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[ニュース分析] アリババ 馬雲熱風

登録:2014-09-29 06:30 修正:2014-09-29 09:11
35歳まで貧しければあなたの責任…“財産26兆ウォン”中国巨富の獨孤九剣
アリババの創業者 馬雲(中央・Ma Yun, Jack)が去る19日米国ニューヨーク証券取引所でアリババの企業公開(IPO・上場)を開始する鐘を打とうとしている。 この日、アリババの公募株は100ドルに肉迫し、馬雲は26兆ウォン(1ウォンは約0.1円)の財産を持つ中国筆頭の金持ちになった。 ニューヨーク/APニューシス

「35歳になっても貧しければ、それはあなたの責任だ」

 この言葉に同意しますか? 彼の話は更に続く。

「あなたのご両親が分けてくれる金がなくても、誰もあなたに同情してはくれない」

 アリババを米国証券市場に上場させ、26兆ウォン(約2兆6千億円)の財産を持つことになった馬雲の言葉です。 全世界がアリババと馬雲の言葉に疲れています。 彼には果たしてこういう話をする資格があるのでしょうか?  馬雲とアリババについて調べました。

 風清揚。 武侠小説ファンならご存じかも知れないが、殆どの人には馴染みがない。 中国の武侠小説の大家で“神筆”と呼ばれる金庸の小説『笑傲江湖』に登場する人物だ。それも主人公ではなく、主人公の令狐冲に剣法を教えた師父に過ぎない。 映画ファンのために補充説明をするなら、同じ作品に出てきた“東方不敗”に肩を並べる剣の達人程度と思えば十分だ。

 昔からの武侠小説ファンでなければ覚えている筈のないこの仮想の人物の名前が、この頃あちらこちらから聞こえてくる。 米国ニューヨーク証券市場に企業公開(IPO)をして大成功の神話を書いた中国のインターネッ流通企業アリババの創業者、馬雲会長のためだ。 彼は金庸の武侠小説の大ファンであり、自身の別名を風清揚と紹介している。 彼の風清揚に対する愛情は熱烈で、顧客第一・団体合作・変化包容・誠信・激情・敬業などからなるアリババの九大価値観に、風清揚が使う武術である“独孤九剣”と名付け、新しく作られる『笑傲江湖』のテレビシリーズでは風清揚役で出演したいという意向を明らかにしているほどだ。 結局、出演は失敗に終わったが。 彼はなぜ華麗な主人公でもない、主人公の剣の師匠である風清揚を自身の愛称にしたのだろうか。 彼はこのように語ったことがある。

「私は最高の人材を捜し出し、彼らを訓練し育てるのが好きだ。 私はかつて教師であったし、(アリババを率いている)今でも教師だ。 彼ら(職員)を私よりはるかに立派に育てている」

英語講師から人生逆転

 アリババが9月19日(現地時間)米国ニューヨーク証券市場に上場して“大成功”を果した。公募価格は68ドルだったが、この日11時45分に公開された最初の売買価格は92.7ドルであり、取引中に100ドル台に肉迫した。初日の市場価格が公募価格対比で38.07%も上昇し、アリババの市場価値は2314億ドル(約24兆円)になった。 25日現在の株価は88.92ドルで、価値がやや下落したがグーグルやフェイスブックなど世界最大のインターネット企業と肩を並べる企業価値だ。 アメリカの企業公開史上最も高い記録であり、同じ電子商取引企業であるアマゾンとイーベイを合わせた価値よりはるかに高い。 上場後、馬雲の財産は250億ドル(約26兆ウォン)程度と推算され、一気に中国筆頭の金持ちになった。 アリババと馬雲が途方もない話題になったことは不思議ではない。

 馬雲の身長と体重は公開されてはいないが、見たところ非常に小柄でやせている。 だが彼は現在、中国最高の英雄に浮上し、彼のファンたちの思いは信仰に近い水準と知られている。 『ファイナンシャル タイムズ』が現在中国で共産党についで最大の影響力を持っていると表現するほどだ。

 馬雲の人生はあまりにもドラマチックで、すでにハリウッドから映画製作の便りが聞こえている。 彼は1964年、浙江省杭州で評弾(ピンタン)俳優夫婦の息子として生まれた。評弾は杭州地方の伝統公演で、韓国のパンソリと似ているが、やや演劇的な側面が強い。 だが、1966年に始まった文化大革命で評弾公演が禁止され、馬雲の家は生計が立ちゆかなくなるほど困窮した。

 文化大革命以後、中国が“竹のカーテン”を取りはらう時期に青少年になった馬雲は英語に魅了された。 彼が英語の練習のために12歳から9年間も毎朝早く起きて自転車で45分もかかる杭州ホテルに行き、通りがかりの外国人をつかまえて無料で観光案内した勝ち気な少年だったというエピソードは良く知られている。 彼は大学入試に二度落第し杭州師範大学に入り英語教育を専攻し、その後は杭州電子大学で英語を教える講師として仕事をした。 当時の彼の収入は月に12ドル程度に過ぎなかった。

 馬雲が初めて創業に乗り出したのは1994年で、中国の文書を英語に翻訳したり通訳をする事務所を開いた。だがこれは失敗した。 しかし、これが彼が出張のためにアメリカを行き来してインターネットという新しい世界に初めて出会う契機になった。

 今後はインターネットワールドが来ると直感した彼は、中国版インターネットのイエローページ(業種別電話帳)である「チャイナ ページ」を創業したが、これもまた失敗した。 中国最初のインターネット企業に挙げられるこの企業は、準備不足と中国内のインターネットのインフラ不足で失敗するほかはない運命だった。 昨年、米国スタンフォード大学で行った講演で、その時の自分の状況をこのように表現した。

「1995年頃、中国でインターネット事業を始めたがとても孤独だった。 誰も私を信じなかったし、私も自分が何を話しているのか分からなかった。そして私はコンピュータ技術についても何も知らなかった」

 彼が持っていたのは、インターネットワールドが来るという確信だけだった。

 そのあと、しばらく対外貿易部で仕事をしたが、ある日、万里の長城に一人の外国人を案内するよう指示された。 その外国人こそヤフーの創業者ジェリー・ヤンだった。 この出会いは、2004年にヤフーがアリババの株式の40%を引き受ける条件で10億ドルを投資する契機になった。

アメリカ企業公開史上で最大記録
中国オンライン ショッピングの80%を占有
アマゾン、イーベイを追い抜く

武侠小説マニアで別称も登場人物の名前
強力なショーマンシップにカリスマ性
独断決定で独裁者の非難も
“なせばなる”精神で熱狂と冷笑を同時に受ける
中国小包の70%がアリババ取引

 馬雲の成功神話は1999年に彼が友人17人と共にアリババを創業して始まった。 彼のアパートで創業されたアリババは、初期にはただ一件の取引も成功させられず、創業と同時に危機に陥った。 だが、2000年にソフトバンクの創業者である孫正義から2000万ドルの投資を受けて危機を克服すると同時に、中国内外で話題を集めて事業を拡大できた。 アリババは企業対企業(B2B)オンライン ショッピングモールと言える。 中国の中小企業が作った製品を、全世界の企業が購入できるようにする所だ。 中国が“世界の工場”と呼ばれるだけに、成功は約束されたも同然だった。 2003年から利益を出しているが、米国最大のオンライン ショッピングモールであるアマゾンが分期当たり1億ドルを越える赤字を出していることとは対照的だ。

 アリババは一般人を対象にしたオンライン ショッピングモール「淘宝網(Taobao.com)」、富裕層を狙ったオンライン デパート「天猫(tmall.com)」等、様々な会社を作った。 淘宝網が創立された当時、中国のオンライン市場を支配していたのはイーベイだった。 馬雲はグローバルメディアとのインタビューで何度もイーベイと「戦争をする」と話したが、当時の反応は嘲笑に近かった。 だが、現在を見よう。 イーベイは中国市場から撤収し、淘宝網は中国インターネット商取引市場を事実上独占している。 最近韓国で海外直取引の窓口として有名になったアリエクスプレスもアリババの子会社だ。

 中国でのアリババグループの威勢はすさまじい。 多くの外信が整理した資料を見ると、アリババを通した取引は中国国内総生産(GDP)の2%に達し、中国国内小包の70%がアリババ関連会社を通じて取引された物品だ。 中国国内のオンライン取引の80%がアリババ系列会社を通じてなされている。 しかし、これはまだ始まりに過ぎない。 まだ中国の人口の半分はインターネットを使っておらず、オンライン取引をする人は6億人しか(?)いないが、まもなく世界最大のオンライン市場である米国を越えると予想されている。 会計法人KPMGの推定によれば、2020年には中国の電子商取引金額が米国・英国・日本・ドイツ・フランスの電子商取引金額の合計より大きくなる。 現在の占有率が続くと仮定すれば、アリババは超巨大企業という言葉さえ面目を失うほどの規模を持つことになると見られる。

アリババの成功原因は何だろうか?

 ドイツのツァイトゥングはその原因を中国人の心をうまく攻略したところに求める。 イーベイが販売金額の一部を手数料として抜くのに対して、淘宝網には手数料がない。 売上はオンライン広告と企業顧客のホームページ デザイン、検索順位を上位に上げる際に受け取る代価などで上げる。 また“アリペイ”という名前の独自の決済システムを開発したことも功を奏した。 消費者が淘宝網で商品を買えば、振り込まれた金銭は販売者に直ぐには渡らず、アリペイに預置される。 配送が完了した後にアリペイから販売者に代金が渡る。 オンライン ショッピングで詐欺を心配する中国人の疑心を解消したわけだ。 アリペイはアリファイナンスに発展し、公共料金決済に続きデジタル クレジットカードに事業を拡張している。 国営銀行をほとんど使わない大多数の中国人に金融サービスを提供することを目標にしていると分析される。

アリバブルなのか、新しい歴史の始まりなのか

 再び馬雲に話を戻そう。 馬雲は俳優の両親の血を受け継いだおかげなのか、非常にショーマンシップが強く、人々を魅了する力があると周辺は評価する。 その上、仕事には非常に攻撃的だ。 彼がロールモデルとしている風清揚の“独孤九剣”は攻撃は最大の防御と説いていることを想起させる。 香港のスイス投資銀行で仕事をしていた蔡崇信が彼と一度面談した後に巨額の年俸を放棄して先行き不透明なアリババに合流したことだけを見ても彼の吸引力がどれほど優れているかが察せられる。 蔡崇信アリババグループ副会長は、馬雲との初めての出会いについて『フォーブス』にこのように語った。

「台湾にいる私の友人から電話がきた。『おい、杭州のこの男と必ず会ってみた方が良い。 彼はちょっと狂っているようだが、それでも…』。馬雲に会った時は、まだ会社もなく、ホームページ一つがどんとあるだけだった。 ところが私は彼に完全嵌まってしまった。 彼はカリスマあふれる態度で途方もないビジョンを語った。 収益モデルや利益のような話は一つもしなかった。 『中国に数百万の工場があるが、どのようにすれば彼らを西側世界に知らせて表に引っぱり出せるだろうか?』。その時、すでに馬雲には一群の追従者たちがいた。 大部分は彼の教え子たちだった。 彼らの目は光り輝き、全員が狂ったように仕事をしていた。 私は完全に圧倒されてしまった」

 馬雲は優れた技術を持っているわけではなかったし、体系的な経営授業を受けたこともない。 彼は2008年頃からは経営に直接関与しないと話したことがあり、昨年には最高経営者(CEO)の座からも退いた。 彼が最も得意とするのは、ビジョンを提示し、それを構成員に説明することだ。 職員の前に立って、それがどれほど価値あることなのかを強調し、懸命に働けば別荘やスポーツカーも持てるようになると励ます。 彼は重大な経営決定をする際に直観に頼る方であり、その決定の理由を説明することもない。 このようなスタイルのために“独裁者”という非難を浴びたりもする。 だが、創業こそが金持ちになる道、という彼の説明は青年たちの大きな呼応を得て、ほとんど宗教的な支持を受けている。 2008年に出版された、彼について分析したある本の題名は“馬雲教”だった。

 今年の初め、彼はある講演で「35歳まで貧しければ、それはあなたの責任だ。 あなたが貧しい理由は野心がないため」と話して、論議の的になりもした。 35歳は彼がアリババを創業した歳だ。 “なせばなる”という彼の成功観は、熱狂と冷笑を同時に得ている。 中国ヤフーを買収して馬雲が見せた、インターネットを統制しようとする中国政府への協力姿勢も批判の対象だ。 彼は「私たちが政府に抵抗して不渡りを出すことを株主は願わないだろう。政府がしろと言うならする」と話したことがある。

馬雲とアリババは、成功神話を書き続けるのだろうか

 予断することは困難だが答はやはり“中国”に求められる。 中国の巨大な人口がインターネットに動き、アリババの立ち位置が強固であり続けるならば、現在の成功は序章に過ぎないだろう。 だが、私たちは中国の神話があまりに早く崩れ落ちる場面をしばしば見てきた。 中国のジャック・ウェルチと呼ばれた張瑞敏が率いる家電企業ハイアール、ウォーレン・バフェットが投資して話題を集めたバッテリー・電気自動車メーカーの比亜迪(BYD)、米国証券市場に上場して突風を起こした太陽光関連業者サンテックパワーなど、今にも世界を征服するかに見えた企業等の相当数は、現在不渡りを出したり経営難に陥っている。 技術力不足や競争企業の乱立などで世界市場に堂々と踊り出る前に中国国内で崩れ落ちたことがその共通点だ。 フォーブスが警告した通り、アリババ熱風が“アリバブル”になるのか、新しい歴史の最初のページになるのか、見守る必要がある。

イ・ヒョンソプ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/657092.html 韓国語原文入力:2014/09/27 11:18
訳J.S(6304字)