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9億光年先の宇宙で巨大な「重金属製造工場」の実体確認

登録:2023-11-03 09:07 修正:2023-11-03 23:47
中性子星の合体を捉える…地球300個分の質量のテルルが生成されたと推定
ペアを成す2つの中性子星が合体する姿(想像図)=NASAゴダード宇宙飛行センター提供//ハンギョレ新聞社

 星は熱い中心部で核融合を起こし、様々な元素を作りだす。私たちの体をはじめ、地球に存在するすべての生命と物体を構成する炭素、酸素、窒素などの多種多様な元素は、そうして生まれた。一生を終えた星が宇宙空間に散らしたこれらの元素は宇宙塵となって漂い、こちらまで流れてきて、地球と生命を作った。

 しかし、鉄(原子番号26)より重い元素(重元素)または重金属は、核融合反応だけでは作られない。これより重い元素が作られるためには、はるかに強力なエネルギーが必要だ。そうしたエネルギーを作りだす最も激烈な宇宙現象の一つがキロノバだ。

 キロノバとは、ペアを成す2つの中性子星が、なんらかの理由で互いに近づいて衝突し爆発する現象をいう。その際、最大のエネルギーを持つ電磁波であるガンマ線が噴出する。中性子星は文字通り中性子でだけで構成された星だ。太陽の10倍以上重い星が最後に超新星(スーパーノバ)爆発を起こした後、残った核が中性子星になる。超新星の爆発による重力崩壊によって、原子核にある陽子と電子が結合して中性子星が誕生するのだ。

 米国マサチューセッツ工科大学(MIT)をはじめとする天文学の国際共同研究チームが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)によるガンマ線爆発(GRB)の観測を通じて、これが地球から9億光年の距離にある一組の中性子星が合体して作りだされたものであることを発見した。「GRB 230307A」という名前のこのガンマ線爆発は、明るさが通常のガンマ線爆発の約1000倍で、これまで観測されたなかでは2番目に明るい。研究チームは今回、爆発の余波で重元素が生じた直接的な証拠を初めて発見した。宇宙の重元素製造プラントの実体を確認したわけだ。

 研究チームがスペクトル分析を通じて発見した重元素は、若干の毒性があるテルル(原子番号52番)だ。テルルは地球では白金より珍しいが、宇宙全体では豊富に分布している物質だ。主に合金を作ることに用いられる。

 研究チームは観測結果から、中性子星の衝突によって生じたテルルの量は地球の質量の300倍に達すると推定されることを明らかにした。また、それから推測すると、そこには地球上の生命体の大半に必要なヨウ素など、周期律表でテルルの近くにある他の元素も存在する可能性も高いと付け加えた。

 今回の発見は、中性子星の合体が重元素の供給源であることを確認したという意味がある。分析を主導したオランダのラドバウド大学のアンドリュー・レバン教授(天体物理学)は「メンデレーエフが元素の周期律表を作ってから150年ほどが過ぎた今、私たちはついにすべてのものがどこで作られたのかを理解する最後の空白を埋め始めることができる場所に立った」と述べた。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線機器で撮影したGRB 230307Aキロノバと12万光年の距離に存在する母銀河=NASA提供//ハンギョレ新聞社

■過去2番目に明るいガンマ線爆発の震源地

 今回の発見には、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡をはじめとしてTESS宇宙望遠鏡、チリの超巨大望遠鏡(VLT)など宇宙と地上の様々な望遠鏡が動員された。

 初めて爆発を観測したのは、3月7日に高度550キロメートルの軌道を回っているNASAのフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡(略称フェルミ)を通じてからだった。科学者はこの爆発が異例に明るいガンマ線爆発だと報告し、これを「GRB 230307A」と命名した。

 当時、MITの研究員(現テキサス工科大学教授)のマイケル・ファウスノー氏は「言葉では言い表せないほど明るかった」として、「ガンマ線天文学では通常、個々の光子を数えることが一般的だが、多くの光子が入ってきて検出器が個々の光子を区分できないほどだった」と述べた。

 中性子星の合体、または衝突で起きるガンマ線爆発の持続時間は普通は2秒未満だ。一度ちらつく程度だ。一方、今回の爆発はその100倍となる200秒間続いた。

 異例の現象に、世界の天文学者が様々な望遠鏡を利用してこれを集中観測し始めた。天文学者は様々な所の観測データを総合した結果、ガンマ線爆発の位置が南の空のテーブルさん座ということが分かった。

ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を通じて発見されたテルルのスペクトル(赤色の棒)=NASA提供//ハンギョレ新聞社

■12万光年の距離に母銀河から脱出したと推定

 ならば、中性子星の合体自体はどこで始まったのだろうか。研究チームは、宇宙望遠鏡のなかで最も遠くを見ることができるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線観測力に期待した。その結果、この中性子星のペアから最も近い銀河が約12万光年離れた場所にあることを確認した。

 研究チームは、この銀河が中性子星の母銀河であり、中性子星はこの銀河から追い出されたと推定した。連星を成していた巨大な一組の星が、一生の最後に中性子星なり崩壊する過程で母銀河から抜け出した後、数億年にかけて徐々に合体していったということだ。

 ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、一つになった中性子星から放出されるエネルギーからテルルの明確な信号も感知した。これは、ガンマ線爆発が中性子星の合体によることを改めて確認したものだ。研究チームは「今回の発見は、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の始まりに過ぎない」として、今後、数年内により多くの中性子星の合体がジェイムズ・ウェッブを通じて観測できると期待した。

*論文情報 
doi.org/10.1038/s41586-023-06759-1 
Heavy element production in a compact object merger observed by JWST. Nature(2023).

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/1114636.html韓国語原文入力:2023-11-03 01:11
訳M.S

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