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[書評]こんな目に遭うために植民地から解放されたのか

登録:2015-06-19 18:02 修正:2015-06-21 06:28
 朝鮮戦争に参戦した英国軍生存者の証言
 民間の村を無差別爆撃した米軍を批判
 反共ステレオタイプから抜け出した
 朝鮮戦争を見つめるもう一つの視角
中国軍の介入で咸鏡道長津湖付近で全滅の危機に瀕した米海兵隊工兵と英国特殊作戦部隊「41コマンド」隊員が、米空軍が緊急投下したゴム製吊り橋で脱出している。脱出過程で英国軍は235人中93人が戦死、米軍は戦死704人など計6000人が死傷した=本の未来提供//ハンギョレ新聞社
『焦土と黒い雪』=本の未来提供//ハンギョレ新聞社

『焦土と黒い雪』
(Scorched Earth、Black Snow)
アンドリュー・サーモン著
イ・ドンフン訳
本の未来刊

 「ウィロビーは米軍の戦闘機が廃虚となった村に機銃掃射を加えるのを見た。彼はこう書いた。『韓国人はこんな目に遭うために日本から解放されたのかという思いが頭をよぎった』」

 英国のジャーナリスト、アンドリュー・サーモンの『焦土と黒い雪(Scorched Earth、Black Snow)』は、1950年9月の仁川上陸作戦前に洛東江戦線に投入された英国軍部隊が、その後38度線を越えて北進を繰り返したが、その年の末に中国軍の介入で敗退(1・4後退)するまでの活躍を扱った本だ。90人を超える参戦兵士とのインタビューと彼らの回顧録、英国軍の戦争日誌などの関連文書に基づき、当時の戦闘と戦争の状況を参戦者たちの“ヒューマン ストーリー”中心に再構成し2011年に出版されたこの本の最大の特徴は、6・25韓国動乱(朝鮮戦争)を英国人の視角で扱ったという点だ。

 毎年6月になれば朝鮮戦争関連本が多数出版されるが、『焦土と黒い雪』はこの特徴だけでも関心に値する。当時米国が主導した“国連軍”の名のもとに参戦した国々のうち、米国以外の参戦国の軍人の話が一般図書として出版され韓国社会で読まれた例は殆どない。参戦16カ国の名前はなんとか記憶しているかも知れないが、その国々の軍人がどのように派兵され、その戦争でどんな役割を果したかを正しく知っているケースは希だろう。 そうした点で、英国第27旅団、そして英国特殊部隊「41コマンド」の参戦背景と釜山港入港、そして最初に投入された洛東江戦線、その後の仁川上陸作戦時の上陸地点を隠すための陽動作戦、北朝鮮軍が彼らをソ連軍と誤認した沙里院(サリウォン)進攻、博川(パクチョン)進駐、そして第2次大戦後の世界戦争史で最も凄惨だったという長津湖(チャンジンホ)戦闘と興南(フンナム)撤収に至るまで、英国軍とそこに配属されたオーストラリア軍の活躍像はそれだけでも興味をそそるだろう。本の内容もほとんどはそこに焦点を合わせていて、生存者のインタビューを中心に構成したストーリーには躍動感がある。

 朝鮮戦争について著者は、「冷戦期間に起こった紛争の中で、憤怒の悪魔的な力がこれほどまでに噴出した戦いはなかった」とし、「自由世界が共産国家の領土を侵攻した唯一の戦争」 「超強大国間の最初で唯一の戦争」 「英国が第2次大戦以後に行った戦争の中で最大の戦争」 「英国と米国が参戦した戦争の中で、部隊全体が壊滅したことのある唯一の戦争」と述べている。 彼はそれでもこの戦争に対して、ベトナム戦争はもちろん、イラク・アフガニスタン戦争、さらにはフォークランド戦争よりも世の中の人々に理解されていない戦争、「忘れられた戦争」になってしまった現実を指摘し、再評価を試みる。 さらには韓国の若い世代でさえ無関心に見える朝鮮戦争忘却症は、戦争の様相とそれを伝えるメディア環境が今とはまるで違うことにも由来するが、それ以上に勝者も敗者もない現在進行形であることに加え、当事者(特に米国と中国)がその重圧感から抜け出し、忘れられることを願っているためとの指摘が一層説得力あるように見える。

 しかも、一つ注目すべきことは、この本が北朝鮮と中国軍を絶対悪と想定するステレオタイプの反共主義図書ではないという点、北朝鮮と中国を憎悪の視線で眺めるのではなく、もう一つの被害者として比較的客観的に見ようと努力している点だ。 多くの朝鮮戦争関連図書が持っている弱点の一つは、北朝鮮を絶対悪に追い込む視野の偏狭性・狭小性だ。 朝鮮戦争を善悪対決構図だけで眺めれば、その戦争を客観的に把握し評価することは難しく、したがってその対応と克服も困難になる。「朝鮮戦争は正当な戦争だった」と言ったり、女性の戦争参加、外国軍に対するある少年の抵抗を共産主義洗脳教育、理念対決のせいと見ているように、この本にしても外国軍の介入を正当化する既存の観点から完全に脱却してはいない。 それでも単純対決図式からはちょっと抜け出している。

爆破される興南埠頭。1950年12月24日、中国軍の攻勢に押されて退却した米軍は、撤収後に中国軍と北朝鮮軍が利用できないよう興南港を出ると施設を全て破壊する焦土化作戦を行った=本の未来提供 //ハンギョレ新聞社

例えばこんな話が出てくる

 「朝鮮戦争以前に英国の海兵隊が米海兵隊と合同作戦をしたことは一回だけだった。1900年に中国義和団の乱鎮圧のための多国籍軍投入時であった。 両部隊は同じ遺産を受け継いだ。(…)今回も両部隊は1900年に共に戦った敵と同じ敵を相手に共に戦うだろう」

 前世紀の中国に対する帝国主義侵奪と、朝鮮戦争、イラク・アフガン戦争に対する著者の考えは曖昧だが、それを同一線上に置いて話すこと自体がはるかに豊かな思考の種を提供する。

 韓国の民間人と北朝鮮・中国の兵士たちの凄惨な犠牲に対する視線も、反共主義の図式からは抜け出している。

 韓国はこんな目に遭うために“解放”されたのかと、米軍による民間の村への爆撃を痛ましく眺めた人は、米国の強力な参戦要求で急造され急派された英連邦第27旅団のミドルセックス連隊第1大隊所属のジョン・ウィロビー少佐だ。 27旅団はミドルセックス連隊の他にアーガイル連帯第1大隊とオーストラリア連隊第3大隊で構成され、当時韓国軍陸軍第1師団などと共に米第8軍の先鋒である第1軍団の指揮下にあった小規模旅団だった。 機甲部隊も砲兵もなく、輸送も米軍に依存しなければならない部隊であった。

 「私はあるOC(中隊長)にこのように話しました。『北朝鮮の人と韓国の人は区別が難しい」。するとその友人はこう答えました。『我々は神経を使わない。北朝鮮だろうが韓国だろうが、皆殺してしまえばお終いだ」(英国軍第27旅団所属のドン・バレット下士)

 「村の中に突進して建物毎に銃を撃ちまくることが多かったのです。しかし、おそらくそのうちの半分程度は、その村に民間人がいるのかいないのかも知らずにそうしたのです。当時は誰もがそうしたことは気を遣いませんでした」(オーストラリア第3大隊所属 レン・オピ兵士)

 「我々に抵抗する村は燃やしてしまいました」(アーガイル連帯 アラン・ローダー少尉)

 「グック(gook)」という韓国人やアジア人に対する蔑称使用など、当時人種差別的だった西洋軍人の話をこのように引用したのは、もちろん彼らに同意したからではない。

また、こんな話も出てくる

「ある国に踏み込んでその国の人々をむやみに殺すことが、果たして道徳的に正しいことかという疑問をその光景を見て抱きました。 それらの人々は共産主義とかそういうことには何の関心もないのみならず、ただ腹がいっぱいになるまで食べて楽に暮らすことが主な関心事だっただけなのに。これが“解放”ならば、本当にふざけた解放だと思いましたね。これらの人々は、我々がいなかったらもっと良い暮らしをしたかもしれないのに」(ミドルセックス大隊軍医官スタンリー・ボイデル)

ハン・スンドン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/696665.html 韓国語原文入力:2015-06-19 10:19
訳J.S(3350字)

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