東方明珠の華やかな光と大国屈起の野心だけでは分からない中国がある。3億人にのぼる田舎出身の労働者は、労働市場の下部を支えつつも社会的差別にさらされており、全人口の64%にのぼる田舎出身者は、教育と保健の死角地帯に放置されている。圧縮成長を成し遂げた中国の暗い影の面だ。
40年近く中国を研究してきた著者たちは、中国の田舎の現実を執拗に探査し『見えない中国』を著した。大都市を中心として資本を集中投資する成長戦略をとった結果、中国の都市と農村の格差はますます広がりつつある。大都市上海と甘粛省の住民の所得格差は12倍に達するほどだ。特に居住や移転を規制する「戸口制度」は格差が世襲される原因となっている。田舎出身の子供たちは十分な教育と栄養の供給を受けておらず、これも構造的格差を深めている。
本書が中国にスポットライトを当てるのは、中国が世界経済に大きな比重を占めるからだ。世界の主要企業の95%は供給網の一部を中国に置いている。また、世界貿易の30%は中国と直接連係している。都市と農村の格差が中国の体制を脅かせば、国際秩序を揺るがす恐れもある。
もちろん、都市と農村の格差のみで中国の危機を断定することは困難だ。にもかかわらず、この本に注目すべき理由は明らかだ。中国の人口の大多数を占める農民と農民工の状況を解決しなければ、中国の体制が不安定化する可能性は排除できないからだ。何より「見えない中国」の中にこのように深く飛び込んだ研究の結果は、いまは他に見出すことが難しいからだ。