ソウル西大門区梨花女子大学前で飲食店などを運営し20年近く働いてきた50代のKさんは8月、中国政府が韓国への団体旅行を許可した時、期待が大きかったという。2017年の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備をめぐる軋轢と、2020年の新型コロナウイルス感染症の大流行で途切れた中国人観光客が戻り、商圏が回復すると考えたからだ。
しかし、このような期待はすぐに失望へと変わった。Kさんは「観光バスに乗って十数人が団体で爆買いし、大勢で飲食する風景は依然として見当たらない」と語った。実際、11日、梨花女子大学一帯は週末にもかかわらず閑散としていた。たまに恋人や家族連れの中国人観光客が梨花女子大学の校庭で写真を撮る姿が見えるだけだった。
中国が今年8月に韓国への団体旅行を許可してから3カ月が経ったが、期待を集めた「ユーカー」(遊客、中国人観光客)効果は現れていない。中国人観光客の旅行客が従来の団体観光中心から個別観光へと変わり、消費パターンも変わったためとみられている。
15日、韓国観光公社の観光統計によると、今年8月から9月にかけて韓国を訪れた中国人観光客は52万3599人。これは昨年同期(5万9779人)の8.7倍に達する水準だ。世界的に新型コロナの拡散傾向が収まったうえ、中国が6年5カ月ぶりに韓国への団体旅行を許可したことによる影響といえる。中国は2017年3月、THAAD配備に対する報復として、韓国行き団体へのビザ発給を停止した。
中国人観光客は新型コロナの大流行時期より爆発的に増えたが、ユーカー特需には至っていない。韓国免税店協会の統計によると、9月の外国人売上高は1兆804億ウォン(約1250億円)で、昨年同期(1兆6527億ウォン)より34.6%減少した。
かつて「爆買い」の観光客だったユーカー特需を享受した関連業界の最近の実績もこのような状況を反映している。ホテル新羅は今年第3四半期の免税部門で、163億ウォン(約18億8400万円)の営業損失を出しており、同期間中にLG生活健康とアモーレパシフィックの営業利益も前年同期に比べそれぞれ32.4%と8.2%減少した。
一方、従来の中国人観光客の主な消費先ではなかった大型ディスカウントストアやコンビニの売上の比重が大きくなる様相を見せている。BCカード新金融研究所が分析した中国ユニオンペイ(銀聯カード)の国内消費データによると、2019年の中国人カード売上額の63.1%を占めた免税店の比重は、今年は半分近くの35.9%に減ったが、同期間中に大型ディスカウントストアの売上額の比重は1.3%から3.8%へと2倍以上増えた。過去の売上比重上位10業種に入らなかったコンビニの売上額の比重も1.5%で、化粧品売上額(1.1%)の比重を越えた。免税店やデパートで高級品を買い漁っていた過去の中国人観光客の旅行パターンに変化の兆しが見えている。
国内の旅行業界は、中国人旅行客の形態が団体観光から個別観光に、爆買いから実利型に変化を遂げているとみている。特に、中高年層とは異なり個別旅行を好む中国のMZ世代の観光客が増え、このような流れが加速化しているという分析だ。
慶煕大学ホテル観光大学のチェ・ギュワン教授は「ソーシャルメディアや旅行プラットフォームの使用が増え、国内外を問わず決まった経験よりは自身が経験を選択できる個別旅行客が多くなっている」としたうえで、「彼らを収容できるよう政府や関連業界がKコンテンツと連係した旅行商品を用意するなど、観光商品の多角化に乗り出さなければならない」と語った。