世界がロシアのウクライナ侵攻を批判し、さらにロシアでも反対デモが続いているが、中国だけは例外だ。中国政府が戦略的な理由からロシア側に立つことは予想されていたが、中国国民もロシア側に立ち、反対意見を受けいれない態度を示している。
南京大学の孫江教授ら中国の歴史学教授5人は先月26日、ロシアのウクライナ侵攻を「不正義の戦争」だと批判する文章を中国版ツイッターの微博(ウェイボー)に投稿し、思いがけない仕打ちにあった。彼らは800字程度の短い投稿に「核兵器を保有する強大国が弱い兄弟国家を攻撃し、国際社会が驚愕している。(中略)戦争に踏みにじられた国(の国民)として、ウクライナ国民の苦痛に共感する」と書いた。
刺激的な内容ではなく、常識的なレベルで問題を提起したが、中国のネットユーザーたちはこれを容認しなかった。「5匹のネズミが騒動を起こす」「国家の立場に反する」などの盲目的な非難があふれ、結局、投稿はわずか2時間で削除された。
真面目な批判もあった。あるネットユーザーは「ウクライナ戦争が勃発した日、イスラエルはシリアを、米国はソマリアを空襲した。なぜ教授たちは、イスラエルと米国の空襲は無視し、ウクライナ侵攻だけを指摘するのか」とし、「イスラエルと米国の戦争が真の強権戦争であり、ロシアの戦争は自分を守るための自衛戦争」だと主張した。「米国が善、ロシアは悪」という米国中心の世界観の矛盾を指摘し、世界各地で米国の戦争が繰り広げられている点を指摘したのだ。実際、この日のイスラエルの空襲により、シリア政府軍の3人が死亡し、米国は昨年8月以降で初めてソマリアのイスラム武装集団アルシャバーブを空襲した。
中国人のウクライナ侵攻への支持は、過熱している状態だ。先月24日午前にウラジーミル・プーチン大統領がウクライナ侵攻の命令を下す際に行った演説は、5000字を超える長文の中国語に翻訳され、オンライン上で10億回以上共有された。ネットユーザーたちはプーチン大統領を「大帝」と呼び、「支持する」「血が沸き立つ」「立派な演説だ。筋が通っている」などのコメントを投稿した。あるネットユーザーは「2回詳細に読んだが、1字1字が珠玉のようだ。ロシアの絶体絶命の反撃を支持する。あなたたちは世界平和に貢献している」と書いた。
一部の市民が反戦の主張を出したことが知られているが、中国では大きな反響はない。米国の「ラジオ・フリー・アジア」(RFA)の報道によると、中国の北京大学や精華大学などの出身の132人が実名で先月28日、「ウクライナに対するロシアの侵略行為に反対する」と題する声明を出したが、中国メディアやインターネットなどでは、まず見つけられない。
中国当局が最近、ウクライナ情勢について「ロシアに不利で西側に有利な内容」は報道できないようにするメディア統制の指針を下したと、ドイツの「ドイチェ・ヴェレ」中国語版が報じた。ウクライナ侵攻を機に、国家レベルで「親ロ反米」感情をあおっているのだ。
中国のロシアへの愛は特別だ。中国人民大学の馬得勇教授が、2017年と2018年にそれぞれ約2300人と約5400人を対象に周辺国に対する好感度を調査した結果、中国人が最も好きな国はロシアであり、米国、インド、韓国、日本、北朝鮮の順だった。「血盟関係」の北朝鮮に対する好感が最も低く、一時は社会主義の本家の座をめぐり争ったロシアに対する好感が高かった。
いくつかの理由がある。米国のトランプ政権以降、米国との対決の様相は激しくなり、同じ側に立つロシアに対する好感が強まった。中国とロシアは米国の制裁を甘受し、米国1強体制に対抗している。米国エデルマン研究所の昨年11月の調査によると、中国人の政府に対する信頼は91%と世界で最も高く、国家の選択を個人の選択として受けいれたものとみられる。昨年末に中国官営の「環球時報」が18~69歳の中国人約2000人を対象に実施した調査では、中国人の55.6%が「中ロ関係」を最も重要な国際関係として挙げた。中国・欧州関係(44.9%)と中米関係(41.8%)が後に続いたが、これは、これに先立つ15年間の同じ調査で1位を占めた中米関係がひっくり返ったものであり、注目を集めた。
ロシアの政治体制が中国と似ている点も、理由として挙げられる。両国は、共産主義国家という歴史を共有し、一人の指導者が長期間政権を担う権威主義の政治体制を持っている。習近平主席の場合、10年の任期の慣例を破り、長期政権を推進しており、プーチン大統領も20年以上、政権を維持し続けている。西欧式の民主主義体制を否定する中国の立場としては、プーチン大統領が支配するロシアの権威主義体制は、特に拒否感なく受けいれられている。
プーチン大統領に対する個人的な好感もかなりの役割を果たしたとみられる。中国のインターネット掲示板などを見ると、「中国人はなぜプーチンが好きなのか」という質問が少なくなく、彼の個人的なカリスマやロシアの指導者として米国と対抗する姿勢などを理由として挙げる回答が少なくない。あるネットユーザーは「プーチンは強靭で気位が高いロシア民族主義者であり、多くの理念が中国の国民の観念に合致する。プーチンは祖国に対する情熱と愛国心が強く、民族的な色が濃厚だ。中国人が好きになるような性格だ」と書いた。中国の習近平国家主席は2013年に指導者になった後、プーチン大統領と40回近く会談をした。