シン・ギョクホロッテ総会長の長男であるシン・ドンジュ前ロッテホールディングス副会長の退陣をきっかけに、ロッテ経営の継承に関心が集まっている。しかし、継承のカギを握るシン総会長についてはあまり知られていない。
1922年生まれの彼は今年93歳だ。創業1世代の總帥の中で唯一の生存者だ。4大グループ創業者の中で最長寿だったチョン・ジュヨン現代名誉会長は、シン総会長より7歳年上だが14年前の2001年に亡くなっている。韓国人として日本で成功した企業人は少なくない。しかし、日韓の両方で大きく成功を収めた企業人は彼が唯一だ。
彼は蔚山(ウルサン)で平凡な農民の息子として生まれ、19歳の時にその平凡な生活から抜け出し、ほぼ無一文で日本に留学した。チョン名誉会長が子供の頃に貧乏がいやでと父親が牛を売った金を勝手に持ちだして家出したのを連想させる。彼は解放直前に日本で創業し、工場が2回も燃える試練を乗り越え成功した。これを基に1967年に韓国に進出し、財界5位の大企業に育て上げた。
彼の経営哲学は独特だ。他人から金を借りる“借金経営”を嫌う。「負債は眠っている間にも利子が付く」と強調する。新規投資には石橋を叩くように慎重だ。また、従業員の雇用は必ず守るという強い所信がある。 2008年の金融危機時の逸話だ。ある役員が人員削減の必要性を提起すると、「こんなに大変なのに従業員を追い出してどうする」と強く叱責した。 「去華就實」(華やかさから離れ実質を追求する)は彼の経営哲学を圧縮した言葉だ。
彼は脱税をタブー視する。 「日本ではお金を稼いで韓国に持って帰ると疑われ、逆に韓国では日本に持って帰るという。日韓政府がいつでも税務調査を行うことができるので、脱税をしたら死ぬ」。朴槿恵(パク・クネ)政権発足直後にロッテグループの税務調査に乗り出した時、「MB(李明博前大統領)の恩恵企業は大変だ」という大方の予想は外れた。追徴税額がわずかで国税庁も驚いたという。財閥総帥の中には背任横領・脱税などで処罰を受けた人も多いが、彼は例外だ。
彼は顔のない経営者だ。マスコミに登場するのを嫌う。経営者は実績で見せなければならないという考えからだ。全国経済人連合会が財閥の創業者を紹介する漫画を作るときにも遠慮した。彼が韓国国籍であることを知らない人が多いが、あえて釈明しない。最近マスコミに出てくる写真は、20年前に撮影されたものだ。ロッテ役員は「時々清渓川(チョンゲチョン)を散歩するが、誰にも気づかれない」と話した。
彼には文学青年としての隠された一面もある。 「お口の恋人、ロッテガム」という1970年代のロッテガムの広告に登場した聞きなれたフレーズだ。彼はこれを直接作った。ロッテという名前も小説『若きウェルテルの悩み』に出てくるヒロイン「シャルロッテ」から直接取った。
彼は念願だった第2ロッテワールドとビール事業を成功させ、老成を誇示している。周辺では100歳までも一線で活躍できそうだという。しかし、サムスン電子のイ・ゴンヒ会長の事例からもわかるように、高齢者の健康は断言できない。最近のチョ・ヒョナ騒動が経営者として実力を備えていない財閥3世への継承の危険性を示したとすれば、ロッテは總帥が死んだ後でないと継承されない財閥のもう一つの問題点を浮き彫りにする。王が死んでから継承が行われる封建王朝とあまり変わらない。
シン総会長は70年間ロッテを成功的に育ててきたが、今後ロッテ版「王子の乱」が起きた場合、ロッテの未来も保証されない。最近のロッテの状況を見ると、彼はこうした継承の不確実性をもう放置できないと決心したようだ。彼がビジネスに続き継承問題でも有終の美を収めるかが注目される。
韓国語原文入力:2015.01.16 20:14