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太平洋のゴミの島に新たな「イカダ生態系」が誕生

登録:2021-12-08 03:06 修正:2021-12-08 07:51
収集したゴミで40種以上の生物の生息を確認 
沿岸種と外洋種が入り混じった共同体が繁栄
ある研究員が、北太平洋亜熱帯環流域で収集したプラスチックゴミを調べている=スミソニアン環境研究センター提供//ハンギョレ新聞社

 国際海洋環境団体オーシャン・コンサーバンシー(Ocean Conservancy)によると、地球表面の70%を占める海には1億5000万トン以上のプラスチックが浮いている。そして1年で800万トンが追加される。これは1分ごとにごみ収集車1台分のプラスチックを海に捨てているのと同じだ。

 海に流れ込んだプラスチックゴミの一部は、大洋を循環する海流に乗って移動しながら、「ゴミの浮き島(Garbage Patch)」を形成する。最も大きいものが北太平洋亜熱帯環流が作ったゴミの浮き島「太平洋ゴミベルト(Great Pacific Garbage Patch)」だ。

 ハワイから北東に1600キロ離れたこのゴミベルトの大きさは、実に160万平方キロメートルに達する。韓国の国土面積の16倍だ。科学者たちは7万9000トンのプラスチックゴミがこの場所にたまっていると推定する。

北太平洋環流が作り出した3つのゴミの島。スミソニアンの研究チームが分析したのは、規模が最大の亜熱帯還流域(中央)のゴミの島=米国海洋大気庁(NOAA)提供//ハンギョレ新聞社

東日本大震災の津波の残骸から300種以上の生物を発見

 ところで、次第に大きくなっていっているこのゴミの島が、海洋生物の新たな生息地の役割を果たしていることが分かった。

 米国のスミソニアン環境研究センター(SERC)の研究チームは、一部のプラスチックを分析した結果、40種以上の沿岸・外洋生物が入り混じり、新たな海洋共同体を形成していることが明らかになったと国際学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に発表した。同研究チームは、調査したプラスチック片の半分以上に沿岸の種が住んでいることを発見した。ほとんどが東アジア沿岸で繁栄している種だった。

 論文の第1著者のリンゼイ・ハラム研究員は「浮遊するプラスチックが、沿岸の生物種の地理的境界を、以前には想像もできなかったところにまで大きく拡張する機会を作っている」と述べた。プラスチックがイカダの役割を果たしているわけだ。研究チームはこれを「新外洋共同体(neopelagic community)」と命名した。言い換えれば、ゴミの島を生息基盤として浮遊する一種の「イカダ生態系」だと言える。

 研究チームが外洋のゴミの島に沿岸の生物の新たな生態系ができたかもしれないと考えたきっかけは、2011年の東日本大震災の数年後に、6000キロ以上離れた米西海岸沿岸で、津波の残骸に乗って太平洋を渡ってやって来た約300種の沿岸生物を発見したことだった。

ゴミの島の新外洋共同体の例。a、b、cは外洋生物種、d、e、fは沿岸生物種=ネイチャー・コミュニケーションズ//ハンギョレ新聞社

 研究チームは、プラスチックゴミの収集団体オーシャン・ボヤージュ研究所(Ocean Voyages Institute)と共同で、昨年、北太平洋亜熱帯環流でブイ、釣り道具、歯ブラシなどの103トンのプラスチックゴミを収集した。研究チームは、このうち一部の試料を選んで分析した結果、イソギンチャク、ヒトデ、ムール貝、フジツボ、エビなどの沿岸の無脊椎動物や海藻類がプラスチックゴミに付着し、繁殖していっていることを発見した。プラスチックの中に閉じ込められていた沿岸部の魚もいた。

 これらと共にグースネックバーナクル、コケ類など、ゴミの島の環境に適応した外洋生物も発見された。興味深いのは、ここに生息する土着外洋生物の種類は、沿岸の生物種より多様ではなかったという点だ。

 スミソニアン海洋研究センターの首席科学者グレッグ・ルイーズ氏は「これまでは、外洋の環境と栄養は沿岸生物が住むには適さないと考えられていた。新たな発見はこうした考えが間違っているということを示している」と述べた。プラスチックが彼らの生息地の役割を果たしており、正確に何なのかは分からないものの、生存に必要なエサも得られていることが確認された。

ひとつのプラスチック浮遊物に共に生息する沿岸生物種のヒドラと外洋生物種のカサガイ、カニ=スミソニアン環境研究センター提供//ハンギョレ新聞社

新しいイカダ生態系は持続可能か

 今回の発見は、科学者たちに別の課題を残した。「ゴミに乗って外洋に流れて行った沿岸生物は、海洋環境にどのような影響を及ぼすのか」という問いに答えることだ。

 それには考慮すべき要素が2つある。1つは、ゴミに付着してここまで流れてきた沿岸の生物は、長いあいだ独立して維持されてきたこの外洋生態系にとって、かく乱要因になり得るということだ。生息場所とエサをめぐって沿岸生物と外洋生物の間で生存競争が繰り広げられるからだ。

 もう1つは侵入種の問題だ。外洋に形成された沿岸生物種の生息地が海流に乗って浮遊し、ある瞬間に他の沿岸の生態系を襲うこともありうる。

太平洋ゴミベルト。出典(https://www.cleanandgreen.online/post/the-great-pacific-garbage-patch-gpgp、 image credit-Reddit)//ハンギョレ新聞社

 現在のプラスチックゴミが海に流れ込む量を考えれば、今後も沿岸生物種の外洋生息地は広がり続ける可能性が高い。研究チームは、2050年までにプラスチックゴミの総量が250億トンを上回るという見通しを参考データとして提示した。気候変動によって暴風などの気象災害が頻繁になれば、より多くのプラスチックゴミが陸から海へと流れ込むことになる。

 ゴミの島が作る新たな海洋生態系が持続可能なのか、または北太平洋亜熱帯環流の外へと広がっていくのかは、現在のところは分からない。

 明らかなのは、プラスチックゴミが引き起こす恐れのあるこの生態系かく乱問題が、長いあいだ見過ごされてきたということだ。研究チームは、膨大なプラスチック海洋ゴミが遠からず海と陸の従来の生態系に影響を及ぼしうるとし、この問題に関心を向けるよう求めた。

 この研究には参加していないワシントン州政府の海洋生態学者ヘンリー・カーソン氏は「フォーブス」に対し「外洋のど真ん中のプラスチックいかだで混ざり合って繁栄する多くの生物は、それそのものが共同体だ。新たな生息地に共存する外洋種と沿岸種の間で今後どのようなことが起こるかは予測できないが、実に興味深いこと」と述べた。

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/1022254.html韓国語原文入力:2021-12-07 10:17
訳D.K

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