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[週刊ハンギョレ21]セウォル号惨事賠償・補償金に国家の金は入っていない

登録:2015-04-15 19:31 修正:2015-04-16 07:32

3月29日発効するセウォル号惨事賠償・補償金の基準と
申請手続きに関する施行令の問題点
遺族は排除、月給は建設現場の肉体労働者水準
慰謝料は交通事故水準で策定
賠償・補償金を受け取れば国家との和解成立とみなす

「お金で凌辱するな」

 我が子を失くした“残忍な4月”に、親たちは再び路上に座り込んでいる。 「金をもっとくれということじゃない」ということを証明しようと頭まで剃り落とした。4月2日。我が子の生徒証を首にかけた父親・母親の髪の毛が電動バリカンでざくっと剃り落とされていった。檀園高の犠牲者生徒の賠償・補償金が平均8億2千万ウォンだと政府が発表した翌日だった。「子どもの命をだしにして金をもっともらおうとする非情な親たちに仕立て上げることはやめて、無念な死に方をした私の子が何故そんなふうに死んだのかということから、先ず明らかにしてほしい」と泣き叫んだ。

 翌日、政府が答えた。「セウォル号惨事犠牲者の家族(4人)は生計支援費として月110万5600ウォンを最大6カ月まで支援される。 小・中・高校生は最大2年間、大学生は2学期間の授業料を減免される」。 金をさらに要求して路上に座り込んでいる親たちであると、確実に烙印を押す宣言だ。

 一方、600万人に近い国民が署名して制定されたセウォル号特別法は風前の灯だ。 政府は、特別調査委員会を公務員が掌握した官製機構に転落させんとする本心を、3月27日に立法予告した特別法施行令で露わにした。 イ・ソクテ委員長は「(辞退は)まだ全く考慮していない」と話した。 だが「今後どうするかは、国民の意思により決める考えだ」と付け加えた。 政府は立法予告期間(4月6日まで)が終われば次官会議(4月9日)と閣僚会議(4月14日)を経て政府施行令を確定するもようだ。 花のように美しい304人の命がセウォル号とともに沈没して1年、大韓民国は何も変わっていない。

取材 チョン・ウンジュ、ソン・ホジン記者、編集 ク・ドゥルレ記者、写真 キム・ジンス記者、デザイン チャン・グァンソク

“ユミンの父さん”キム・ヨンオ氏が4月2日、ソウルの光化門広場でビニールを張った中で夜を明かしている。セウォル号の遺族たちはセウォル号特別法施行令案の撤回などを要求して「416時間路上座り込み」を進行中だ //ハンギョレ新聞社

 4月2日、主要新聞がいっせいに報道した。 「セウォル号犠牲者生徒の賠償金1人当り4億2千万ウォン」 「檀園高生徒、賠償金4億2千万ウォン+慰労金3億+保険金1億」 「セウォル号賠償・補償1400億…遺族治療費など500億は別途」。 海洋水産部が前日報道資料を出してセウォル号犠牲者の賠償・補償基準を発表したのを受けて、ほとんどのマスコミはそのまま載せた。 一部は賠償・補償金の規模を天安(チョナン)艦の犠牲者のそれと比較しもした。

 これらの記事は一見、セウォル号の遺族たちが巨額の金を受取るかのように見える。この日剃髪式を行なった遺族の絶叫さえも、さらに高額を要求するものと理解する人もいるだろう。 遺族は「賠償金ではなく、真相究明から先にすべきだ」と要求する。 政府が発表した賠償・補償基準が作られた過程を見れば、その要求の実体を理解することができる。 お金が問題ではなく、金を受取るまでの過程が問題だと遺族は叫んでいる。

海洋水産部が発表したセウォル号犠牲者の賠償・補償基準が4月2日付の新聞に載っている //ハンギョレ新聞社

 現在遺族が反対している政府施行令は二つある。先ず、3月27日に海洋水産部が立法予告したセウォル号特別法施行令案(真相調査)がある。 4・16セウォル号惨事特別調査委員会(特別委)の活動と規模を大幅に縮小する内容だ。 政府が強行処理する可能性が高いが、それでも覆る可能性が全くないとは言えない。

 問題は二番目の施行令(賠償・補償)だ。 賠償・補償金の基準と申請手続き等に関する内容だ。立法予告と閣僚会議まで経てこの施行令はすでに3月29日に発効した。 3月30日、ハンギョレ21 インターネット版は、この施行令により政府が遺族たちに慰謝料として8千万ウォンを提示したという点を単独報道した。 この施行令を改正しない限り、政府のこの方針は変わらない。

 賠償・補償は真相究明の結果としてなされる政府責任の最終段階だ。 その基準につき、あらかじめ釘を刺したということは、特別委を無力化し真相究明に大きな意味は付与しないという立場を政府が宣言したものと解釈される。 1年かかって全てが元の位置に戻ってしまったわけだ。 施行令を作った海洋水産部と法律家などを取材して問題点を探ってみた。

1. 賠償・補償が多いだと?

 賠償・補償の基準を発表した海洋水産部は、過去の大型災難事故と比較したときセウォル号惨事の賠償・補償金は少なくない金額だと主張した。 1994年の聖水(ソンス)大橋崩壊事故は犠牲者1人当り1億2200万ウォン、2003年の大邱(テグ)地下鉄火災事故は1人当り1億~6億6千万ウォン、2010年の天安艦事故は1人当り2億~3億6千万ウォンだったと説明した。 これに比して、セウォル号の遺族たちは葬儀費(200万ウォン)、逸失利益(3億ウォン)、慰謝料(1億ウォン)に賠償・補償金支給が遅れたことによる遅延損害金(2千万ウォン)を合わせて4億2千万ウォン(檀園高生徒の場合)になるという話だ。

 そのため、セウォル号の遺族たちは巨額の金を受領することになったと見られている。 しかしこの金額は最低の水準だ。 政府は20年前の事件の賠償・補償金と比較して説明したが、セウォル号惨事前後に発生した大型事故と比較してみれば真の実体があらわれる。

 昨年5月、69人の死傷者を出した京畿道の高陽(コヤン)総合バスターミナル火災事件の死亡慰謝料は3億2千万ウォンだった。 逸失利益は別に策定された。 もし檀園高生徒のような高校生が犠牲になったとすれば6億2千万ウォンの賠償・補償金を受け取っただろう。 昨年2月、138人の死傷者を出した慶尚北道慶州(キョンジュ)のマウナオーシャンリゾートの事故の死亡慰謝料は3億ウォンだった。 やはり 逸失利益と保険金は別にしてだった。当時犠牲になった大学生には10億ウォン以上が支給された。

 法律家たちは、どんな基準を適用したとしても、セウォル号の遺族たちが“途方もない”賠償・補償金を受取ることにはならないと断言する。オ・セボム弁護士は「大型事故が絶えず繰り返される理由は、生命の価値を軽く見ているからだ。犠牲になった家族が生きて帰ってくるわけではないが、その価値だけでもまともに策定されねばならない」と指摘した。

2. 遺族を排除した決定

 さらに大きな問題がある。セウォル号惨事解決の最後のボタンを早々とかけてしまう過程で、政府は遺族を徹底的に排除した。これまで大型事故が発生すれば、被害者と政府、あるいは加害者側がそれぞれ損害査定者・弁護士を選任し損害を計算してきた。その差が大きければ交渉を経て最終額を決めた。

 だが、セウォル号被害救済特別法は、賠償・補償金の基準をセウォル号賠償・補償審議委員会(賠償・補償審議委)で決めることにした。 最初の会議は3月31日に開かれた。そしてその日に基準を議決した。

 賠償・補償審議委は水原(スウォン)地裁のアン・ヨンギル部長判事が委員長を務め、裁判所の行政処判事3人、大韓弁護士協会の弁護士3人、海洋水産部など関係部署の高位公務員6人、水産損害査定関連分野の専門家2人の計14人が参加した。 遺族の立場を代弁する人は誰もいなかった。 その上に、賠償・補償案草案は海洋水産部が準備した。 これを土台に賠償・補償基準が確定された。 最近の大型事故と比較してセウォル号惨事の賠償・補償金が少ない理由だ。

3. 月給は建設現場の肉体労働者水準

 その結果、最低基準で賠償・補償が決定された。賠償・補償金は(1)積極的損害(治療費・葬儀費など実際の支出費用) (2)消極的損害(働けないために失った収益)(3)精神的損害(慰謝料)を合わせて最終金額が決まる。 賠償・補償審議委は積極的損害に葬儀費500万ウォンと個人の携帯品費用20万ウォンを入れた。 消極的損害は、昨年4月16日から定年までの予想所得(逸失利益)をもって計算した。檀園高生徒は、満19歳から法定定年である満60歳までの42年間に稼いだであろう所得から生活費を引いて決定された。

 しかしながら、 ここで檀園高生徒たちに適用された予想所得の基準は、建設現場の単純肉体労働者の水準(月193万ウォン)だった。 最低レベルの収入だ。檀園高教師の犠牲者は事故当時の所得を基準として計算した。 その結果、生徒の犠牲者より賠償・補償金が3億ウォンほど多くなった。

 檀園高生徒、故パク・スヒョン君のお父さん、パク・チョンデ氏は尋ねた。「犠牲になった私達の子供たち250人は、生きていたら全員建設現場の肉体労働者になっただろうということですか?」 大韓弁協でセウォル号特別法案の作成に関わったキム・ヒス弁護士は「犠牲者生徒たちの場合、未来の可能性を根こそぎ失っただけに、被害と生活程度により賠償額を調整して別途の慰謝料も支給すべきだ」と指摘した。

檀園高生徒、故パク・スヒョン君のお父さん、パク・チョンデ氏は尋ねる。「犠牲になった私達の子供たち250人は、生きていたら全員が建設現場の肉体労働者になっただろうということですか?」

4. 慰謝料は交通事故水準

 惨事の犠牲者に対する政府の視線は、慰謝料にも現れている。当初海洋水産部が提示した草案には死亡者1人当り一律8千万ウォンの慰謝料が策定された。 2008年に作られたソウル中央地裁の交通事故慰謝料算定基準に従ったものだ。賠償・補償審議委はこの草案を1億ウォンに引き上げて議決したが、それもやはり2月に裁判所が作った交通事故慰謝料算定基準と同じ額だ。

 キム・ヒス弁護士は「あいた口がふさがらない」と話した。 「交通事故は個人と個人の間に発生した偶然な事件だ。 だが、セウォル号惨事は船舶の導入と運行、および救助過程において国家の誤りが明らかだ。 交通事故とは単純に比較できない問題だ」。 セウォル号家族対策委を支援するファン・ピルギュ弁護士は「政府がセウォル号惨事は交通事故に過ぎなかったと公言するものだ」と批判した。「政府が最近の災害・災難事件よりはるかに少ない慰謝料を提示しておいて、『これでも食らえ』と言っているわけだ」。

5. 誇張報道された賠償・補償金

 にもかかわらず、巨額の金を受取るとマスコミは報道した。 施行令に依拠するとしても檀園高生徒の賠償・補償額は最高4億2千万ウォンだが、マスコミは計8億2千万ウォンと報道した。政府が賠償・補償基準を発表する際に、その金額に国民の寄付金と保険金まで加えたためだ。 政府は「国民の寄付で用意された慰労支援金(1288億ウォン)は、犠牲者一人当り3億ウォン内外が支給されると見られる」と明らかにした。

 だが、国民の寄付金をどう配分するかを決める権限は募金した団体にある。 したがって、社会福祉共同募金会を含む各団体で寄付の配分を検討する。にもかかわらず政府は、賠償・補償基準の発表に際して「大邱地下鉄惨事や天安艦事件のような場合の国民寄付配分率を見れば、ほぼ60~70%を慰労支援金に使い、残りの金額は財団設立などに使っている」として「3億ウォン」と決めつけたのだ。

 ここに保険金を加えた。 檀園高校は修学旅行に行く前に東部火災旅行者保険に加入した。 その保険金が、生徒犠牲者は1億ウォン、教師犠牲者は8千万ウォンだ。 もちろん政府とは何の関係もない金だ。にもかかわらず「檀園高生徒・教師犠牲者1人当りの平均総受領額(推定)」を政府が発表した。「檀園高生徒(250人)8億2千万ウォン、檀園高教師(11人)11億4千万ウォン」

 こうして1人当り賠償・補償額が8億2千万ウォンという数値が出てきた。意図的に膨らませたのではないかという指摘に、海洋水産部のパク・キョンチョル セウォル号被害・補償支援団長は「マスコミ側から総支給額を言ってほしいという要求が多いため、一つにまとめただけで、特別な意図はなかった」と弁明した。

6.国家の金は入っていない

 一連の賠償・補償額の規模は大きいように見えるが、ここに投入される国家予算は事実上ゼロだ。賠償・補償金はひとまず海洋水産部の予備費から出る。 政府は人命・油類汚染・貨物を合わせて賠償・補償金規模を1400億ウォンと推算した。

 ところで、この金は国家が負担するわけではない。 パク・キョンチョル団長は「ひとまず国費から支給した後、清海鎮(チョンヘジン)海運とセウォル号の所有主であるユ・ビョンオン一家をはじめとする事故責任者に対し求償権を行使して受け取る」と話した。 すでに政府は求償権請求の準備に入った。 まず検察が裁判所に1244億ウォンの財産に対する追徴保全を請求した。 追徴保全とは、裁判所が没収または追徴の宣告に備えて財産の処分を禁止する措置だ。 民事上の仮差押さえと似ている。 法務部も財産1282億ウォンを仮差押さえした。対象はユ・ビョンオン一家だけでなく借名不動産名義者やイ・ジュンソク船長など、セウォル号の船舶職職員や清海鎮海運の役職員らの財産だ。

 清海鎮海運はセウォル号の旅客1人当り最大3億5千万ウォン、事故一件当たり合計3億ドル(約3千億ウォン)を限度として旅客賠償責任保険に加入している。清海鎮海運だけでなく、保険者である韓国海運組合が賠償責任を分け持つわけだ。 どちらに転んでもこれらの財源は充分なので、政府はいったん国費で支給する賠償・補償金を、後で全額返してもらえる状況だ。

 ここに遺族たちが憤る理由がある。 結局のところ、賠償・補償過程で国家は責任を負わない。 しかも与野党は国民の寄付金が足りなければ国庫から慰労支援金を支援することに合意したが、今回の発表過程で政府は国庫支援については全く言及しなかった。

 だが、政府も「共同不法行為者」として賠償責任を負うことになる可能性がある状況だ。乗客退船誘導をしないなどいい加減な救助活動をしたという疑いで、キム・ギョンイル前木浦(モッポ)海洋警察庁の123艇長がすでに1審で有罪(懲役4年)を宣告された。 キム前艇長の有罪が確定すれば、これに対する国家の責任も決定される。 国家にどれだけの責任があるかは求償権請求訴訟で明らかになるだろうが、ひとまず現在の賠償・補償基準作成過程ではこれに対する考慮が全くなかった。

賠償・補償金を受取り、後になって国家が犯した不法行為が明らかになった場合はどうなるだろうか。 何も変わらない。「賠償・補償金、慰労支援金の支給決定に同意すれば、国家と申請人(被害者)は民事訴訟法上、裁判上の和解が成立したとみなされる」とされている。

7.国家と和解しろだと?

 賠償・補償金の支給申請期間は6カ月で、9月28日まで申請を受付ける。 民法と国家賠償法が定めた消滅時効(3年)よりはるかに短いうえに、賠償・補償審議委は支給申請を受付けた日から120日以内に支給の可否と金額を決めなければならない。 事実調査などが必要ならば一回に限って30日以内の期間延長ができるが、長くても10カ月で賠償・補償が終わる。

 この内容は、セウォル号特別委の活動全体を事実上否定するものと解釈される。セウォル号特別委の真相調査結果はもちろんのこと、セウォル号裁判も確定しないうちに賠償・補償が終了するためだ。 特別委の活動期間は最長1年6カ月なのに、海洋水産部が3月27日になってやっと施行令を立法予告したため、まだスタートもできずにいる。セウォル号船員、清海鎮海運の役職員、キム・ギョンイル前艇長の裁判は、光州(クァンジュ)高裁で控訴審が進行中だ。

 賠償・補償金を受取り、後になって国家の犯した不法行為が明らかになったらどうなるだろうか。 何も変わらない。 国家を相手に民事訴訟を起こしても敗訴する。「セウォル号惨事被害救済特別法」(第16条)を見れば、「賠償・補償金、慰労支援金の支給決定に同意すれば、国家と申請人(被害者)は民事訴訟法上、裁判上の和解が成立したとみなす」とされている。同じ条項の入っている「民主化運動関連者名誉回復および補償等に関する法律」について、最高裁全員合議体が今年1月、賠償を拒否する判決を下した。 維新憲法に反対して不法連行され、拷問の末に「文人スパイ集団」にでっち上げられ獄中生活を余儀なくされた小説家イ・ホチョル氏が提起した損害賠償訴訟であった。 彼は生活支援金を受け取っただけだったが、裁判所は被害の一切について国家と和解したものと解釈した。

 檀園高生徒、故イ・チャンヒョン君のお父さんイ・ナムソク氏は「船体引き揚げ、真相究明もなされていないのに、賠償・補償金を受取って国家と和解しろというのか」と尋ねた。「政府の賠償・補償金を拒否し、国家を相手に損害賠償請求訴訟を起こして何年かかっても国家の過ちを明らかにするつもりだ」。

 1993年10月292人が死亡した西海(ソヘ)フェリー号事件で、政府は9910万ウォンを一括支給した。 この金額は国家の損害賠償責任がないという前提で算定されたものだった。 犠牲者10人の遺族45人はこれを拒否し、国家と韓国海運組合を相手に民事訴訟を提起し、5年かかって4億4800万ウォンを受け取った。 裁判所が国家を「不法行為者」と認め、西海フェリーと韓国海運組合が共同責任を負うべきだと判決したためだ。

チョン・ウンジュ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
http://h21.hani.co.kr/arti/cover/cover_general/39273.html 韓国語原文入力:2015-04-07 17:50
訳A.K(7523字)

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