時価総額26兆ウォン(約2兆6千億円)、小株主8万人の大手企業の株式に対する取引停止が解除されるとの事実を知らせたのは、A4用紙1枚分の「報道参考資料」だった。
韓国取引所は今月10日夜7時半、サムスンバイオロジックス(サムスンバイオ)の上場適格性審議の結果を、「サムスンバイオロジックス企業審査委員会の審議結果および上場維持決定の案内」という長い題名の報道参考資料に盛り込み、電子メールで送った。題名こそ長いが、内容は1枚で十分であるほど明快だったのだろうか。そうではない。
取引所は、サムスンバイオの経営の透明性は一部不十分だったが、企業の継続性や財務の安定性などを考慮し、上場を維持することを決めたと明らかにした。企業の継続性については「深刻な懸念はない」とし、財務の安定性は「懸念は大きくない」と判断した。経営の透明性において不十分な点については、サムスンバイオが改善計画を提出し、3年間点検するとした。
一体、懸念がないとか大きくないと判断した根拠は何なのかについて、取引所は具体的な数値を全く公開しなかった。投資者をだました巨大な粉飾会計につながった経営の透明性において不十分な点が何なのかも、明らかにしなかった。サムスンバイオの改善計画も、取引所ではなく、会社が提出した取引再開を歓迎する立場文に盛り込まれていた。
不十分な資料を発表したにもかかわらず、取引所はこれについて説明しなかった。「慣行」や「不必要な議論が起こる可能性の遮断」という内部事情を挙げ、外部の専門家で構成された企業審査委員(7人、委員長は取引所の役員)や、取引所の担当者が直接説明するブリーフィングも省略した。1枚の資料が小株主8万人とすべての株式投資家に提供される情報のすべてだった。企業審査委員の名簿と会議録も公開しないという。不透明な議論に不透明な決定、不透明な発表だった。
今回のサムスンバイオの故意の粉飾会計の特徴は、専門家らの“協力”だった。「資本市場の番人」とされる巨大会計法人が巨大企業と共謀すると、数兆ウォンの粉飾会計も可能であることが明らかになった。内部情報が公開されなければ、外部では知る由もなかっただろう。
取引所の株式取引再開の決定過程は、サムスンバイオの粉飾会計事件から韓国社会がまだ何も学んでいないことを示している。透明なプロセスと公開発表、そしてマスコミと大衆の検証は“内部者”と”専門家”の共謀への誘惑を防ぐ最も基本的な装置だ。投機場ではなく、健全な資本市場を作るべき取引所が、これを全く無視したわけだ。結局、投資家らは4兆5000億ウォン(約4500億円)規模の故意の粉飾会計判定を受け検察に告発されたサムスンバイオの株式が、なぜ再び市場で取り引きされるのかについて、納得できる説明を聞いていない。彼らは再び市場に呼び出され、“掛け金”を釣り上げている。“不誠実な公示”を行った取引所の責任は大きい。