「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」は、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から発展したものだ。トランプ政権時代の2017年末、米国がTPPから脱退したことを受け、日本やオーストラリア、メキシコなど残り11カ国が、ただでさえ長い名前に「包括的及び先進的な」という修飾語まで付けた壮大な名称に変更し、2018年12月に発足させた。地域的な包括的経済連携(RCEP)に次ぐ規模で、開放度で最高レベルの「メガFTA」と呼ばれる。
同協定の母胎であるTPPはオバマ政権当時、米国が「アジア重視」ないし「中国包囲」戦略の一環として進めた。当時バラク・オバマ大統領と日本の安倍晋三首相は経済的レベルを超え、米日協力を通じてアジア太平洋地域に新たな貿易秩序創出を目指していた。2015年4月、アシュトン・カーター米国防長官(当時)がTPPをめぐり「1隻の空母に相当するもの」だと意味づけたのが端的な例だ。
TPPに大きな方向転換を迫ったのはトランプ政権だった。2017年1月に政権についたドナルド・トランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を掲げて協定から脱退すると宣言した。その後、TPPへの懐疑論が広がったが、日本を中心に残った11カ国が名前を変えて、2018年3月(発表は11月)に交渉を妥結させた。
韓国国内では政府当局や財界を中心に加盟に賛成する声が上がった。産業通商資源部通商交渉本部のヨ・ハング本部長が今年9月、同協定関連専門家懇談会で行った発言は、このような雰囲気を反映している。ヨ本部長は当時「(この協定は)韓国のアジア太平洋地域における通商リーダーシップの確保と、サプライチェーンの高度化のため戦略的価値が高い」と述べた。懇談会に出席した専門家らもまた、「CPTPPへの加盟は今後、グローバル通商秩序を主導するチャンスだ」と前向きに評価した。
米国は協定への復帰に否定的だ。キャサリン・タイ米通商代表部代表は先月10日、朝日新聞とのインタビューで、米国の協定復帰について「インド太平洋地域を先導するためには、直面する今日的課題に集中したい」という立場を示した。ジーナ・レモンド商務長官も18日、「バイデン大統領は(協定に)参加できる状況ではないことを明確にしてきた」と述べた。
こうした中でも、韓国が協定への加盟を進めるようになった主な要因は中国だ。中国は9月16日夜、突然協定の加盟を申請したという事実を発表した。協定の母胎が中国包囲を狙ったことを考えると、逆説的な流れだ。日本が今年初めに発足したバイデン政権にTPPへの復帰を求めるメッセージを出し続けてきたことを考えると、予想外の動きだった。中国に続き、台湾と英国も加盟を申請した。
ホン・ナムギ副首相兼企画財政部長官が13日、CPTPPの加盟手続きを開始すると宣言する際に挙げた背景からも、中国が主な要因だったことがうかがえる。ホン副総理は「最近中国や台湾の加盟申請、世界最大のメガ自由貿易協定の発効(RCEP、2022年初め)など、アジア太平洋地域内の経済秩序変化が活発に展開しており、これ以上協定への加盟に関する政府部処間論議だけに留まるのは難しい状況」だと説明した。
CPTPPは包括範囲が広く、開放度も高い。2019年基準で協定に加盟した11カ国の国内総生産(GDP)は、世界の国内総生産の12.8%(11兆2千億ドル)、貿易規模は世界の貿易額の15.2%(5兆7千億ドル)に達する。人口規模では全世界人口の6.6%(約5億人)に当たる。協定加盟国を対象にした韓国の輸出と輸入は、全体輸出入の23.2%、24.8%を占めるほど、韓国の貿易で占める割合も大きい。
韓国が来年2月1日、世界最大の自由貿易協定であるRCEPの発効を控えている状況とあいまって、企業の活動舞台である市場の拡大を図れるという期待を抱かせる部分だ。CPTPP加盟国でありながら、韓国とはまだ自由貿易協定を結んでいない日本やメキシコとFTAを締結する効果もあるという利点もある。
CPTPPは市場開放度がかなり高く、加盟国間の貿易商品の96%に対する関税の撤廃を求めている。韓国をはじめ15カ国が加盟し、来年2月に発効するRCEPの関税撤廃率(約90%)よりも高い。標準及び技術の壁、投資、サービス、知的財産権、電子商取引などにおいても高いレベルの水準の条項も含まれている。そのため、中国としては当面は加盟が難しいと予想されている。同協定に加盟するためには、加盟国11カ国すべてが賛成しなければならない。
韓国開発研究院は今年1月の「バイデン時代の国際通商環境と韓国の対応戦略」で、「韓国企業がCPTPPの高い市場開放水準と原産地基準を活用し、グローバル・バリューチェーン(GVC)に有効に組み込まれる場合、輸出の増進、特に中小企業の輸出の増進を図ることができる」と分析した。
一方、加盟国の多くが農業分野で高い自由度を求めているという点は韓国側にとって負担だ。ほかの自由貿易協定のように、国内農業に打撃を与えかねない。農業従事者団体が中心となってCPTPPへの加盟議論の中止を求め、反発してきたのもそのためだ。
ユ・ミョンヒ前通商交渉本部長は今年9月、本紙とのインタビューで、「国内産業界でも業種別に利害関係が異なり、農業・水産業も分野別に異なる」とし、「利害関係者の意見をしっかり聴取する必要はあるが、いつまで実施するというふうに期限を決める必要はない」と述べた。加盟を進める時期をめぐっては「米国が加盟するかどうかよりは、韓国側の準備ができて意見がまとまった時にした方が良いと思う」とし、「(米国の加盟は)考慮事項ではあるが、決定的ではない」と付け加えた。中国が加盟する可能性については「高い水準のルールと市場開放にすべて合わせなければならない」とし、「交渉妥結までかなりの時間がかかるかもしれない」と予想した。