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1ミリのクマムシ、人間の致死量の放射線にも耐えうる3つのシステム

登録:2024-10-30 06:53 修正:2024-10-30 08:56
クァク・ノピルの未来の窓 
 
戦争が起きると軍需品工場に変身するかのように 
放射線被曝時には2800個の遺伝子が発現
放射線から自分の体を守るクマムシの生体分子メカニズムが明らかになった=ピクサベイ//ハンギョレ新聞社

 地球最強の生存力を持つ動物とされるクマムシは、成体になっても1.5ミリメートルにも満たない、きわめて小さな節足動物だ。

 左右の8本の脚でゆっくり動くことから、緩歩動物(Tardigrada)と呼ばれるクマムシは、マイナス270度の極低温や150度を超える高温でも死なず、水がない環境でも数十年耐え抜く。大気圧の1000倍を超える圧力や人間の致死量の約1000倍になる3000~5000グレイ(Gy)の放射線量にもびくともしない。このような驚くべき能力のおかげで、過去5億年間に起きた5回の大絶滅でも強く生き残った。

 極限の環境で生き残る秘訣は、新陳代謝の活動を止めて体を休眠状態(Cryptobiosis)にする能力にある。このような能力は、老化と寿命延長を研究する科学者にとっての良い研究対象だ。

 これまで科学者たちは、極限環境に置かれる場合に生体物質を保護するトレハロースという糖分や、新陳代謝を遅らせるタンパク質などを発見した。しかし、1500種にのぼるクマムシが持っている生存能力の大部分は、いまだ解明できていない状況にある。

 中国の北京遺伝学研究所の研究チームが、放射線から自分の体を守るクマムシの生体分子メカニズムを解明し、国際学術誌「サイエンス」に発表した。

 研究チームは6年前、中国河南省の伏牛山で採取したコケの標本から、学界に未報告のクマムシ「ヒプシビウス・ヘナネンシス」(学名Hypsibius henanensis)を発見した。今回の研究はこのクマムシの遺伝子の分析結果だ。

クマムシはコケや川、湖の堆積物に主に棲息する=ピクサベイ//ハンギョレ新聞社

■放射線に耐えるための3つのシステム

 研究チームがクマムシのゲノムを解読した結果、このクマムシは1万4701個の遺伝子を持っており、このうち30%は緩歩動物にだけある遺伝子だということがわかった。

 研究チームは、クマムシに人間が耐えられるよりはるかに強力な200~2000グレイの放射線に露出させた後、クマムシの遺伝子に起きる反応を調べてみた。すると、DNAの修復、細胞分裂、免疫反応に関与する遺伝子2801個が活性化することを発見した。研究チームはこの過程で、クマムシが放射線を耐えられるようにする3つの分子システムを発見した。

 1つ目と2つ目は損傷したDNAの修復能力だ。1つ目の「TRID1」という遺伝子は、特殊なタンパク質を集め、放射線で損傷したDNAの二本鎖を修復するのに役に立つタンパク質を作る。また、2つ目の遺伝子は、ミトコンドリアのATP合成に重要だとされる2種類のタンパク質を生成する。このタンパク質もDNAの修復を助けるものとみられることを、研究チームは明らかにした。

 3つ目は抗酸化タンパク質の生成能力だ。クマムシの遺伝子の0.5~3.1%は他の有機体から得たものだと推定される。これを「水平的遺伝子移転」と呼ぶ。研究チームはこのうち、バクテリアから得たとみられる遺伝子「DODA1」が、ベタレインという4つのタイプの抗酸化色素の生産に関与することを発見した。この色素は、放射線に露出するときに細胞内で作られる有害な反応性化学物質の一部を除去する。放射線による細胞障害の60~70%は、この反応性化学物質に起因する。

 研究チームがベタレインの一種で人間の細胞を処理したところ、実際に放射線に対する生存力が大幅に高まることが確認された。

インド洋のモーリシャス島のコケから採集したクマムシの走査型顕微鏡写真=ウィキメディア・コモンズ//ハンギョレ新聞社

■宇宙探査、がん治療などの応用に期待

 25年間緩歩動物を研究してきたノースカロライナ大学のボブ・ゴールドスタイン教授(細胞生物学)はネイチャーで、「(放射線に対するクマムシの反応は)遺伝子の発現が作動するしくみを再調整するようなものだ」として、戦時に工場を軍需品工場に全面改造することに例えた。

 研究チームは今回の発見が、宇宙で活動する宇宙飛行士を放射線から保護したり、核汚染を浄化したりすることだけでなく、がんの治療法を改善することにも役立てられると期待している。

 クマムシの生存力の特徴は、極限の環境に対する適応進化の産物ではなく、極限の環境に耐え抜く能力だということだ。クマムシは極限環境で棲息する生物(Extremophile)ではない。したがって、極限環境に露出する時間が長引くほど、死亡の可能性は高くなる。

 極限の気温や酸素の欠乏、脱水、飢餓のような異なる苛酷な環境に耐えられるようにするクマムシの分子システムを研究すれば、よりいっそう広範囲な応用分野が見いだされる可能性もある。ゴールドスタイン教授は、ワクチンのようにすぐに傷みやすい物質の有効期限を延ばすことにクマムシの生存の秘訣を活用できると述べた。

*論文情報
DOI:10.1126/science.adl0799
Multi-omics landscape and molecular basis of radiation tolerance in a tardigrade.

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/1164773.html韓国語原文入力:2024-10-29 23:59
訳M.S

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