「薄氷を踏む思いです。みんな様子見しています」
国民銀行スター諮問団のチョン・ソンジン江南スターPBチーム長は3日、本紙に対し、最近の現場の投資の雰囲気をこのように語った。同氏は「既存の投資が損失を出しているため、さらなる資産購入は非常に慎重な雰囲気」だとし「短期の預金や積金に資金を待機させておく動きもある」と述べた。
この2年近く韓国社会を沸かせた「資産投資ブーム」は幕を下ろすのだろうか。借金してでも投資しなければならないと言われていた積極的な投資ブームには、明確な変化が見られる。不動産、株、コインなどの投資資産の価格を支えていた超低金利の流れが止まったことで、さらなる融資と投資を自制し、できるだけ貨幣性資産を確保しようという様子見の姿勢がはっきりと表れている。金の流れが変わったことで、投資家の行動に変化が起きているということだ。これについて一部では、市中の資金が危険資産から安全資産へと移動することを意味する「リバース・マネームーブ」現象だと指摘する向きもある。遅れて投資ブームに乗り、損失を被って身動きが取れなくなっている人も少なくない。
■冷え込む投資心理
昨年下半期から徐々に下降曲線を描いてきたKOSPI(韓国総合株価指数)は、この1カ月で11%も暴落した。一時は2600台を割り込む場面もあった。上昇を謳歌していた不動産市場も、今年に入って様変わりしている。ソウルのマンション売買価格は昨年末から上げ幅が縮小していたが、先月24日現在の週間平均価格は対前週比で0.01%下落した。2020年5月25日以来1年8カ月ぶりの「平均価格の下落」だ。このような資産市場の雰囲気の反転は、予想より激しい物価上昇や資産価格バブルへの批判に対応し、米国などの主要国の中央銀行が緊縮へと舵を切ったことによって生じた現象だ。
資産市場が揺らいでいることから、投資心理も冷え込んでいる。大口資産家とよく接し、投資現場の雰囲気をよく知る主要金融企業のプライベートバンキングの職員は「資産購入に積極的だった投資家が、できるだけ身をすくめて状況を注視している」と口をそろえる。収益率を引き上げるためにさらなる融資を受けようとする問い合わせが大きく減った一方、確定した収益を与えてくれる預金や積金商品への投資割合を高めようとする動きがはっきりしているというのだ。
ハナ銀行漢南クラブワンPBのムン・ウンジン部長は「今は気軽に投資しない状況」だとし「危険な投資をするよりは現金を確保しておこうという保守的な雰囲気がある」と語った。国民銀行のチョン・チーム長も「もう少し資産市場の推移を見極めようとの趣旨から(いつでも流動化が可能な)短期預金・積金商品に関心を示している」と述べた。投資家が株などの危険資産市場から完全に離脱し、長期債券などの安全資産の購入に積極的になるなどの、ポートフォリオの変更が活発な段階には至っていないという意味でもある。
地団太を踏んでいる投資家も多く見受けられる。資産価格の上昇期に乗り遅れた42歳の会社員Hさんもその1人だ。Hさんは昨年初め、貯金と融資を受けた資金で株に5000万ウォン(約477万円)をつぎ込み、6億ウォン(約5720万円)の小さなマンションも1軒購入した。Hさんは「昨年上半期はまだ株と住宅価格が上昇していたので、『借金して投資』は成功したと信じていたのに、年末から損失が出ている。融資金利まで急上昇しているので、生活費すらぎりぎりになりつつある」と語った。Hさんは「耐え切れなければ株と家を売らなければならないが、すでに損失が大きいため、どうすることもできずにいる。いつまで耐えられるか分からない」と打ち明けた。
■統計にも表れる変化
変化した雰囲気は統計からも確認できる。金融投資協会の資料によると、信用取引融資の残高は潮が引くように減っている。昨年9月9日には26兆ウォン(約2兆4800億円)にまで跳ね上がっていたが、その後は減少傾向で、今年1月27日現在は22兆ウォン(約2兆1000億円)。4カ月で15.4%も減少したのだ。一方、比較的安定した金融商品とされるマネーマーケットファンド(MMF)の残額は、この1カ月間で約18兆ウォン(約1兆7200億円、14%)増えている。投資家は借金して投資は減らし、待機性商品へと資金を移動しているとみられる。
市中の資金が銀行の預金や積金に集中する現象もはっきり表れている。この日公開されたKB、ウリ、新韓、ハナ、農協の5大銀行の1月の信用実績資料を見ると、預金、積金などの貯蓄性預金は昨年末の690兆366億ウォン(約65兆8000億円)から、先月末には701兆3261億ウォン(約66兆9000億円)へと、比較的大幅な増加(11兆2895億ウォン、約1兆800億円)となった。市中金利の上昇を反映して銀行が預金・積金の金利を引き上げるとともに、販売マーケティングを強化しているうえ、成果給などのまとまった金が流れ込んだ影響によるものだが、安全資産に対する投資家の選好が強まったとみることができる。
専門家は、このような流れは昨年8月の韓国銀行による政策金利の引き上げ以降、徐々に拡大していると判断している。韓銀の直近の集計である昨年11月の1カ月間だけで、要求払い預金などに比べて相対的に流動化の難しい満期2年未満の預金・積金は14兆ウォン(約1兆3300億円)増えている。市中資金の流れをモニタリングする韓銀の担当者は「市中の流動性は、融資と投資から定期預金・積金などへと、その中心が移り変わりつつある」とし「こうした流れは当面さらに強まる見通し」と述べた。