先月28日、シャオミ(Xiaomi)の初となる電気自動車(EV)「SU7」が公開された。雷軍最高経営責任者(CEO)は発表で、他社のEVを上回る性能と、4400万~5500万ウォン(約490万~610万円)という破格の価格を提示した。自動車業界に衝撃を与え、韓国の自動車コミュニティでは、実現可能な性能なのかという論議も起こった。
最も注目されたのは1回の充電での走行可能距離だった。後輪に299馬力のモーターを搭載した標準モデルは、BYDの73.6キロワット時のバッテリーを搭載し、中国の認証基準で700キロメートルを走る。世界最大のバッテリー供給会社である中国のバッテリー企業CATLの94.3キロワット時のバッテリーを用いたプロモデルは、走行可能距離が830キロメートルに達する。最上位モデルであるマックスは、前後2つのモーターで675馬力、CATLの101キロワット時のバッテーリーで800キロメートルを走る。
プロとマックスは、充電速度が速い800ボルトのシステムを搭載し、マックスのバッテリーを残量10%から80%まで充電するには、19分かかるという。同様の800Vシステムと99.8キロワット時の容量のバッテリーを搭載した起亜のEV9では24分要するのと比較しても速い。韓国のEVの全費用の評価基準は高く、中国の認証距離に比べ80%しか韓国で認められないとしても、基本モデルが560キロメートル、プロは664キロメートルを走ることができるわけだ。1億1535万ウォン(約1300万円)であるテスラの「モデルS AWD」が現時点での韓国の基準で最も長い555キロメートルを走る。5080万ウォン(約560万円)と近い価格である起亜の「NIRO PLUS」の基本モデルが392キロメートルを走れることと比較すると、シャオミのS7の価格と性能が驚くべき水準だということが分かる。
■製造経験は3年でも特許は800件
これらの仕様は、シャオミのEV製造経験が3年と非常に短いため不可能だという主張もある。しかし、ハイ投資証券の資料によると、シャオミは2012年からスマートクルーズ・コントロールやデーター処理など、EVと自動運転に関する800件を超える特許を保有していることが分かった。さらにシャオミは、2014年に中国のEV企業である蔚来汽車(NIO)に3億ドルを投資し、2016年には別のEV企業である小鵬汽車(シャオペン)にスマートキーのソリューションを提供するなど、EV関連の様々な技術を長きにわたり開発したりもしてきた。
これには、中国の産業の特性が大きな影響を及ぼした。KAIST技術経営専門大学院のパク・ジョンギュ兼職教授は「海外技術をすばやく学び、モジュール化を通じて完成品をスピーディーに作るのが中国の特徴」だと説明する。中国は、外国企業が中国内に自動車工場を建てる場合は、必ず中国企業と合弁会社を作るようにさせていたが、テスラには自社工場の設立を許可した。最新のEV製造技術を学べるという条件をつけた例外的な措置だった。中国政府は、関連の自国企業に巨額の補助金と研究費を支給したのはもちろん、車の販売と登録にも関与してEV市場を拡大した。EV販売世界1位のBYDとNioなどの成功には、そうした背景がある。
パク・ジョンギュ教授はまた、市場で認められた近い規格の良い部品を集め、様々な製品をすばやく開発して販売する中国特有の産業文化も挙げた。実際、シャオミのS7の「モデナ」と呼ばれるプラットホームには、ドイツの世界的な自動車部品企業などの部品を用いた。車体安定化装置やブレーキ・コントローラーにはボッシュ、加速度センサーなどの走行補助部品はコンチネンタル、可変式ダンパー(振動を減らす装置)にはZFの部品を使った。操向装置は米国の自動車部品業者のネクスティア・オートモーティブ製だ。
これは、自動運転関連の装置でも同じだ。マックスモデルには車周辺に14個のカメラと短距離超音波レーダーを12個、前方に長距離レーダーと後方側にはレーダー2個、屋根の上にはライダー(レーザーで周辺の物を識別する装置)まで備えられてる。そこで集めた情報は、NVIDIA(エヌビディア)の自動運転専用チップであるDRIVE Orinチップ2つが処理する。
■初日の予約、今年の生産可能台数を超える
2013年から、中国のグーグルと呼ばれるバイドゥはもちろん、自動運転技術開発企業「Pony.ai」などが中国全域でロボットタクシーを運営して、データを蓄積している。バイドゥのロボットタクシー500台が、2023年に武漢だけで73万件のコールを受けたが、これは米国の自動運転自動車開発企業であるウェイモが70万件の走行をしたことに匹敵する。1月、米国フィナンシャル・ニュースが報じた。中国が自動運転技術で数年以内に米国を追い越すという見通しもある。実際にシャオミは、2017年からバイドゥと人工知能(AI)関連の協業を発表している。自動運転関連のハードウェアにバイドゥのデータが加われば、強大なシナジーを生みだす可能性が高い。
シャオミのEVは、アップルがEV事業を放棄したことと相まって、さらに大きな話題になった。アップルカーは、iPhoneやAppleTVなどと結びついた生態系を構築し、既存の自動車会社と差別化された顧客経験を与えることが可能だとして、期待を集めた。しかし、自動運転技術の進展の遅れと、外部に生産を委託しようとする方針が重なり、事業を放棄したというのが専門家らの意見だ。一方、シャオミのSU7の運営システムは、これまでに販売した様々な家電製品の基本運営システムと互換している。アップルができなかったことをシャオミが成し遂げたようにみえる点だ。
シャオミのEVに対しては懐疑的な見方もある。SY7に試乗して事故が起きた動画が出てきた。委託生産先の北京汽車には過去に品質問題があったという指摘もあり、価格自体が非現実的に安いという評価もある。シャオミのEV発表をみて、イソップ童話の『虚飾で彩られたカラス』を思い出した人が多かっただろう。良いものをすべて使い仕様上は派手なSU7が、他人の羽毛で鳥の王になろうとしたカラスのようにみえるということだ。
しかし、実際に公開された内容は、現在のEVから段階的に発展したものであるため、不可能なものではない。中国は2023年に自国内だけでEVを750万台販売した。米国(120万台)と欧州(150万台)のEV販売量の合計を軽く超える数だ。SU7は発売後わずか1日で9万台近く契約されたが、これは今年の生産台数である6万台をすでに超えている。今後2~3年間は中国内だけで販売し、年間100万台以上の安定した生産能力と経験を積むことになるだろう。初期の問題が消えた車を安定した大量生産で輸出することになった場合、韓国にとっての本当の脅威が始まるだろう。完成度が高く価格まで安い中国製EVは、輸出比率が高い韓国の自動車会社はもちろん、バッテリーなどの関連産業を揺るがす可能性が高いためだ。何ごとも最初から満足な結果が出るわけはないのだから、甘く見てはならない。中国製EVに対する冷静な分析と適切な対応が必要だ。