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関税とミサイル、両手に握りしめ誇大妄想に陥った独裁者 【コラム】

登録:2026-03-13 08:07 修正:2026-03-14 09:19
ドナルド・トランプ米大統領が11日、ケンタッキー州ヘブロンのバスター・ロジスティクスで演説を終えた後、踊っている=ヘブロン/ AP・聯合ニュース

 ジョージ・オーウェルの小説『1984』では、世界はユーラシア・オセアニア・東アジアの3大超大国の勢力圏に分かれる。ソ連がヨーロッパを併合してユーラシアとなり、米国は大英帝国とアメリカ大陸を飲み込んでオセアニアとなる。「東アジアは10年にわたる複雑な戦争を経て統一国家として登場する」とされ、韓中日などが含まれる。3大超大国は中東・北アフリカなど貧しく人口が密集した「残りの地域」と無主地帯の北極をめぐり果てしない戦争を繰り広げる。

 オーウェルがこの小説を書いたのは1948年だが、2026年、この架空の未来が現実になりつつあるようだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ侵攻で領土帝国主義を再び呼び起こした。米国のドナルド・トランプ大統領はベネズエラ大統領を拉致し、北極グリーンランドの併合を公然と試み、さらにはイランを攻撃して中東全域を戦場にした。中国もまた台湾と南シナ海を狙っている。1世紀前の力の論理が支配した勢力圏秩序へと回帰する明らかな兆候がみられる。オーウェルはビッグブラザーがテレスクリーンを通じて全国民を監視する体制を執拗に描いた。今日、大国が人工知能(AI)を活用して監視体制を完成させつつある現実を考えると、その想像力に背筋が凍るほどだ。

 勢力圏秩序は大国が特定地域で弱小国・中堅国を統制し、競合する大国の介入を遮断する国際秩序だ。帝国や植民地、朝貢関係など、20世紀以前の歴史の大半がそうだった。この秩序のもとで最も被害を受けるのは弱小国と中堅国だ。

 第二次世界大戦後の自由主義国際秩序は国家間で合意された「ルール」に基づいて動いていたが、勢力圏秩序は武力と強圧など「力」の論理が支配する。「現実世界は力と武力、権力によって支配される。これが太古より存在してきた鉄則だ」というトランプ大統領側近のスティーブン・ミラー氏の言葉がまさにそれを象徴している。トランプ大統領は関税とミサイルを両手に持ち、「力こそが正義」の時代への回帰を図っている。金のある国には関税を振りかざして資本を略奪し、資源豊富な国にはミサイルを浴びせて資源を奪おうとする。超大国の軍事力を誰の牽制も受けずに衝動的に振るうのだから、なおさら恐るべきことだ。

 国際法は軽々しく無視され、攻撃対象が誰であれ、どんな民間被害が生じようと無関心だ。100人を超える小学生が誤爆で命を落としても、意にも介さない。

 トランプ大統領の世界観を支えているのは、自分だけが「米国を再び偉大にする」ことができるという途方もない自己確信だ。そのうえ自分を「平和の化身」と勘違いしている。国連に代わる「平和委員会」を作ろうという発想も、こうした文脈から生まれたものだ。サイコパス的な誇大妄想でなければ理解しがたい行動だ。

 心理学はこうした権力者の傾向を「ダーク・トライアド(闇の三要素)」で説明する。マキャベリズム(目的のためなら手段を選ばない冷酷な計算と道徳的無関心)、ナルシシズム(傲慢と自己愛)、サイコパシー(共感能力の欠如と衝動性・攻撃性)だ。ブライアン・クラス氏は『なぜ悪人が上にたつのか 人間社会の不都合な権力構造』で「ほとんどの人はこれら三要素をほんの少ししか持っていないが、一人の人間に三要素が極端に凝縮された時に問題となる」と述べる。覇権国の最高権力者がこうした傾向を示す時、その被害は全世界に及ぶ。

 東アジアも間もなくトランプ大統領の視野に入る可能性が高い。トランプ大統領はすでにこの地域でも勢力圏を固めるための地ならしを進めている。昨年の米国の関税攻撃に対し中国が希土類(レアアース)輸出規制で対抗したため、一時後退したに過ぎない。重要鉱物の自立を進めると同時に、エネルギーとAI分野で中国を締め上げる準備を急いでいる。中国の原油主要輸入元であるベネズエラとイランに親米政権を樹立しようとする試みも、その延長線上にあるといえる。AIの軍事的活用を加速し軍事的優位を占めようとする構想もあらわにしている。実力を十分に備えたと判断したうえで、米国国内の政治的誘因があれば、いかなる行動に出るか予測できない。

 新たな秩序はまだその輪郭が不明確だが、力が支配する秩序へと傾き、いつ嵐が吹き荒れてもおかしくない不吉な空気が漂っている。オーウェルは「実力のない国は遅かれ早かれ征服されるのが常であり、幻想は実力闘争に害を及ぼすだけだ」と警告する。こうした秩序で生き残る道は実力のみだ。軍事力・経済力において特定国家への過度な依存度を減らし、強圧の対象とならないようにすべきだ。同時に利害を共有する中堅国との連帯を強化し、勢力圏秩序に飲み込まれるのを防がねばならない。

//ハンギョレ新聞社
パク・ヒョン | 論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1249013.html韓国語原文入力:2026-03-12 21:12
訳H.J

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