尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領と共に民主党を「反国家勢力」と規定しつつ、露骨な反感をあらわにした。現政権に批判的な声はフェイクニュースや怪談だとも述べた。国民の統合に努めるべき大統領が極右的発言を繰り返し、「対決政治」に没頭している。
尹大統領は28日、自由総連盟創立記念行事に参加し、「歪曲された歴史意識、無責任な国家観を持つ反国家勢力は、核武装を高度化する北朝鮮共産集団に対して国連安保理制裁を解除してくれと要請し、国連軍司令部を解体する終戦宣言を唱え続けてきた」と述べ、文在寅政権を激しく非難した。終戦宣言の推進は「でたらめな偽の平和主張」と非難し、「北朝鮮ばかりを見ていて中国から無視された」外交を自分が正常化したと主張した。しかし文在寅政権が推進した終戦宣言は、朝鮮半島における恒久的な平和の定着のための政治的宣言であり、米国や中国などの周辺国の支持を得た事案だ。国連軍司令部の解体や在韓米軍の撤退とも無関係だ。歴代政権で「国連軍司令部解体」を主張した政権はひとつもない。文在寅政権はむしろ、戦時作戦統制権の返還にかかわる国連軍司令部の機能の再調整という名の「再活性化」を米国と協議していた。
尹大統領の「問答無用で前政権のせい」にする発言は今に始まったことではないが、国民が選択した大統領と政権に「反国家勢力」という烙印を押すのは、国民に対する冒とくに他ならない。加えて、70年間続いている朝鮮戦争―停戦は終戦ではない―を終わらせる方法を探ろうという提案が、どうして「反国家」になるのか。憲法が「平和の維持」と「統一志向」を大韓民国の義務と規定していることを忘れたのか。
また、国民が反国家勢力を大統領に選んだというのか。発言直後、「(尹大統領は)その反国家勢力のもとでなぜ要職の検察総長を務めたのか」(ユ・インテ元国会事務総長の29日の発言)、「(尹大統領は)終戦宣言が一体何なのか分かっておっしゃっているのか」(チェ・ジョンゴン元外交部次官の28日の発言)と指摘されている。米国のドナルド・トランプ大統領は、2018年6月のシンガポールでの朝米首脳会談で米国と北朝鮮の終戦を公式に宣言しようとしていた。結果的に終戦宣言には至らなかったものの、トランプ大統領は首脳会談後の記者会見で「近いうちに実際に終戦宣言があるだろう」と述べ、平和体制構築の約束の後続措置の可能性に言及している。ジョー・バイデン大統領も2021年の文在寅大統領との韓米共同宣言で、板門店(パンムンジョム)宣言とシンガポール朝米会談の合意書を尊重すると述べたが、これも終戦宣言の趣旨に従うということだ。終戦宣言問題を国際的に初めて公論化した代表的な人物は金大中(キム・デジュン)、盧武鉉(ノ・ムヒョン)、文在寅の各大統領ではなく、米国のジョージ・ブッシュ大統領だ。尹大統領の主張に従えば、米国の大統領も大韓民国の国益を害する「反国家勢力」になるわけだ。米大統領も反国家勢力なのか、尹大統領は反米主義者なのか。
尹大統領はまた、野党をターゲットに「虚偽の扇動とねつ造、そしてフェイクニュースと怪談で自由大韓民国を揺さぶり、脅かし、国家アイデンティティーを否定する勢力が多すぎる」と述べた。そして「金と出世のために彼らと一つになって反国家的な行動に明け暮れる人も多すぎる」と語った。政府与党が日本による福島第一原発の汚染水放出を前に、野党の提起する懸念を「扇動」、「フェイクニュース」扱いしているのと同じ脈絡だ。政府が自ら招いた政策の混乱と一方的な国政運営に対する省察はなく、単に「国家アイデンティティーを否定する」と非難する姿勢が、尹大統領があれほど叫んでいた自由民主主義なのか、問わざるを得ない。
尹大統領は昨年10月にも、「北朝鮮に従う主体思想派は進歩でも左派でもない。敵対的反国家勢力との協治は不可能だ」と発言するなど、極右水準の発言を事としてきた。現政権の極右的色彩は次第に濃くなりつつある。「金正恩(キム・ジョンウン)政権は打倒しなければならない」と述べた極右対決主義者の誠信女子大学のキム・ヨンホ教授は、29日に統一部長官候補に指名され、尹錫悦政権によって任命されたパク・インファン警察制度発展委員会委員長は国会討論会で「文在寅スパイ」発言を行っている。大統領が率先して事実関係は眼中にもない暴言レベルの言葉をためらいもなく吐き出し、それを誰も制御できないのだから、尹大統領の周囲には今後このような人物ばかりが集まり、暴言はさらにひどくなると思われる。
保守層の結集のためにイデオロギー的レッテルを貼ったり、反国家勢力と烙印を押したりする行為は、国民の半分を敵に回すということだ。それが当面は政治的に役立つと錯覚はしうる。しかし、政治的にも決して役に立たない。自らを孤立させるだけだ。目の前の拍手に酔って状況を正確に判断できていないのだ。国民は愚かではない。国民の忍耐を試さないでほしい。さらに、大統領が南北関係と内政いずれも対決一辺倒で暴走すれば、国民の不安と社会の混乱が広がるばかりだ。大統領としての責務を肝に銘じるべきだ。