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[山口二郎コラム] 衰弱時代の日本の政策課題

登録:2025-05-26 07:45 修正:2025-05-26 09:10
3月、埼玉県の精米所に運ばれた日本政府の備蓄米/共同通信・聯合ニュース

 今の日本人にとっての最大の関心事は、コメの値上がりである。1年で値段が2倍になるというのは、ほとんどの日本人にとって初めての経験である。政府は凶作に備えた備蓄米を放出しているが、効果は表れていない。1960年代後半にコメの生産過剰が顕在化し、政府は減反政策を続けた。そして、農業従事者は減少を続け、平均年齢は69歳になっている。コメの価格が上がっても、これから生産を増やす能力が農家にあるかどうか、疑わしい。日本は経済大国だと浮かれているうちに、主食の自給能力はなくなったように思える。

 戦後の日本を支えて来た製造業でも、暗いニュースが相次いでいる。パナソニックは1万人の雇用削減を打ち出し、業績不振にあえぐ日産自動車は、2万人の雇用削減と7工場の閉鎖を検討していると報じられた。私の人生の前半は、高度経済成長と、石油危機を乗り越えてジャパンアズナンバーワンといわれた時代で、人生の終わり近くになって「没落」という言葉を実感させられるとは思ってもいなかった。

 加えて、アメリカのドナルド・トランプ大統領の高関税政策で、日本政府も経済界も右往左往している。今の日本では自動車産業が唯一の稼ぎ手と言われるが、アメリカに自動車を売れなくなったら日本はどうなるのか、不安は大きい。

 嘆くばかりでは能がないので、衰退局面でいかに生き残るかを考えなければならない。資源のない日本は、食料と原料を輸入し、工業製品を輸出して、生きてきた。輸出競争力が低下する時代には、食料とエネルギーの自給率を上げて、富が外国に流出することを抑える必要がある。

 エネルギーに関しては、化石燃料の輸入を減らし、再生可能エネルギーを拡大することが急務である。2023年の電力における再生可能エネルギーの割合は、西欧には50%を超える国が多数存在するのに比べて、日本は24%にとどまっている。2011年の福島第一原発事故の後に原発依存からの脱却という機運があったが、政府は原発回帰を進めている。安全対策や使用済み核燃料の処理コストなどを計算に入れれば、原発による電気が安いというのは見かけ上の話だということがわかる。

 この十年ほど、政府は、珍しい果物や高級牛肉の輸出を奨励し、稼げる農業を追求してきた。稼げる農家が稼ぐのは自由である。しかし、農業の基本的役割は、国民を食わせることである。農業機械や肥料の値上がりを考えれば、コメ価が上がっても農家の所得が増えるとは思えない。ヨーロッパ諸国のような保護政策を導入して、農業を持続可能にすることも急務である。

 先端技術の工業製品を売って稼ぐというモデルから、食料とエネルギーの自給率を高め、内需主導で経済を持続させるというモデルに移ることは、国土の姿を変えることでもある。大都市集中は少子化を一層進め、人口減少を加速させる。東京圏は住宅価格も高く、若い人々が家族を形成することは難しい。情報産業や金融で富を作るという目的に照らせば、大都市集中は合理的な国土設計である。しかし、そうしたモデルが若い人々を疲弊させ、社会の収縮をもたらしている現実を直視しなければならない。

 この点については、日本と韓国は同じ問題に直面している。5月19日の『朝日新聞』は、韓国において人口の約半分がソウル圏に集中し、若者はソウルの大学を目指して激しく競争していることを紹介していた。

 日本も韓国も先端産業の発展による国づくりを目指し、合理的手段としての首都集中を進めた。しかし、人口の減少と長期的な社会の消滅の危機が見えてきた今日、合理性の軸は複数あるべきである。国内に多様な地域や産業があり、社会が維持されるという目標を設定することが必要である。また、それに取り組むために、日韓で協力することもできるはずである。韓国の大統領選挙、日本で7月に行われる参議院選挙で、このような未来を見据えた政策構想が議論されることを期待したい。

//ハンギョレ新聞社

山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1199279.html韓国語原文入力:2025-05-25 19:34

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