本文に移動
全体  > 文化

ドラマ「セイレーンの懺悔」と日本メディアの暗い現実

登録:2020-10-31 09:08 修正:2020-10-31 11:53
日本ドラマ『セイレーンの懺悔』
WOWOWチャンネル提供//ハンギョレ新聞社

 放送局に勤める朝倉多香美(新木優子)は入社2年目の記者。彼女が所属する報道局は低調な視聴率と相次ぐ誤報で危機に瀕しているが、朝倉は報道記者としての誇りと責任感を守ろうと努力している。そんな中、16歳の女子高生が誘拐され残酷に殺害される事件が起き、全てのメディアが特ダネをつかむため血眼になる。先輩記者の里谷太一(池内博之)と共に事件を追っていた朝倉は、誘拐殺人事件の方向を変える決定的な手がかりを手に入れる。しかし、朝倉の単独報道はまた別の悲劇的事件につながってしまう。

 日本のWOWOWチャンネルで放送中の4話連続ドラマ『セイレーンの懺悔』は、信念と現実の間で真実を追うために孤軍奮闘する若い報道記者の話を描いている。ジャンル的には犯罪事件の顛末を暴く推理ミステリーのプロットを取っているが、作品の核となるのはメディアの暗い現実に対する批判意識だ。実際、日本の「報道の自由度」は毎年悪化している状況だ。国際メディア監視団体「国境なき記者団」が毎年発表する世界報道自由度の評価では、2011年は32位だったが、昨年は67位にまで下がった。同年、『ニューヨークタイムズ』が特集記事で「独裁国家のようだ」と表現したほどだ。

WOWOWチャンネル提供//ハンギョレ新聞社

 今年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行の状況でも、日本の報道は正確な情報を速やかに報じて国民に警戒心を植えつけるよりも、政府の機嫌を伺うことに重きをおいていたことで批判にさらされている。日本のドラマやジャンル小説などで、このようなマスコミの現実を反映した作品が絶えず登場するのもそのためだ。『セイレーンの懺悔』もジャーナリズム精神を失ったマスコミの報道形態を指摘した中山七里の社会派ミステリー小説を原作としている。

 ドラマで主人公の朝倉多香美は記者という職業に対して強い自負心を持った人物だ。彼女のこのような誇りは、誘拐事件現場で出会った担当刑事・宮藤賢次(高嶋政伸)の問いで揺さぶられる。宮藤は、被害者が遺体で発見された現場に群がって写真を撮ることに余念のない見物人らと記者に違いがあるのかと一喝する。朝倉は「真実を直接目撃し、取材を通じて伝える」という記者の役割を強調するが、まさに宮藤の指摘通り、そこには被害者と家族の苦痛に対する真摯な悩みが欠けていることに気づく。

 朝倉と先輩記者の里谷のぶつかりも興味深い。報道協定を破って遺体発見現場の単独映像を流した里谷は「生々しい報道が与えるショック効果には人を動かす力がある」と言う。実際、彼の報道は犯人に対する怒りを引き出すが、時には視聴率のために「絵を撮れ」という報道局チーム長の主張と重なってみえる。ドラマは朝倉が事件の真実を追跡する過程を通じて、今のマスコミが忘れていた問いを次々と投げかける。マスコミに対する不信が日増しに高まっている韓国でも、共感できる作品だ。

キム・ソニョン|テレビ評論家 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/967971.html韓国語原文入力:2020-10-31 02:32
訳C.M

関連記事