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「中国、より多くの分野でファーストムーバーに…韓国製造業は危機」

登録:2025-06-02 00:03 修正:2025-06-02 10:59
アン・ソンヒ論説委員の直撃インタビュー|金融研究院のチ・マンス先任研究委員 
 
中国は14億の内需市場のおかげで新産業での競争力確保がスムーズ 
ロボットなどの新技術のおかげで労働集約産業でも優位維持 
韓国製造業は「将来の収益源」探しで厳しい状況へ 
 
米中妥協、100%を超える関税は双方が無理 
これからが本格交渉…長く過酷な過程に 
米国は離脱したがグローバル化・自由貿易時代は終わらない
韓国金融研究院のチ・マンス先任研究委員が22日、ハンギョレ新聞社で、中国の技術の勃興、米中関税戦争などについて語っている=キム・テヒョン記者//ハンギョレ新聞社

 今年1月、中国のスタートアップが開発した人工知能(AI)モデル「ディープシーク」は、全世界に衝撃を与えた。高性能チップを使わずに低コストで生産されたにもかかわらず、性能は米国企業「オープンAI」の開発したChatGPTに匹敵すると評されたからだ。中国の「技術の勃興」がどれほどの水準に達しているのかを示す象徴的な場面でもあった。AI分野だけではない。中国は自動運転やロボットの分野でも世界のトップランナーとして浮上している。中国企業の比亜迪(BYD)はテスラを抜いて電気自動車(EV)の世界市場でシェア1位となる見通しだ。バッテリー、太陽光パネル、ドローン市場でも中国は圧倒的なシェアで1位を誇っている。中国が低価格の工業製品で世界市場を占領した2000年代初めは「チャイナショック1.0」時代、先端産業分野へと攻勢を広げている現在は「チャイナショック2.0」時代と呼ばれている。米国は、このような中国の浮上をけん制するために「中国叩き」を続けている。トランプ政権は先月、中国に対する関税率を145%にまで引き上げ、中国もこれに対抗して米国に対する関税率を125%にまで引き上げた。だが、先月12日に両国は交渉でそれぞれ30%、10%へと関税率を引き下げ、様子見の状態だ。

 5月22日、ハンギョレは本社で韓国金融研究院のチ・マンス先任研究委員にインタビューし、中国の技術の勃興、米中覇権戦争、関税戦争などについて聞いた。チ研究委員は金融研究院でグローバル経済安保研究センター長を兼任しており、中国経済、米中関係、経済安保などを研究している。ソウル大学経済学科で博士号を取得し、LG経済研究院、対外経済政策研究院などでの勤務歴を持つ。文在寅(ムン・ジェイン)政権では大統領秘書室経済政策秘書官室の先任行政官、国民経済諮問会議の対外分科長を歴任。現在、外交部の経済安保外交分野の諮問委員を務める。

-5月12日に米国と中国は関税交渉を行い、145%(対中関税率)、125%(対米関税率)にまで引き上げられていた関税率を30%、10%に引き下げた。米中がこのように妥協したのはなぜか。

 「両国が互いに強硬に対峙(たいじ)していたことを考えれば、予想を上回る妥結だと言える。だが、一歩引いて眺めれば、単に4月2日に戻ったに過ぎない。4月2日は、米国が中国(34%)をはじめ、数十カ国に相互関税を課した日だ。そして4月9日には相互関税を90日間猶予し、各国と二国間交渉を行うことを発表した。5月12日には中国に対しても30%を適用したうえで90日間の交渉に入ったという点で、その他の国と同じになったのだ。ただしその他の国と異なるのは、その途中で互いに関税を引き上げ続けるという「関税エスカレーション」があったこと。それが偶発的だったのだ。一種の神経戦のせいで145%、125%にまで上がってしまったが、これは両国の企業にとって受け入れられない水準だった。事実上、輸出禁止と同じだ。関税エスカレーションが双方に迅速な解決を迫った面がある」

-では、両国の関税戦争が終わったわけではないということか。

 「これからが始まりだ。本格的に始まる前に企業が感じる負担を軽減したのだ。しかし、今回の妥協は今後の交渉の構図に影響を及ぼすだろう。米国の弱さを示したからだ。もし145%の関税率が続いていたら、ブラックフライデーとクリスマスのための商品の注文ができず、ウォルマートのおもちゃ売場は空っぽになっていただろう。それは米国にとって政治的に受け入れられない。したがって今後、米国が中国との二国間交渉の過程でさらなる関税をレバレッジとして使っても、中国は受け入れなければ済むということを示した」

-90日間でどのような交渉が行われることになるか。

 「中国の非関税障壁について話すことになるだろう。第1期トランプ政権時代の2018年の第1次貿易交渉では、知識財産権の問題に集中した。そして、双方ともその時の合意通りに大きく変わったと主張している。中国の立場からしても、もはや技術を持つ国の仲間入りを果たしたため、知的財産権の保護措置の強化は必要だ。しかし、今はそのようにウィンウィンとなりうる争点があまり残っていない。今後は中国政府が企業に与えている様々なかたちの補助金が問題になるだろう。これは中国の立場からすると、中国の経済体制の長所だ。習近平体制でむしろ強化されており、それをなくせと言われても受け入れるのは容易ではない。国家主導の経済体制を弱体化させる非関税障壁には手をつけにくいということだ。そのため、長い交渉過程になるだろうし、90日以内に妥結できないということもありうる。ただし、米国が政治的な理由などで早期妥結を望んだ場合は、米国のメンツを立てる輸入の拡大や対米投資の約束をして終える可能性もある」

-トランプの関税戦争によってグローバル化時代は終わったという見方がある。

 「米国第一主義は、グローバル化時代に米国が先頭に立って追求してきた価値からの米国自身の離脱だ。主導した国が離脱したのだからグローバル化時代は終わったと評されるのも理解できる。しかし、米国第一主義ができるのは米国だけだ。関税戦争や保護主義を米国以外の国同士が行う可能性があるかどうかが問題だ。欧州連合(EU)と中国が貿易戦争をする理由、経済的インセンティブがあるかを考えると、それはない。ならば、米国以外の地域では既存の自由貿易構造が維持されるとみるのが正しいだろう。米国との貿易でのみ関税という手数料を払って貿易するわけで、それをあえてグローバル化と自由貿易の時代の終えんとまで呼ぶべきかは疑問だ」

-米中で覇権競争が行われているという多くの分析があるが。

 「覇権競争と表現するにはまだ早いと思う。まだ『米国による中国けん制』、そう言った方が適切だ。覇権競争が起こるには、中国がさらに大きくならなければならない。米国のけん制を中国が耐え抜いて生き残れば、その時こそ本当の覇権競争が行われることになるだろう。

 中国の成長率は高齢化、不動産市場の低迷、米国のけん制などのせいで下がり続けている。現在は年5%ほどだが、アジア開発銀行(ADB)の報告書によると、2040年ごろには2%にまで下がる。米国の長期の平均成長率は2%だ。中国の成長率が2%になった瞬間、米国と同じになる。それは、米国に対する中国の地政学的追撃も終わることを意味する。それは、米国と中国が『定常状態(steady state)』、すなわちすべての経済指標が同じスピードで進み続けて均衡が保たれる状態になるとみなせる。中国が米国(の国内総生産)の80%でそのような状態になることもありうるし、120%の可能性もある。中国が望んでいるのは、できるだけ高い水準にしておいてから定常状態になることだ。中国の考える覇権競争はその時からだろう。その時から、どちらかがもう一方を追撃するという関係ではなく、どちらがよりうまくやれるかという競争が始まる」

-定常状態に到達した時、どちらがリードしていると考えるか。

 「これまでの傾向が続けば、中国は米国の90%ほどにとどまるだろう。しかし、90%だからといって覇権競争が起きないわけではない。歴史的にも、それほどの水準に到達した国はなかった。しかし米中覇権競争は、思ったより安定的なものになる可能性がある。米国が持っているものと中国が持っているものが異なるからだ。中国は製造業とサプライチェーンを持っている。米国はドル、金融、軍事力を持っている。互いが強い部分では衝突というより妥協するだろうし、その中間にある対等な部分では競争するだろう」

-中国の産業の勃興、技術の勃興についての議論が盛んだが、実際にどれほどの段階にあるとみるべきか。

 「研究開発費、特許、論文などの様々な指標をみると、中国の浮上は恐ろしいとか、半導体を邪魔しても全部作り上げてしまうだとか、AIも対等な水準だというような話が、よく言われる中国の技術追撃だ。中国の技術が米国の足元まで来ているのは事実だ。しかし、今後の世界経済により大きな影響を及ぼすことが2つある。

 1つ目は、ロボットやAIを中心とした技術発展が、グローバルバリューチェーンの中で中国の比較優位構造を変えつつあるということ。衣類、家具、玩具などの労働集約的な産業がロボットなどと結び付けば、もはや労働集約的ではなくなる。ロボット集約的、資本集約的な産業となる。それらの持つ地政学的な意味は、『ポストチャイナ』が生じないということ。労働集約的産業が下りていって後発国が発展してきたのが、20世紀以降の経済史だ。だが、中国の労働集約型産業の輸出額は今も増え続けている。輸出に占める割合も、韓国、台湾、日本は0%台だが、中国は14%台を維持している。1人当たりの国民所得が1万4千ドルの国がそうすることはできない。中国は技術と資本力によって、労働コストにより労働集約的産業の比較優位が決まる構造そのものを変えつつある。

 2つ目は、新産業のパラダイムも変わりつつあること。20年前には存在せず、今は非常に増えているものを考えてみよう。それは、このかん巨大な市場が作られてきたという話だ。太陽光パネル、風力タービン、電気自動車、バッテリーなどがあるだろう。これらの1位市場、1位企業ををみれば、すべて中国だ。20年間で人類が新たに作り出したカネになる新産業は、すべて中国が掌握しているということだ。それは、今後もその可能性が高いということを意味する。中国は他国ではなく自国の内需のために物を作れる。14億の人口がものすごいシナジー効果を発揮する。何かに対する新しい市場が作られはじめれば、今や中国で最も大きな市場が形成される。そして、その市場と結び付いた産業やエコシステムも中国で形成される。韓国は海外市場に輸出しようとするとあらゆる障壁を突破しなければならないが、中国はまず自国の内需市場を育てれば自然と産業が成長し、企業が規模の経済の恩恵にあずかれる。すると輸出競争力が生まれ、そうなった時に外国に出ていくわけだ。

 労働集約型産業と新産業、2つの産業のパラダイムがいずれも中国によって変わりつつある。現在は中国が全世界の製造業の30%を占めているが、十数年後には40%にまで上昇している可能性が高い」

-そのようなパラダイムの変化が韓国の製造業に及ぼす影響は。

 「企業には将来の成長の糧、収益源がなければならない。将来の収益源が絶たれるというのは、成長のビジョンが消え去るということだ。将来の収益源は必然的に新産業となる。だが、そのような業種のファーストムーバー(first mover、先導者)は、先に述べた理由で、ますます中国になる可能性が高い。中国がファーストムーバーになると、韓国はファストフォロワー(fast follower、速い追撃者)になるのも難しい。ファストフォロワーは、韓国よりも先進国がファーストムーバーの時にのみ可能なモデルだ。韓国の方が生産コストが安ければこそ追いつけるものだが、韓国は中国よりも生産コストが高い。だから今、韓国の産業の成長モデルは根本的に危機に直面している。中国による製造業掌握は韓国製造業にかなりの衝撃となりうる」

-韓国では「韓国は中国に追撃されている」といった議論が盛んだが、すでにその段階ではないということか。

 「現実とかけ離れた言説だ。中国は多くの分野ですでに韓国の先を行っている。しかし、そのような言説が正しいように感じられるのは、一種の『トンネル視野』(周りが見えず視野が狭くなること)のせいだ。私たちが中国をみる時、常に注視する産業は半導体、造船、電気自動車、バッテリーなどだ。韓国が世界で最も得意とする品目だ。私たちは韓国の代表的な大企業が最もうまくやっているものを中心に中国をみる。そのため、韓国が中国に追撃されているという錯視が生じるのだ。研究開発を多くおこなっている世界の2500の企業を業種別に見ると、中国の方が韓国よりはるかに多い。金額で見ても、サムスン電子の含まれる電気電子業種が唯一、同水準だ。とちらがどちらを追撃しているのかを示している。特に最近浮上している新産業を基準とすれば、AI、ロボット、ドローン、太陽光パネル、自動運転など、中国の方が韓国より強い領域の方がはるかに多い」

-では、韓国はどのように対処すべきか。

 「世界の製造業は中国や東北アジアを中心に発展し続ける可能性が高いため、その東北アジアにすでに形成されている分業構造、中間財を中心とする産業内貿易構造が円滑に作動し続ければ、ある程度は中国と共に成長していける。今、中国と韓国は中間財を輸出しあっているが、その構造を維持しようということだ。互いに関税や取引コストもより引き下げ、企業同士のネットワークも強化すべきだ。韓国の輸出品は中間財と資本財が85%を占める。中間財と資本財の顧客は「工場」だ。韓国の輸出市場はグローバル製造業だということだ。これまでは中国の製造業が韓国にとって脅威となる側面を中心に語ってきたが、一方では、中国市場が成長し続ければ、韓国に近いところで韓国市場がこれからも活力を保ちつつ回っていくということだ」

アン・ソンヒ論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/1199727.html韓国語原文入力:2025-05-28 07:00
訳D.K

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