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[ニュース分析] インド「モディノミクス」に隠された農民の涙

登録:2015-03-09 20:52 修正:2015-03-15 09:16
土地法改正推進…企業フレンドリー色彩強化
先月24日、インド ニューデリーで農民女性たちが、政府が社会間接資本施設の建設などをする際に農民の土地を簡単に取得できるように土地法を改正しようとしていることに反対する抗議デモを行っている。資料写真//ハンギョレ新聞社

 「モディはインドのサッチャーになるだろうか?」

 ナレンドラ・モディ インド首相が最近、執権後初の予算案を出し、モディの経済政策を意味する「モディノミクス」(modinomics)の行方に関心が高まっている。 モディが英国のマーガレット・サッチャー元首相や米国のロナルド・レーガン元大統領のように、減税と規制緩和など強力な新自由主義経済政策を本格推進するのではないかという分析が出ている。

 モディ政権は先月28日に出した予算案で、モディノミクスの企業寄り色彩を一層明らかにした。 代表的な事例が、モディ政権が先月23日に始まった議会で推進中の土地法改正だ。 モディ首相は昨年12月、政府と企業が社会間接資本の拡充と工場建設などの事業を展開する場合、行政命令で該当事業敷地に編入される農民の土地を比較的容易に取得できるよう土地法の規定を緩和した。 (前任の)国民会議(INC)政権は、公共と民間共同事業の場合に土地所有者の70%の同意、民間事業である時は土地所有者の80%の同意を得れば事業者が事業用土地を取得できるよう土地法に規定したが、モディ政権は行政命令を通じて国防や国家安保、そして社会間接施設建設などの場合には土地所有者の70~80%の同意を得なければならないという条項の適用を削除してしまった。

 また、政府や企業が一定規模以上の農地を買い入れる場合、事業計画が地域共同体全体に及ぼす影響を検討する“社会衝撃測定”をしなければならないが、これもまた国防と国家安保、社会間接施設建設などが目的である場合には行政命令で免除するようにした。 ただし、この行政命令は一時的効力しかない。 モディ政府が予算案を処理する議会が開かれる6週以内に議会で土地法改正案を通過させられなければ行政命令は効力を喪失する。

モディ「産業のために経済的行動をすべき」
SOC拡充・工場建設などの事業時は

行政命令で土地を簡単に取得できるように
農業はGDPの1/5を占め…雇用は1/2

12億の人口の半分が生計を農地に依存
農民団体「貧困農民が犠牲」デモ

原油安で慢性的インフレが鎮静へ
成長率も今年6.3%…毎年好転
インドの経済状況はモディに有利

ナレンドラ・モディ インド首相 資料写真//ハンギョレ新聞社

 モディ首相は土地法改正の意志が強い。「メイク・インディア」というスローガンを掲げ、インド製造業の強化を推進している彼は、農民の土地所有権を犠牲にしても、政府と企業の土地取得を簡単にしなければならないと考えていると見られる。 モディ首相は「産業を起こすために我々は経済的行動をしなければならない。 現行法では(政府と企業が)土地を取得することが極めて難しい」と語った。

 しかし、インドにおける農民の土地所有権は、非常に敏感で引火性の強い問題だ。 インドで農業は国内総生産(GDP)の5分の1ほどを占めているが、雇用はほとんど半分を占めている巨大産業だ。 12億のインド人口の約半分が生計を農地に依存している。 インドは製造業が国内経済に占める比重が15%で、“競争者”である中国の30%台に比べ半分以下に過ぎない。 インドは優秀な情報技術(IT)産業で有名で、実際に情報技術と金融などのサービス業が経済全体に占める比重は約半分に達するが、雇用は全体の4分の1しか担当できていない。

 しかも、インドの土地法は英国植民地時期から農民には非常に苛酷な法律だった。 公共の利益という目的を付ければ、土地所有者の同意を得ずに植民当局が土地を収用できたためだ。 独立以後、多少の変化はあったが土地法の骨格はほとんどそのまま維持されてきた。しかし昨年、国民会議政権時期に農地所有者の権利が大幅に強化された。 モディ政権はこのように所有者の権利を強化した土地法を過去に戻そうとしている。

 先月24日、首都ニューデリーで数千名の農民がモディ政権の土地法改正計画に抗議する集会を行った。 万年与党から野党に転落した国民会議もモディ政権の土地法改正案に反対している。 国民会議はモディ政権が行政命令を通じて議会を排除し土地法を実質的に緩和したことに対しても不満を爆発させている。 先月初め、インド西南部のカルナータカ州ハサンで起きた農民デモを率いた農民団体KPRSの地域代表ナビン・クマルは「(モディ首相が属する)インド人民党(BJP)指導部は『インドは母親の土地』と言ってきた。 だが、今や人民党指導部は外国投資家に恩恵を与えるために貧しい農民を犠牲にしようとしている」と話したと現地メディア『ヒンドゥ』は伝えた。

 モディ政権の企業フレンドリー政策はこれだけではない。 アルン・ジェイトレー財務長官は7日、予算案発の時法人税を現行34%から今後4年以内に25%に下げると明らかにした。 またジェイトレー長官は富裕税を廃止し、代わりにこれまで富裕税課税対象だった企業や個人には既存所得税などの税率2%高めて適用することとも発表した。 インド政府は1957年に富裕税法を制定し、300万ルピーを超える非生産要素資産に対して1%の富裕税を賦課してきた。 営業や生産活動に使わない財産や自動車、飛行機などが課税対象だった。

 ジェイトレー長官は企業フレンドリー政策と共に、社会間接資本施設にも果敢な投資をすると明らかにした。 インドの慢性的エネルギー不足現象を解決するために、4000MW規模の発電所を建設し、道路など社会間接資本施設の拡充に114億ドルを投資するとも話した。 インドの鉄道は一日2300万人が利用する程にインドで比重が大きい移動手段だが、施設が古く頻繁な故障と事故を起こしていることに対して、今後5年間に1390億ドルを投じて現代化すると明らかにした。

 企業フレンドリーな歩みと社会間接資本施設の拡充を通じて企業投資を誘致し、これを通じて高い成長を達成するのはグジャラート州首相時期からのモディ首相が行ってきた長期にわたる経済政策方向でもある。 モディ首相は2001年から昨年まで、インド西部のグジャラート州首相を歴任したが、州首相在職時期にタタやフォード、インド国内外企業の投資を誘致してグジャラート州の経済成長率をインド全体の経済成長率より引き上げた。 グジャラート州での経済成果に基づいて出てきた話がモディノミクスであった。

 モディはグジャラート州での成功をベースに、極右ヒンドゥ主義者という初期のイメージを脱色し、有能なテクノクラートとしてのイメージ変身に成功し、インド首相の座に上がった。 モディのインド人民党が昨年5月の総選挙で30年ぶりに単独で下院の過半数を占める大勝をおさめたのも、国民がモディにかけている経済成長に対する期待が反映された結果であった。

 モディがグジャラート州首相として在職していた時期にも政策が過度に企業寄りで、民主的な政策とは距離が遠いという批判が出ていた。 グジャラート州政府が2012年にフォードやタタのような大企業の工場と売場を誘致するために住民から大規模に土地を買い入れたが、この過程で州政府の公務員らが住民たちに「同意しなくとも土地を持っていく」として、半強制的に土地を買収したという証言があったと米タイム誌は報道した。

 最近のインドの経済状況はモディ首相に有利な条件を作っている。 インド経済は2013年には米国の量的緩和縮小によるルピー価値下落で、国際通貨基金(IMF)に救済金融を申請せざるをえないのではないかという話が出る程に深刻だった。 これが結局、国民会議政権の総選挙惨敗につながった。 だがモディ執権後の昨年中盤から今年まで国際石油価格の下落などにより対外条件が好転し、インド経済は回復傾向を見せている。 インドは必要な石油の80%を輸入に依存する代表的エネルギー輸入国なので、国際石油価格の下落によるエネルギー輸入費用の縮小はインド政府が貧困層に支給する各種食品およびエネルギー補助金の費用負担を減らす効果がある。

インドと中国の経済成長率推移。 //ハンギョレ新聞社

 国際通貨基金によればインドの経済成長率は2013年5%、昨年は5.8%だったが、今年は6.3%に達すると展望される。 中国の経済成長率が同じ期間に7.8%→7.4%→6.8%へと次第に下落する傾向にあることとは対照的だ。 来年のインド経済成長率は6.5%と展望されており、6.3%成長にとどまると予想されている中国を上回るものと推定される。 インド政府が自主的に予想した2015~2016会計年度の成長率は8~8.5%に達する。 インド政府の経済成長率統計は、統計値の作成根拠が最近変わるなど誇張されたものという指摘もあるが、インド経済が比較的速い速度で成長している点については大部分が同意する。

 友好的な経済環境を基にモディ政権は国内総生産に占める財政赤字を2013~2014会計年度の4.5%から2014~2015会計年度では4.1%に縮小するという目標も達成できると見られる。 インド経済の慢性的な問題であったインフレーションも、国際石油価格の下落のおかげで鎮静傾向を見せている。

 消費者物価(CPI)上昇率が昨年4月の8.59%から今年1月には5.11%まで低下した。 インド中央銀行はこれまでインフレーション防御に力を注いだが、状況が好転して最近は景気浮揚に力点を置いている。 インド中央銀行は4日、基準金利を従来の7.75%から7.5%に0.25%下げた。 1月に続き2回目の基準金利引き下げだった。

 英BBC放送は、モディ政府が今回出した予算案について、インド政府が経済自由化政策を実施した1991年以後最も重要な予算案だと評価した。

 モディ首相の経済政策が過度に企業親和的だという批判があるが、同時に経済改革がまだ不十分だという声もある。 さらに急激な企業フレンドリー政策への変化を望む人々は、モディ政権が今回出した予算案で社会保障費用を果敢に減らさなかったという点を問題にしている。 国際石油価格が再び上がれば、社会保障費用の増加にどうして耐えられるかということだ。米ウォールストリート・ジャーナル紙のコラムニスト、サダナンド・デューム(Sadanand Dhume)は「モディ首相は貧困層に敵対的というイメージに映ることを恐れていると見られる」として「政府が国営企業の民間売却を推進するかも不透明だ」と指摘した。

チョ・キウォン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/asiapacific/681364.html 韓国語原文入力:2015/03/08 20:15
訳J.S(4554字)

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