米国のトランプ大統領の対外政策は、一言で言えば「米国は覇権国としての利益を享受し、そのコストと責任は負わない」というものだ。今年初頭からのベネズエラのマドゥロ大統領の拉致、グリーンランド併合主張、そしてイラン戦争の開戦がそれを赤裸々に示している。米国は国際秩序を主導する覇権国ではなく、略奪的な大国へと本格的に変質しつつある。
イラン戦争が解決せずにホルムズ海峡が閉ざされただけになっていることに対し、その開放を同盟国に押し付ける態度に、それがはっきりと表れている。トランプは、米国はホルムズ海峡を通じて石油を輸入してはいないから、海峡を利用する国々が責任を取れと主張する。あり得ない。
ホルムズ海峡を通じては、トランプの主要支持層となっている米国の農家が今回の播種期に使用すべき肥料も輸入される。米国は尿素・リン酸肥料の使用量の約20%をホルムズ海峡を通じて中東諸国から輸入している。米国の農業団体はイラン戦争の開戦直後から、肥料不足に対する懸念を訴えて抗議している。硫黄、メタノール、黒鉛、アルミニウム、ヘリウムグリコールなど、米国の先端産業が必要とする原材料も同様だ。
イランの政権転換や完全な屈服はほぼ不可能とみられる。現状では、イラン戦争は覇権の利益だけを得ようというトランプの計算も破綻させるだろうと思われる。
その理由は、第1に、中東における米国の軍事力の足場が揺らいでいることが挙げられる。米海軍第5艦隊はバーレーンにあった本部基地から事実上撤退。所属艦艇は開戦前にすべて撤退しており、同基地はイランのミサイル・ドローン攻撃で破壊されたため、事実上の疎開だ。攻撃された基地は中東全域にあり、20カ所あまりとなる。高価な早期警戒レーダーが破壊され、米軍の将兵はホテルやオフィスを転々としている。米国がイランを完全に屈服させ、ホルムズ海峡の統制権を回復できなければ、バーレーンの第5艦隊基地を含む中東全域の米軍基地の回復は困難だ。
第2に、ホルムズ海峡に対する統制力の喪失。ホルムズ海峡の両岸に位置するイランとオマーンは、海峡通過を監視するための議定書を準備している。イランのガリババディ外務次官は、海峡の航行は「両国と共同で監督、調整されるべきだ」として、「この要求は制限を意味するわけではなく、むしろ航路を通過する船舶の安全な通行を保障し、より良いサービスを提供するためのもの」だとイランメディアに語った。
両国がこのような合意を目指している背景には、一方的な通行料の徴収ではなく、海峡の新たな運営「レジーム(体制)」を周辺国や国際社会との妥協のうえで確立しようとの意図がある。開戦前に米国とイランの核協議を仲介していたオマーンのブサイディ外相は先月18日付のエコノミストへの寄稿で、米国は合意の直前にイランを攻撃するなど、外交政策のコントロールを失っているとして、米国に対する不信感をあらわにした。英国などを含む35カ国も海峡の開放について議論を開始している。エジプトやパキスタンなど中東4カ国も、海峡レジームについてイランと議論する意向を示している。
米国が手を引くと言っているのだから米国なしでやってみようというわけだ。米国なき国際秩序の先例になる可能性もある。すでに多くの国がイランとの二国間交渉で海峡通過を勝ち取っている。
第3に、米国主導の同盟の象徴である北大西洋条約機構(NATO)は、少なくともトランプがいる限り、取り返しのつかない機能不全状態だ。トランプはNATO離脱に再考の余地はないと公言している。英国のスターマー首相は「ノイズ」だと返答。トランプはフランスのマクロン大統領とその夫人を公然と嘲笑するなど、想像しがたい無礼と罵倒を繰り返している。マクロンは「答える価値すらない」とあきれている。スペインや英国などの欧州諸国は、イラン戦争に関係する米軍の領空通過や基地使用を制限している。NATOの歴史上、かつてこのようなことはなかった。
米軍基地が安全保障ではなく脅威の根源となるとともに、米国が国際秩序の規範を逸脱する中、米国が新たなレジームの構築から除外され、米国の同盟が形骸化していることは、結局のところ米国の覇権における最大の利益であるドルの支配力を弱体化させることは明らかだ。すでにウクライナ戦争は米国による経済制裁とドル決済システムに亀裂を生じさせている。ドルの覇権は、石油をドルで決済するペトロダラーシステムが主軸となっている。トランプは、米国は中東の石油を輸入していないと言ってその流通を破壊しておいて、「もう少し時間があれば、我々はホルムズ海峡を簡単に開放し、石油を運んできて莫大な金が稼げる。世界に向けて『油田』が噴き出すだろう」という欲望をあらわにしている。ペトロダラー体制に亀裂が入らない方がおかしい。
イラン戦争の砲煙が濃くなればなるほど、米国の覇権も遠のいていくだろう。
チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )