナル」となった。ウクライナ難民たちはここで次の目的地に向かうバスに乗る。バスの終着点はドイツやオーストリア、チェコ、デンマークなど隣接する欧州諸国だ。
9日(現地時間)午前、プシェミシルには大雪が降っていた。難民を乗せてドイツのフランクフルトに向かうために停まっていた50人乗りの大型バスの車窓にも、白い雪が積もっていた。オランダ人の運転手、ヘイルトさん(46)はトランクを開け、松葉杖数十本と様々な衛生用品を取り出して、バスのそばに積み上げた。難民たちが近づいてきて、自分に合う松葉杖を選んだ。ある子供は緑色の子供用の松葉杖を手に取った。もともと自分のものであるかのように松葉杖をついてぴょんぴょん跳んでいた。「ここの(難民たちの)要請を受け、松葉杖を持ってきた。乗客がいっぱいになれば、すぐにフランクフルトに出発する予定」だとし、「お弁当も持ってきた。ドイツに到着すれば宿舎が用意されている」と語った。
「まもなくフランクフルトに向けて出発するバスがあります!」。移動センターの入り口で蛍光色のベストを着たボランティアがマイクで叫んだ。移動センターの主な任務は、難民たちと移動手段を繋ぐことだ。センターに公式に登録された運転手だけが難民を乗せられる。ウクライナ難民のために交通の便を提供しようとする人や団体が大半だが、たまに詐欺を働く人もいるためだ。車に乗ったらお金を要求する場合もある。そのため、プシェミシルの休憩所のいたるところに、無料で車を提供すると提案する人たちに気をつけようという注意文が貼り付けられている。
移動センターの内部には「乗車前の注意点。第一に、必ず運転手と一緒に写真を撮ってください。拒まれたら、絶対車に乗らないでください。 第二に、車に乗る前に、免許証と運転手の情報を家族の誰かと共有してください。第三に、疲れている運転手は避けてください」という内容の注意文があちこちに貼られている。センターは身元が確認された運転手に金色の腕輪を提供し、信頼できる運転手かどうか、難民が確認できるようにしている。
センターには難民たちがバスに乗るまで体を休める広い空間が用意されている。センター内の15の空間がそれぞれ寝室や食堂、薬局、簡易病院などとして使われている。難民とボランティア以外はセンターの内部空間に入ることができない。受付で難民であることを確認してもらい、緑のブレスレットを受け取ってから、ようやく中に入ることができる。ボランティアや一般市民、取材陣までが殺到する他のシェルターよりも落ち着いた雰囲気だ。難民たちはここで一息つくことができる。廊下には水やお菓子、粉ミルク、おむつ、ウェットティッシュ、石鹸、ハンドクリーム、シャンプー、生理用ナプキン、洗剤まで、難民が急いで荷物をまとめる際、用意できなかったはずのものが箱ごと積まれていた。
取材陣が到着した9日、移動センター前の駐車場には大型バスが20台近く停まっていた。ある運転手にウクライナ人女性が近づいてきて声をかけた。運転手はスマートフォンの翻訳アプリを使って、女性が何を望んでいるかにすぐ気付いた。いっぱい積んできた救護物資を降ろしたバスは、今度は難民たちを乗せてセンターを後にする。プシェミシル移動センターは毎日数百~数千人の難民が行き来している。ポーランド国境守備隊によると、先月24日から今月9日までにポーランドに入国したウクライナの避難民は133万人だという。