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[ハンギョレ21 第959号] 情熱と無関心が産んだ差別禁止法「禁止」

登録:2013-06-10 00:50 修正:2013-06-10 10:07
[特集2] 2007年から2013年まで差別禁止法制定失敗の歴史…国連人権理事会理事国になった新政府の国政課題である差別禁止法制定、キリスト教会と政府の対立火種

「朴槿恵政権と保守キリスト教会の戦いを見守りましょう!」

 ツイッターID「福祉の世の中」(@jk0027)がツイートしたメンションだ。なぜ、戦うのだろうか? 理由は同じメンションの前半に出てくる。「政府が差別禁止法律案を提出すれば、再修正して提出するとのことです」キム・ハンギル、崔元植(チェ・ウォンシク)民主統合党議員が、保守プロテスタント教会の圧力に勝てずに撤回した差別禁止法案を法務部が再び提出すれば、民主党が再び補完した案を提出するということだ。当初、朴槿恵大統領の職務引継委員会は、国政推進課題として差別禁止法制定を挙げ、法務部も制定推進団を構成して政府案を用意すると明らかにしている。早ければ9月の定期国会に政府案が提出される可能性がある。国連人権理事会などが、2013年韓国に対する「国家別定例人権検討」(UPR)で「包括的差別禁止法」制定を勧告し、韓国政府が立法を約束したので、差別禁止法制定は先送りしにくい状況だ。しかも韓国は今年、国連人権理事会理事国として活動を始め、責任感がより大きくなった。もし、差別禁止法にプロテスタント教会がこれほどまでに反対する「性的嗜好」に関する差別禁止が明記されるならば、「朴槿恵政権」と「保守キリスト教会」が対立する厄介な事態が発生するかもしれない。

差別禁止法制定連帯の活動家が、4月22日午前ソウル汝矣島(ヨイド)の国会前で記者会見を行い、差別禁止法撤回中断を促した。しかし3日も経たずに法案撤回が済まされた。国会議員が発議した法案を撤回するケースは非常に珍しい。ハンギョレ キム・ジョンヒョ記者

2013年スローガンは「従北ゲイ

2007年から2013年まで、人権の時計は逆に回った。2007年の盧武鉉政権末期に法務部は、差別禁止法制定を予告した。反発は同じだった。同性愛者など性少数者差別禁止を意味する「性的嗜好」を差別禁止例示項目に入れることに、プロテスタント陣営が強く反発した。結局、2008年に発議された法案は「性的嗜好」などを差別禁止項目から削除し、「つぎはぎ差別禁止法」との批判を招いた。その上、政権末期に「免責用」に発議された案は、第17代国会任期が終わり「自然死」した。

 教会の権能はますます大きくなった。 2007年、差別禁止法反対運動は「嫁が男だなんて、同性愛とは何たることだ」との伝説的なスローガンを残した。2013年のスローガンは、「従北ゲイ」に要約される。北韓は同性愛者の存在さえ否定するが、「従北」と「ゲイ」が南側では一体を成した。超宗派市民団体を標ぼうするが、プロテスタント教徒が中心をなす「正しい性文化のための国民連合」が配布した動画『差別禁止法の隠された真実』は、このように語る。「国を愛する愛国者よ! 北韓が核で挑発している今/私たちが『差別禁止法』を防がなければ/国家保安法が無力化されて従北勢力によって結局、南ベトナムのように滅びることになるだろう/私たちの青少年は、同性愛で病気にかかって自殺することになり、逆差別によって社会的共感を持つ大多数の国民が犯罪者になるだろう/南南葛藤を起こして社会的混乱を引き起こす北勢力に、巻きこまれてはならない!」差別禁止法が通過すれば「牧師が説教時間に同性愛を批判しても罰金を科されることになる」のような話が流布された。さらに「米国で同性愛法が通過した州では、小・中・高など学校の性教育の時間に、同性間性行為(肛門性交)を一緒に教えている」のような、検証が必要な事例も入っている。

実は、差別禁止法は強力な処罰条項を備えた法律ではない。差別を受けたと考える人が国家人権委員会に陳情をして調査される過程で、陳情人に不利益な措置が取られた場合に罰金を科す程度だ。間接差別、いじめなどに対する条項があるが、その実効性は立法内容により大きく変わる。しかし、プロテスタント教会が感じる危機感はすごかった。差別禁止法が発議されるや「宗教の自由」を心配して、街頭集会を開き、4万枚のビラを配布して、1千万人署名運動を行う情熱が広がった。さらに、「反同性愛」キャンペーンを通じて、分裂した教会が再び一つになる「教会一致」の流れも現れた。昨年、役員選出過程で対立して組織が分離した韓国キリスト教総連合会(韓基総)と韓国教会連合(韓教連)は、「差別禁止法反対」で足並みをそろえた。

プロテスタント教会進歩派NCCKの沈黙

 太平洋を越えた米国の韓国人教会も、韓国の差別禁止法反対運動を行った。韓国プロテスタントは、生まれた時から米国の強い影響を受けた。中絶と同性愛を社会悪と見なす米国式原理主義教会の影響が、韓国の差別禁止法反対にも強く刻み込まれている。しかし、米国で保守教会が多数派の一つとすれば、韓国では圧倒的多数だ。同性愛反対に関しては中立地帯が見られない。韓国キリスト教教会協議会(NCCK)所属教団である大韓イエス教長老会統合(イ長統合)は、3月に京畿道平沢(ピョンテク)市の双龍(サンヨン)自動車鉄塔の前で、「双龍自動車解雇労働者のための祈祷会」を開いた。このような「治癒と和解」を強調したイ長統合は4月、「性アイデンティティーに対する差別禁止は、普遍的倫理に深刻に反する条項」として、差別禁止法反対声明を総会長名義で発表した。ここにプロテスタント教会進歩というNCCKの沈黙が深まる。

 ここで再び戻って、「従北ゲイ」という同居不可能な組合は、いかにして出てきたのだろうか。差別禁止法反対の先頭に立つプロテスタント団体として名前がしばしば挙がるエステル祈祷運動、聖市化運動本部、議会宣教連合などのウェブサイトを調べよう。エステル祈祷運動掲示板には「差別禁止法案が撤回されました」「連邦制統一…あなたの選択は?」のような書き込みが、並んで表示されている。聖市化運動本部のウェブサイトにも「韓国宗教界同性愛・同性婚国会立法阻止非常対策委員会 記者会見」「韓半島平和と統一のための救国祈祷会」の書き込みが並んでいる。全く関連ないように見える差別禁止法反対と北脱出者に対する林秀卿(イム・スギョン)民主党議員の発言を糾弾する声明に、エステル祈祷運動、明るいインターネットの世の中作り運動本部のような団体の名前が同時に出てくる。反北韓・反同性愛は、「愛国キリスト教」の活動により、このように一つになった。ハン・チェユン韓国性的少数者文化人権センター代表は「2010年に軍刑法の同性愛条項改正が議論された頃、枯れ葉剤戦友会などの団体が反同性愛陣営と結合して、『同性愛が国家安保を揺さぶる』というフレームが出てきた」と分析した。

衆口難防に分裂した民主党の見苦しい姿

 韓国をキリスト教倫理の最後の砦と自任する自負心も加わる。「正しい性文化のための国民連合」が配布した小冊子「同性愛に対する不快な真実」は、このように主張する。「米国のいくつかの州とヨーロッパなどの数か国で同性愛を認める法律が作られたことは事実だが、同性愛を認める国々は、ポルノを合法化して性的に堕落した国だ。韓国が極めて重要な位置にあると見る。なぜならば、多くの国家が経済的に富裕になる中で性的に堕落した。現時点で経済的に裕福でありながら、それでもある程度の健全な性倫理を持つ国家が韓国だ。ゆえに、経済的に裕福でありながらも健全な性倫理をよく維持する模範国家にならなければならない」。この文章からは、自負心と共に危機感も伺える。韓国にキリスト教を伝えた米国でも同性婚が広がると、消滅していく価値を守る国は「選ばれた国」である韓国しかないとの考えが、同性愛反対の情熱には横たわっている。差別禁止法反対を代表するプロテスタント組織は「韓国宗教界同性愛・同性婚国会立法阻止非常対策委員会」であるが、名前からして、韓国にない現実である「同性婚立法」と戦っている。

 「韓国宗教界同性愛・同性婚国会立法阻止非常対策委員会」の常任代表は、民主党議員出身の金泳鎮(キム・ヨンジン)長老だ。差別禁止法問題を見れば、民主党は「虹政党」と再評価される。ホン・ソンス淑明女子大学法学部教授は「少数者関連の立法を推進する時は、多数の立場を説得する論理と戦略がなければならない」と指摘した。民主党議員は、2008年の廃案の経験が何を意味するのか理解もできず、関心もなかった。差別禁止法案が発議された後に初めて、性少数者団体もその事実を知ったほどだ。準備不足の発議は、性急な撤回で終わった。ホン教授は「朴槿恵政権の国政課題に入っているならば、少しだけ政治力を発揮すれば、セヌリ党も説得できるはずだった」と指摘した。差別禁止法共同発議者として署名した金振杓(キム・ジンピョ)議員は自己矛盾の象徴だ。彼は2012年の大統領選挙を控えて、民主党宗教特別委員会のキリスト教委員長資格で「同性愛・同性婚を許容する法律が制定されないように、すべての努力を全力投球することを約束する」と話した。このような彼が、キム・ハンギル議員の差別禁止法に共同発議者として署名した。再び反転、最近、彼は「同性愛・同性婚が許される法律が制定されないように努力する」というメッセージをプロテスタント教会の人々に送ったことが分かった。

 軍刑法92条に対する民主党の分裂は、次第に佳境に入っている。差別禁止法撤回の論議の真っ最中に、軍事裁判所所長出身の閔洪喆(ミン・ホンチョル)民主党議員は、軍刑法92条改正案を出した。違憲との論議が起きた軍刑法92条の「鶏姦」項目を「肛門性交」に変えた改正案が、金光珍(キム・グァンジン)民主党議員の発議で今年3月に通過した後であった。閔議員が出した「軍刑法一部法律改正案共同発議要請」によると、92条6項の名称が「醜行」から「同性間の姦淫」に変わる。 内容も「軍人または準軍人に対して肛門性交やその他の醜行を行った者」が、「軍人または準軍人が同性間で肛門性交や口腔性交、その他類似性行為をした場合には」との文面に代替される。このようになれば、同性間で合意した性行為も、2年以下の懲役に処される可能性が高くなる。処罰対象も、男性同性愛から女性同性愛にまで拡大する。この条項を『同性愛者の性的自己決定権を侵害して違憲』と批判してきた性少数者団体は4月25日、民主党前で記者会見を行い、改正案の撤回を主張した。一方、ある民主党議員は、軍刑法92条廃止案を準備中だった。これに先立ち金光珍議員の改正案が出てきた当時、ナミュン・インスン民主党議員による、合意した性関係は処罰しない案も出てきた。このように一つの条項に対して4つの法律案が出てきた民主党は、真の多様性が保障される衆口難防[訳注:『多くの人に話すのをやめさせるのが難しい状態』の意味]の「虹政党」だ。

「性少数者差別反対 虹行動」活動家が4月25日、ソウル永登浦(ヨンドンポ)の民主統合党事務所前で、閔洪喆(ミン・ホンチョル)議員が発議を準備中である軍刑法92条改正案の撤回を要求する記者会見を行った。差別禁止法撤回事態の最中に起きたことだ。ハンギョレ タク・キヒョン記者

プロテスタントの背後で笑う財界とセヌリ

 強力な反対者とさまよう政党があるが、差別禁止法賛成の世論は広がらない。女性・障害者などと共存する「差別禁止法制定連帯」があるが、賛成世論を組織する負担は、性少数者団体が大きく負っている。これは「異常な国」の現象だ。差別禁止法制定の必要性は本来、労働界から出る。他国の事例を見ると、差別による解雇を争う過程で、これを判断する法的根拠の必要性が先に提起される。公益人権弁護士会「希望を作る方法」のハン・カラム弁護士は「多くの国で労働界が50%、女性界が30%、少数者が20%の役割を果たした」と伝える。だが、今、労働界は非正規職問題の解決も手に余り、差別禁止法に関心を傾ける余力も、意志もないように見える。ところが、プロテスタントが強く出た今が、かえって機会との意見もある。ハン・チェユン代表は「韓国には差別は存在するが、よく見えていなかった」として「差別禁止法の発議さえ遮るプロテスタントのために、差別の実体が現れたし、重要な社会的議題になった」と話した。ハン・カラム弁護士は「問題の核心は、憲法上の政教分離の原則が揺れているということ」としながら「宗教的信念や圧力が、政策に反映されてはいけないという公職者倫理の問題だ」と指摘した。このような差別禁止法論議の背後で笑っている人々もいる。2007年、法務部の差別禁止法推進に強く反発した韓国経営者総協会など財界は、2013年の論議では見えない。「差別禁止法が企業活動の自由を制約する」と再び主張する必要もなしに、プロテスタント教会が代理戦を行っているためだ。民主党がプロテスタントの攻撃を受ける状況を楽しむセヌリ党もいる。

 差別禁止法撤回が伝えられた頃の4月23日、フランスでは同性結婚法案が通過した。法案が可決される頃、反対する人々が議事堂に入ってきて、ヤジを浴びせた。クロード・パルトロン フランス下院議長は彼らに向かって「あの狂った人々を国会から追い出して下さい。民主主義の敵は国会に入って来ることはできません。追い出して下さい!」と話した。彼は法案上程前日に、銃の火薬が入った脅迫手紙を受け取った。どこが一流国家で、誰が有能な政治家なのか?

シニュン・ドンウク記者 syuk@hani.co.kr

http://h21.hani.co.kr/arti/special/special_general/34442.html 韓国語原文入力:2013/05/06 00:00
訳M.S(5720字)

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