『バトルグラウンド』
終わらない戦争、自由世界のための戦い
H・R・マクマスター著、ウ・ジンハ訳 l 蛟與書家(2022)
「プーチンの料理人」と呼ばれたエフゲニー・プリゴジンが先週末、武装反乱を起こしたというニュースを聞いた。ウクライナ侵攻後、苦戦を繰り返す中で、たびたびクーデター説が流れており、ついに来たかと思いながら事件の展開を見守っていた。36時間で大きな流血衝突もなく事件が一段落し、一方では安心したが、他方では肝を冷やさざるを得なかった。旧ソ連崩壊後、ロシアでクーデターが勃発するという設定はハリウッドアクション映画によく登場するシナリオであり、事件自体は目新しいものではなかったが、映画の中のストーリーに過ぎなかった世界最大の核武装国でクーデターが起こるのはもはや想像だけの話ではないという現実を目の当たりにし、背筋に冷たいものが走った。
クーデターのニュース以降、国内外の様々なメディアで今回の事件の意味と今後の予測が飛び交う中、H・R・マックマスターの『バトルグラウンド』(邦題『戦場としての世界ー自由世界を守るための戦い』)を手に取った。同書には、21世紀に入って過去20年間展開されてきた国際情勢と米国の国家安保政策に対する率直な評価が含まれている。著者はシルバースター(勲章)を授与された将官であり、長い間戦争と軍事史分野を研究してきた歴史学者で、2017年、コリン・パウエル以来30年ぶりに、ドナルド・トランプ政権で現役将官として大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めた人物だ。『バトルグラウンド』というタイトルにふさわしく、現在はもちろん将来、米国との軋轢や国際紛争が生じる可能性のあるロシアや中国、南アジア、中東、イラン、北朝鮮などを取り上げているが、米政府高官を歴任した人物が書いた本であるがゆえに、当然ながら米国の立場と見解が色濃く反映されている。だが、大統領補佐官として働いている間、戦略的自己陶酔に陥ったトランプ政権の外交政策を批判し対立を繰り返した末、1年余りで「ツイッターで解任通知」を受けた人物らしく、相手を生半可に他者化するのではなく、米国の国家安全保障に関する主な外交政策や相手国の現実について比較的中立の立場から分析している。
マックマスターによると、ウラジーミル・プーチン政権下のロシアを理解するためには、「シロビキ」(silovik)、「オリガルヒ」(Oligarch)、「サンクトペテルブルク」というキーワードを理解する必要がある。ロシア語で「強い人々」(strongmen)を意味するシロビキは、プーチンと同じくKGB、軍隊、警察のような情報公安機関出身の人物を意味する。ジャーナリスト出身で後にカナダ外相を歴任したクリスティア・フリーランドは、プーチン時代のロシアが「KGB要員出身の新しい天国」になったと述べた。実際、プーチンが大統領に選出されるまでは4%に過ぎなかった政府内のKGB要員の割合が、当選後は58.3%まで高まった。今回のクーデターの主役だったプリゴジンもプーチンと同じサンクトペテルブルク出身のオリガルヒだったが、これは「新興財閥」という意味だ。旧ソ連崩壊後、ボリス・エリツィン時代から政界と緊密に癒着して成長した新興財閥のうち、エリツィンとの協力を拒否したオリガルヒは背任や横領の疑いで逮捕され、ひどい場合は命を落とした。
プーチンは彼らの代わりに、いわゆる「大統領の人々」を起用したが、その多くがサンクトペテルブルク出身だった。一時期、ロシアではサンクトペテルブルク出身者は読み書きさえできれば誰でも高位職に就けるといわれるほどだった。これまで20年以上ロシアを統治し、大統領の人々で政財界を埋め尽くしてきたプーチン政権下のロシアをみると、反体制知識人で人権活動家だったアンドレイ・サハロフの言葉が思い浮かぶ。「自国の国民さえ尊重しない国が、どうやって隣国を尊重できるだろうか」。これは果たしてロシアだけの話だろうか。