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“優しいクォン・サンウ”の後ろには…負傷したエキストラの涙

登録:2013-10-10 19:37 修正:2013-10-11 06:27
撮影中にクォン氏の腕にぶつかり歯をケガしたが
企画社・製作会社など互いに責任転嫁
クォン氏が200万ウォンを出して誓約書要求
SBSドラマ『ヤワン(野王)』で補助出演者のクァク・某氏は服役者役のクォン・サンウ氏と演技中に衝突し歯を負傷した。『ヤワン』画面キャプチャー

 補助出演者クァク・某(55)氏はドラマ撮影中に歯をケガした。 高麗(コリョ)大九老(クロ)病院は「下顎4前歯の歯牙脱臼. 変色・壊死のおそれがあるので今後神経治療と補綴治療が必要となる可能性あり」と診断した。 去る1~4月に放映されたSBSドラマ『ヤワン』の撮影中に事故は起きた。 刑務官役のクァク氏は、俳優クォン・サンウ(37)氏を制圧する場面を撮っていて事故でクォン氏のヒジにぶつかった。 1月30日午後5時頃、全北(チョンブク)全州(チョンジュ)にある野外セット場でのことだ。 彼は口中に流れる血を飲み込みながら撮影を終えた。

 「優しいクォン・サンウ、200万ウォン 喜んで出した訳」、「義理派クォン・サンウ、負傷した補助出演者に慰労金支給」・・・。 クォン氏がクァク氏に慰労金200万ウォンを渡したという美談記事がインターネット空間を広がっていった。 クァク氏がどのように負傷したのか、治療はどのように受けたのかは、インターネット言論の関心外だった。 クァク氏は今もズキズキ、グラグラする歯のために、硬い物を噛むたびに苦労している。

 クァク氏は事故後、企画会社のH班長に診断書を出した。 彼は「製作会社から連絡が来るだろう」と言ったが、何の音沙汰もなかった。しびれを切らしたクァク氏は企画会社を訪ねて行った。 企画会社側は「私たちとしては何もしてあげられない」と言った。 製作会社も企画会社と結んだ供給契約書を全国補助出演者労組に示して責任がないという立場を明らかにした。 企画会社・製作会社・放送会社などが2ヶ月以上にわたり責任攻防を行なった。 製作会社関係者は去る4月1日、クァク氏を呼んでクォン氏が出した200万ウォンを渡し誓約書を差し出した。

署名したが治療費不足と判断
労災申請すると「すでに補償は終わっている」
“にらまれて”仕事ももらえず生活の見通しが立たない」

労災保険に加入しない企画会社多く
エキストラも「にらまれるか」と負傷を隠し
「謝罪さえ受けられない現実が悲しい」

 「クォン・サンウ氏は自身が上記の業務上災害に対し何ら過失や法的責任がないにも拘わらず、ひたすら善意によって本人に治療費ないし慰労金として200万ウォンを下さろうとされました。 私はクォン・サンウ氏に対する感謝の気持ちを表わすために本誓約書を作成してクォン・サンウ氏に渡すものであり、さらに、今後クォン・サンウ氏に対してはもちろん、 製作会社や放送局に対してもいかなる要求もしないことを誓約します。」

 クァク氏は誓約書に名前と住民登録番号、住所と携帯電話の番号を書いて印鑑を捺した。 製作会社は「親切なサンウ氏の温かい誠意、遅ればせながら知られる」というタイトルをつけて翌日報道資料をばらまいた。 「撮影現場で負傷した補助出演者は自身と雇用契約を結んだ委託供給業者から労災補償を受ける。 クォン・サンウはそれとは別に個人的次元で負傷者を慰労した」という内容だった。

 しかし厳密に言えばクォン・サンウ氏が「それとは別に」補償をしたわけではなかった。 クァク氏が受取ったのは200万ウォンが全てだった。 その金額では歯を4本抜いてインプラントをすることはできなかった。 クァク氏は勤労福祉公団に労災申請をした。 勤労福祉公団は去る5月22日クァク氏の負傷を労災と認定し、クォン・サンウ氏に求償権を請求した。 勤労福祉公団関係者は「労災補償保険法87条によれば、保険加入者である二以上の事業主が同じ場所で事業をして事業主を異にする勤労者の行為により災害が発生した場合、(災害を誘発した)第三者が損害を賠償しなければならないので、公団はクォン・サンウ氏に求償権を請求することになる」と説明した。 ただしこの関係者は「治療費が200万ウォン以下と認定されるので、クァク氏がクォン・サンウ氏からすでに受取った200万ウォン以外には追加で支給する必要はない」と明らかにした。

 補助出演者労組は勤労福祉公団の決定に理解できないという反応を見せた。 労組側は「低賃金の端役俳優も多いのに、補助出演者が俳優によって負傷に遭うたびに求償権が俳優に請求されれば、補償を受けることが難しくなってくるのではないか。 これは補助出演者を管理する企画会社に免罪符を与える決定だ」と指摘した。

 結局クァク氏は治療をあきらめた。 クァク氏は「後になって歯が変色したり抜けたりすることが心配だが、すでにクォン・サンウ氏に覚書を書いたのでこれ以上は治療費を要求できない。 当時クォン・サンウ氏も自身の責任ではなく補助出演者を動員する企画会社の責任と理解していたけれども善意でそうしてくれたことなので、感謝している」と語った。

 補助出演者たちはクァク氏のように撮影中に負傷しても補償を受けるのが容易でない。 企画会社・製作会社・放送会社は互いに責任を押し付け合い、補助出演者も企画会社の顔色を伺って自ら労災申請をあきらめる場合が多い。 労災保険加入率も低い。 映画振興委員会が去る4~6月に補助出演者400人を対象に調査した結果、労災保険加入率は33.71%に留まった。

 昨年<韓国放送>(KBS)のドラマ『カクシタル』の撮影時に車両転覆事故で補助出演者パク・ヒソク氏が亡くなると、雇用労働部は初めて訴訟なしで労災を認めた。 しかし『カクシタル』の事故車両に乗っていた補助出演者30余人の中で、故パク・ヒソク氏以外に労災申請をした補助出演者はただの一人もいなかった。 事故車両に同乗していた補助出演者K氏は肋骨骨折で全治5週間の診断を受けた。「パク・ヒソク氏の遺族も長期間闘争して労災を認められたのに、そんなことを誰がしますか? 人々が沈黙する理由もそうしたことのためで…。 焼身して処遇改善を要求するわけにもいかないじゃないですか。 これ以上問題にしないで済ませようと思いました。 忘れようと努力したわけです。」

 補助出演者N氏は『カクシタル』の交通事故で全身打撲を負う2年前、SBSドラマ『テムル(大物)』の時も車両転覆事故で膝靭帯破裂の負傷を負った。 2010年9月2日補助出演者を乗せた車両は全南(チョンナム)潭陽(タミャン)からソウルに戻る途中、雨の道で滑ってひっくり返った。N氏は今でもパク・ヒソク氏が車両のガラス窓の外へ弾き出されていく場面がしきりに浮んで、バスを見ただけで心臓がドキドキして汗が出ると話した。 N氏が遭った二度の事故は同じ企画会社に所属していて起きた。 企画会社からは慰労の言葉も、慰労金もなかった。 貸切バスの会社が何百万ウォンかの治療費等を出してくれただけだ。

 『カクシタル』の事故以後、 N氏はパク・ヒソク氏の追悼祭に参加し、『ヤワン』で負傷したクァク氏とともに企画会社に抗議することもした。 彼は「『カクシタル』 の事故以後、企画会社に睨まれて仕事をもらえずにいる」と吐露した。 「私よりひどく負傷した補助出演者も多かったけれども、会社側は「労災など間違っても考えるな」と言いました。 会社側がけしからんというより、謝罪さえ受けられない私たちの身の上が悲しかったです。 人間としての待遇を受けられないこと、人間以下の取り扱いを受けることがです。」

パク・ユリ記者 nopimuli@hani.co.kr

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/605553.html 韓国語原文入力:2013/10/03 13:42
訳A.K(3273字)

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