来年の経済政策方向から文在寅(ムン・ジェイン)政権の核心成長戦略だった「所得主導成長」が姿を消した。その代わり、政府は経済活力の向上に向けたさまざまな景気対応策を最優先課題として示した。年末に政府が発表する経済政策方向は、新年の国家運用の方向性を推し量る重要な「政策パッケージ」であるだけに、政策運用の基調が変わったのかをめぐり論議が予想される。
政府が17日に発表した「2019年経済政策方向」は、経済活力の向上を前面に打ち出した。政府は、企業の大規模投資プロジェクトのための障害を取り除き、民間資本事業を拡大する案を最優先課題に据えた。また、共有宿泊(民泊)・カーシェアリング・遠隔診療など主要な規制を改善する案も強調した。政府はこれに次ぐ3番目の課題として「経済・社会の包容性強化」を提示したが、そこにも所得主導成長という言葉は見られなかった。最低賃金の引き上げ・週52時間制労働など、これまで強調してきた政策に対する速度調節案が盛り込まれただけだ。
これは、文在寅政府が先に示した国政運用哲学とは程遠い。政府は発足初期の昨年7月、「新政府の経済政策方向」で「人間中心経済」への転換を宣言し、所得主導成長を最優先課題に配置した。昨年末に発表した「2018年経済政策方向」でも「働き口・所得主導成長」は先頭を占めていた。政策の優先順位がはっきりと変わった「2019年経済政策方向」をめぐり、最低賃金引き上げをめぐる政治的論争と最近の景気低迷を意識した「モード転換」という評価が出るほかない背景だ。
政策の内容を見ても、重心の移動が予測できる。まず、新しい政策がほとんど目につかない。(結婚・育児による)キャリア断絶女性を採用する際に税制支援を強化し、家賃の税額控除の対象を拡大する程度が挙げられる。基礎年金、失業手当の引き上げ、児童手当・労働奨励金の拡大など、大半はすでに改正された税法と来年の予算に含まれている。
一方、速度調節が必要な最低賃金の決定構造と弾力労働制は、来年2月の改編を目標に掲げた。まず最低賃金の決定構造は、若者・高齢化など対象別懇談会と地域別討論会のような公論化の過程を経て、来年1月に政府案を確定することにした。関連法の改正は2月に完了し、2020年の最低賃金決定時から適用するというのが政府の計画だ。改編案としては、最低賃金委員会内部に最低賃金の引上げ区間を設定する「最低賃金区間設定委員会」と、その範囲内で最低賃金を決める「最低賃金決定委員会」を設置する案が検討されている。
現行3カ月である弾力労働制の単位期間を拡大する案も、来年2月に国会通過を推進することにした。このため政府は、週52時間労働時間の違反の処罰猶予期限を、今年末から弾力労働制の単位期間の拡大が確定するまで延ばすことも検討すると明らかにした。
専門家らはこうした重心の移動が「人間中心経済」という価値を損ねることにつながってはならないと口をそろえている。建国大学のチェ・ベグン教授(経済学)は「内需と輸出、大企業と中小企業、正規職と非正規職など、不均衡の構造化が韓国経済の最も大きな弊害だ」とし、「景気に対応する短期処方ではなく産業構造の改編と社会セーフティネットの強化、公正経済などの政策がパッケージで推進されてこそ改善効果が得られる」と指摘した。
大統領府はこのような懸念に一線を引いた。文大統領はこの日、大統領府で開かれた拡大経済長官会議で「われわれは今(過去の政権と違って)経済政策の基調を変えている」とし、「推進過程で疑惧されることや論争があり得るが、忍耐を持って実を結ぶという姿勢が必要だ」と述べた。人間中心経済へのパラダイムシフトを持続するという考えを明確にしたわけだ。大統領府の高位関係者も「所得主導成長・革新成長・公正経済を軸に、ともに豊かに暮らす包容的革新国家という文在寅政府の政策基調には変わりがない」とし「最低賃金引き上げで打撃を受けた自営業者などに対する補完対策の施行が遅れた点などを指摘しながら、関連対策が互いに絡み合って本来の目的を達成しなければならないという意味」だと説明した。