日本軍「慰安婦」被害者のことを「売春婦」と主張する論文を書いて物議をかもした米国ハーバード・ロースクールのジョン・マーク・ラムザイヤー教授が、関東大震災での朝鮮人虐殺を歪曲した論文も作成していたことが明らかとなった。
ラムザイヤー教授は、2019年に発表した「自警団:日本の警察、朝鮮人虐殺と私立保安業者」と題する論文で、非正常な状況において人々は私的な治安手段を求めるという論理を展開し、関東大震災当時の朝鮮人虐殺を例に挙げた。関東大震災の朝鮮人虐殺のことを「朝鮮人の犯罪に対する日本人の正当防衛だった」とする日本の右翼の主張と同じ脈絡の主張だ。実際には、1923年9月1日の関東大震災の発生後、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマが広がり、日本の自警団と警察が数千人の朝鮮人を虐殺したというのが定説となっている。
ラムザイヤー教授は「朝鮮人暴徒が家に火をつけながら横浜から東京に向かっている」というような当時の日本の新聞記事を引用している。しかし日本国内でも、このような記事を学術的に大真面目に朝鮮人暴動の証拠として扱うことはほとんどない。大地震直後の極度の混乱期に日本の新聞が誤報を乱発したためだ。さらに大地震から3年後の1926年には、日本の内務省が「朝鮮人暴動」に関することを含めて各種の誤報例を提示しているほどだ。
ラムザイヤー教授は、朝鮮人が一部で強盗、窃盗、性的暴行などをはたらいたという1923年の日本の司法省の発表を引用し「数字は少ないが、当時は警察の人員が不足していたことを考慮すべき」と書いている。しかしラムザイヤー教授が引用した司法省の発表は、身元不詳の朝鮮人加害者と身元不詳の日本人被害者が多数登場するものであり、発表当時から信頼性に疑問を呈する声が多かった。日本の警察が自警団の犯罪を黙認したり加担したりしていた当時の状況に関する記述は、この論文には登場しない。ラムザイヤー教授は、1920年の人口調査によると、日本に居住する朝鮮人の多くが男性で若かったとし、「若い男性はどこでも犯罪率が高い集団だった」と記し、当時の日本に居住していた朝鮮人を犯罪予備軍扱いしてもいる。
関東大震災の朝鮮人虐殺は、右派的な日本人も長きにわたり否定できなかった歴史的事実だ。しかし、最近の日本社会の右傾化の強まりにより、関東大震災での朝鮮人虐殺を歪曲したり、甚だしくは否定する人まで出てきている。
ラムザイヤー教授が書いたこの論文はオンラインで公開されており、今年8月に英ケンブリッジ大学から出版される予定となっている。米イースタン・イリノイ大学史学科のイ・ジンヒ教授はケンブリッジ大に抗議文を送り、「こうしたでたらめな歴史歪曲論文を、経済研究や法制研究という見栄えのする名のもと、ハーバードの教授の名義を掲げ、米国だけでなく世界的に有名な学術出版社が掲載することがないよう、方法を講じなければならない」と指摘した。