「ダイビングベルの投入に反対した黒幕は大統領?」
「映画はダイビングベルに対する弁解ではないのか?」
全席売り切れにもかかわらず
座席の4分の1は空いている異例の状況
釜山国際映画祭が開かれている6日午前、海雲台(ヘウンデ)区・佑(ウ)洞のCVセンタム。 11時の上映会に先立ち早い時間に売り切れたチケットを入手するために、一般市民と記者たちが上映館の前に陣を敷いていた。上映会、および観客との対話を取材しようとするカメラマン約数十人も上映の30分くらい前から集まっていた。 釜山国際映画祭を訪れた有名スターの記者会見場にも劣らない状況だった。
この日は映画祭の開始前から“外圧による上映中断”の議論が起きていた映画『ダイビングベル』が初公開される日だった。 アン・ヘリョン ドキュメンタリー監督とイ・サンホ『告発ニュース』記者が共同で作ったこの映画は、4月16日に発生したセウォル号沈没事件の際に起きた“ダイビングベル投入論議”を中心に、事件を扱う言論の報道態度と政府の無能力な対応を批判的に扱ったドキュメンタリー映画だ。
「真実は沈没しません。 ただし、それを守る皆さんの良心という浮力が必要です」。映画上映後に予定通りに行われた“観客との対話”で、イ・サンホ記者はこう話した。 アン・ヘリョン監督も「多くの方々に映画を観て欲しいし、映画に対する関心がセウォル号に対する関心に再び向かって欲しい」という願いを明らかにした。
イ記者は、この映画の企画過程について「セウォル号当時、多くのマスコミの報道を見て、真実が覆い隠されないようにするには、映像の一つひとつをもれなく確保しなければならないと考えた」として「特にダイビングベルは政府が行方不明者をただの一人も救助できなかった理由を突き止める端緒になると考えて(ダイビングベルが)入ってから出て行くまでを映像に記録した」と話した。 彼はさらに「時間が過ぎてセウォル号事件が急速に忘れられつつあると考えたので映画化を決心し、アン・ヘリョン監督の助力を得た」として「世界の耳目が集中した釜山で公開するために夜も眠らずに短時間で製作した」と付け加えた。
『ダイビングベル』はソ・ビョンス釜山市長などが釜山国際映画祭側に上映中断を要求し、一般人遺族までが上映反対の立場を明らかにしたため、映画祭の直前まで上映の可否が不透明な状況だった。 これについてイ記者は、「釜山国際映画祭がこの映画を受け入れてくれて感謝する。 映画関係者に敬意を表わす」として「一般人遺族もこの映画を共に観て、一つになって欲しい」という立場を明らかにした。
一般観客の間からは直接的な質問も相次いだ。「タイビングベル投入反対の黒幕は大統領なのか」という客席からの質問に対しイ記者は、「深海に3~4日間も閉じ込められていた子供たちを、まっすぐ引き上げることはできない。 ゆっくり減圧しながら引き上げなければならないのに、最初からそのような装備(ダイビングベル)を準備しなかったのは無能を越えて積極的殺害」として「事故後の7時間、コントロールタワーが不在だった状況で海軍と海洋警察に命令ができる人は誰か。大統領だ」と強く批判した。
『ルック・オブ・サイレンス』、『アクト・オブ・キリング』で有名なアメリカのドキュメンタリー監督ジョシュア・オッペンハイマーも客席から質問を投じた。「マスコミが政権のラッパ吹きに転落した理由」を尋ねるオッペンハイマー監督の質問に、イ記者は「マスコミ(保守既得権メディア)が今回の政権創出に役割を果している。『KBS(韓国放送)』の場合、救助失敗に対する責任が大統領府に及ぶことを恐れて、そのような報道ができないよう局長が直接妨害した」と話した。
イ記者は映画の完成度については一歩退く態度を見せた。「映画自体がイ・ジョンイン アルファ潜水技術工事代表とダイビングベルに対する弁解でもある」という質問に、「映画の完ぺきさと完全性は主張したいと思わない。 ダイビングベルもまた、私たちがセウォル号を映画的に覗き見られる唯一の小道具であり象徴に過ぎない」と説明した。
一般上映が確定していないことに対して憂慮を示す観客の質問に、イ記者は涙を見せもした。彼は「公開上映は難しいだろうと予想する。 もしかしたら(釜山映画祭が)劇場でゆったりこの不都合な真実を目撃できる最後の機会ではないかと考える」と話した。さらに続けて「10月中に封切りするために共同作業をしてくれた製作会社が頑張ってくれている。共に映画を守ってほしい」と要請した。 上映会に参加したセウォル号遺族の一部は、上映中に涙を見せた。
一方、インターネット販売はもちろん現場の前売りまですべて売り切れ、込み合った上映館前の雰囲気とは異なり、実際の上映会では座席の4分の1ほどが空いているという異例な状況が発生した。 映画祭側は規則に則り映画の開始後15分以後に待っていた記者たちと一般観客を入場させた。