本文に移動

[寄稿]韓国の自営業者の「イカゲーム」

登録:2021-10-05 05:01 修正:2021-10-05 08:10
コロナ禍の長期化により自営業者が生計に困難をきたしているなか、26日午後、ソウル明洞通りの商店街に空きテナントの案内が貼り出されている/聯合ニュース

 自動車会社の労働者だった主人公は、リストラされた後、チキン屋と軽食屋を開いて失敗し、4億ウォンの借金をして奈落に落ちる。そのような立場の人々が巨額の賞金を得るために命をかけて行うゲームを題材にしたドラマ「イカゲーム」が、全世界を席巻している。ドラマの中で露出した電話番号には、自分も多額の借金があるのでゲームに参加したいというメッセージが来たりしたという。

 監督はインタビューで、新型コロナウイルス感染症の流行後に困難に直面している自営業者の現実が主人公に似ていると話した。実際、感染症と社会的距離措置(ソーシャル・ディスタンシング)により売り上げが急減した自営業者らは、生存の危機に陥っている。就業者のうち5人に1人を占める自営業者は、まさに防疫によって最も大きな経済的被害を受けた人々だ。店舗を引き払い、従業員に給料を払ってから自ら命を絶ったビアホール店主の悲しいニュースも耳に入ってくる。

 対面サービス業を中心とした自営業者の借金も大きく膨らんだ。2021年3月末時点で、自営業者約246万人が約832兆ウォン(約78兆円)の借金をしている。前年比で19%も増加した額だが、全家計の負債額の増加率より2倍も多かった。特に、金利が高いノンバンクからの借金の増加率が高く、3つ以上の金融機関から資金を借りている多重債務者も増えた。今後の金利引上げと融資規制により、その負担がさらに増える可能性が高い。自営業者を対象にした調査によれば、新型コロナが発生してからの約1年間で、回答者の81%は負債が平均5000万ウォン(約470万円)以上増加し、約45%が廃業を検討していると答えた。

 韓国は防疫と経済成長で他の国々に比べて優れた成果を示した。しかし、その過程で大きな被害を受けた自営業者に対する補償は、あまりにも不足している。日本を見てみるだけでも、緊急事態宣言の期間中、就業時間の制限と酒類販売禁止の措置により被害を受けた飲食店は、政府から1日4万円から10万円の支援金を受けた。1カ月なら1000万ウォン(約94万円)を超える額だ。各国を比較したある記事は、昨年3月から現在まで、米国・フランス・日本の飲食店は1億~2億ウォン(約950万~1900万円)に達する政府の支援金を得たが、韓国はそれらに比べ10分の1の水準だと報道した。

 国際通貨基金(IMF)によると、6月初めまでの間、新型コロナに対応した韓国政府の直接的な財政支出は、国内総生産(GDP)の4.5%であり、先進国(平均17.3%)に比べ格段に少ない。これについて政府は、防疫の成功により経済に及ぼした打撃が相対的に小さかったからだという。しかし、その防疫の成功が自営業者の犠牲に基づいたものであることを知らない人はいないだろう。

 政府の災害支援金は、1回目で全国民を、2~4回目で小商工人らを対象にしたが、金額は大きくはなかった。5回目の災害支援金は、健康保険料を基準に所得上位12%を除いて支給されたが、選別基準に関する議論が白熱している。多くの人々が主張するように、普遍的かつ迅速に支給して後で年末調整を通じて個別に還収する政策が合理的だが、政府は不動の姿勢だ。

 一方、京畿道は最近、道の予算6380億ウォン(約600億円)を用いて、今回の災害支援金の受給対象から外れた高所得層に、災害ベーシックインカムという名目で25万ウォン(約2万3000円)を支給し始めた。しかし、増税のない京畿道の災害ベーシックインカムは、全国民に同額を支援し高所得層に税金をより多く課すベーシックインカムの精神からもかけ離れている。

 新型コロナに対応する政府支出は、何より予算を大幅に拡大し、自営業者など直接の被害を受けた人々に手厚く支援することが望ましい。自営業者に対する損失補償法が通過したとしても、これに関する来年の予算は2兆ウォン(約1900億円)にもならず、今年の補正予算を合わせても約3兆ウォン(約2800億円)に過ぎない。これは、5回目の災害支援金の予算11兆ウォン(約1兆500億円)と比べても、はるかに小さい規模だ。このような状況から、最近の自営業者らの死は自殺ではなく、全員に責任がある社会的他殺だという話が出ているのだ。

 「イカゲーム」は、他人に勝つことにより生き延びられるゲームと、地獄のような現実から残忍なゲームに追い込まれる切実な人々の話を通じて、現代の資本主義の暗い現実を描きだした。特に、払いきれない借金をして人生の崖っぷちに立たされた自営業者や脆弱な労働者には、自分の話のように感じられるはずだ。しかし、そのゲームの中でも人々は時には互いを助けあい、ドラマの最後に主人公は、自分はゲームのコマではなく人間だと言う。今は人々が力を合わせ現実のイカゲームを止めなければならない時だ。

//ハンギョレ新聞社

イ・ガングク|立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1013818.html韓国語原文入力:2021-10-05 02:40
訳M.S

関連記事