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[コラム]「借金を勧める社会」の終着駅

登録:2021-10-29 06:49 修正:2021-10-30 08:46
26日午前、ソウル明洞にあるポストタワーで行われた「第6回金融の日」の記念式典が終わった後、コ・スンボム金融委員長が「家計負債管理強化案」に関して記者団からの質問に答えている/聯合ニュース

 最近、知人の集まりに行き、内心驚いた。6人中3人が公募株に投資していた。自身が直接するか、さもなければ配偶者が行っていた。肩書きが経済担当記者である私よりも、有望株や申込方法に深く精通していた。そしてさらに驚いたのは、2人が信用貸付で不動産購入資金を用意していたことだ。信用貸付で数日借りて申し込み、すぐに返済するということだった。これで容易に何十万ウォンを稼ぐことができるのに、このような機会を活用しないのは愚かだといった。

 2カ月前には、首都圏のある不動産仲介業者と話す機会があった。周囲には信用貸付まで用いてマンションを購入する人が多いといった。いわゆる「ヨンクル(魂までかき集めるかのように、あらゆる手段で資金を集めるという意味)」だ。ほどんど貸付額が上限近くに達しているにもかかわらず、自分もそのようにしてマンションを2戸買ったといった。

 最近周辺から聞こえてくるありふれた話だ。あえてこのような経験を話すのは、私たちの社会が今、“借金で投資”の頂点に来ていることを言いたいからだ。今の雰囲気は、2003年のクレジットカード問題直前の時期を思いださせる。政府が景気浮揚を目的に1999~2000年にカードのクレジットサービスの限度額(月70万ウォン)を廃止し、さらに街頭での会員募集まで許可した。収入がない大学生も容易にカードを作ることができ、2~3年間でカードのクレジット貸付は7倍に急増した。現在は路頭にまで出ていかなくてもよい。自宅でスマートフォンを数回タッチすれば、融資を受けることができる。カカオバンクやKバンクなどのインターネット専門銀行が数年前にこの市場を開拓すると、都市銀行も後に続き、デジタル融資の扉を大きく開いた。融資を受けるには3分で十分だ。実に新世界だ。

 借金が容易になると、誰もが借金して投資に乗りだした。主な対象は、株式・不動産・仮想通貨だ。これがすでに何年も続いている。天井知らずに高騰した株式と仮想通貨は、すでに乱高下を何回も繰り返している。バブルがはじける兆候だ。ところが、不動産価格は今もなお上昇している。本当に不動産価格は、上がり続けるだけなのだろうか。歴史はそうではないことを示している。

 金融危機に関する世界的権威である米国マサチューセッツ工科大学(MIT)のチャールズ・キンドルバーガー元教授は、17世紀オランダのチューリップ投機から、20世紀末日本の不動産バブル、米国のドットコムバブルまでの数多くの資産価格のバブルと崩壊の歴史を研究した後、「資産価格のバブルは信用(融資)の増加に依存する」という一種の公理を見つけた。彼は著書『熱狂、恐慌、崩壊:金融危機の歴史 』で、人々が不動産や株式などの投資に殺到する狂気が発生する際には、常に信用供給の膨張を伴い、そうした時には、資金はつねに無料であるかのように見えると述べた。しかし投機者が「今ほど良かったことはない」と豊かさに浸っているとき、政府の政策の変化や大企業や金融会社の破綻といった内外からのショックが発生し、資産価格の上昇は止まり、結局はバブルがはじけると語った。

 金融当局が26日に比較的強力な家計負債管理の強化案を出したのは、望ましいことだ。しかし、家計負債問題があまりにも大きくなってしまい、どの程度の実効性があるのか疑問は残る。現在の状況は金融当局にも責任がある。例えば、2017年に発足したインターネット専門銀行について見てみよう。金融委員会は中金利融資のような既存の銀行と差別化したサービスを活性化するとして、インターネット専門銀行を許可した。しかし、これらの銀行は、中金利融資は少しずつ増やすのにとどめ、代わりに高信用者を対象にした信用貸付の商売に没頭した。結果的に、信用貸付の膨張の最大の貢献者となった。これらの銀行の誕生が間違っていたということではない。「返済能力の範囲内」での融資の慣行を定着させるべきだったにもかかわらず、金融当局が「借金を勧める社会」を放置または助長したといっても過言ではない。

 家計負債問題は、解決策を見いだすことが極めて困難な問題だ。危機を迎えた後にはじめて負債の再調整が行われるのがほとんどだ。最善のシナリオは、今後約10年間、家計貸付の増加率を経済成長率に合わせて管理し、その間に債務者が借金の負担を持続可能な水準に下げるようにすることだ。このようなソフトランディングが可能になるためには、その間に内外からのショックがあってはならない。問題は、今のサプライチェーン問題に加え、エネルギー危機やインフレの兆候まで見えてきて、世界経済がいつハードランディングするかわからないという点だ。予期せぬ危機が迫る場合、累積した家計負債問題が爆発する可能性は極めて高い。このような悲観的な“終着駅”に達する前に、今からでもシートベルトを固く締めなければならない。

//ハンギョレ新聞社

パク・ヒョン論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1016682.html韓国語原文入力:2021-10-27 02:33
訳M.S

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