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[キル・ユンヒョンの新冷戦韓日戦16]朝米実務交渉の“反転カード”、空しく不発に

登録:2021-02-11 12:04 修正:2021-10-20 07:16
朝米実務交渉の北側交渉代表のキム・ミョンギル外務省巡回大使が2019年10月5日(現地時間)夕方6時30分頃、スウェーデン・ストックホルム北朝鮮大使館前で、声明を通じて「交渉は我々の期待に応えず決裂した」と述べた=ストックホルム/聯合ニュース

 キム・ユグン大統領府国家安保室第1次長が無表情で春秋館2階のブリーフィング会場の演壇に立ったのは、2019年8月22日午後6時20分だった。キム次長は「日本政府が8月2日、ホワイト国(グループA)から韓国を除外したことで、両国間の安保協力環境に重大な変化をもたらしたものと評価する。こうした状況で、政府は敏感な軍事情報交流を目的に締結した協定を持続させることは韓国の国益に合致しないと判断した」と述べた。韓国が、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を「維持」あるいは「条件付き維持」という見通しを破って「終了」という衝撃的な決定を下したのだ。続くバックブリーフィングで大統領府当局者は、「国家安全保障会議(NSC)常任委員会が午後3時に開催された。この席で延長するかどうかについて深く議論し、終了を決めた。続いて大統領府与民1館3階の大統領執務室の隣の小会議室に場所を移し、大統領に決定を報告した。約1時間にわたりもう一度討論を行い、大統領がこれを裁可した」と明らかにした。

 この決定は、2019年2月末の「ハノイ決裂」でこじれてしまった東アジアの安保情勢に複雑な波紋を投げかけた。

 当事国である日本は、驚きと怒りの感情を隠さなかった。河野太郎外相はこの日夜9時30分、ナム・グァンピョ駐日韓国大使を呼んで抗議した後、夜10時6分、外務省中央玄関ロビーでカメラの前に立った。河野外相は「現下の地域の安全保障環境を完全に見誤った対応と言わざるをえない。こうした決定をしていることに断固として抗議をしたい」と述べた。米国も激しい拒否反応を見せた。マイク・ポンペオ国務長官は22日、カナダ外相との会談後の記者会見で、「私は今朝、韓国のカウンターパート(カン・ギョンファ外相)と話した。我々は情報共有協定について韓国人が下した決定に失望した」と述べた。米国防総省も同日、2回の声明を通じて「強い憂慮と失望を表明する」と発表した。米国が東アジアの主要同盟に「失望した」という感情を表したのは、日本の安倍晋三首相の2013年12月の靖国神社参拝以来初めてだった。これと対照的に、中国外交部報道官は「国家協力の実施や終了は国家の権利」だとし、韓国を擁護した。

 米国の「失望した」という反応に当惑したキム・ヒョンジョン国家安保室第2次長は23日、記者会見を自ら開き「GSOMIA問題の検討過程で米国と随時疎通」していると釈明した。しかし、韓米日3カ国の安保協力に対する米国の基本的立場をキム次長があまりにも安易に判断したのではないかと批判せざるを得ない。中国の浮上に対抗して日米同盟を強化し、韓日の歴史対立を解決(12・28合意)して韓米日3カ国安保協力を強化していくというのは2010年半ば以降、米国が一貫して推進してきた東アジア政策の「核心」だった。そうした意味で、GSOMIA離脱は米国が引いた「レッドライン」を超える一種の逸脱行為だった。日本を押さえるためにこのような超強硬姿勢に出るならば、南北の意思疎通が円滑で、朝米核交渉が着実に成果を上げる「有利な時点」を選ばなければならなかった。そうしていたら日本も7月初めのような「卑劣な報復」を敢行できなかっただろう。しかし「ハノイ決裂」で南北対話は中断状態であり、6月30日の板門店での「サプライズ会談」で朝米間実務会談が再開されることにはなったが、成功の可能性は極めて不透明だった。四面楚歌の不利な戦場で全兵力に「突撃前へ」と叫んだなら、その後の結果は火を見るよりも明らかだった。

 この頃、韓国政府は北朝鮮との関係で解決しがたい“ジレンマ”に直面していた。文在寅(ムン・ジェイン)政権の主要な公約の一つだった「任期内の戦時作戦統制権の移管」を終えるためには、国防費を大幅に増やし、韓米合同軍事演習を実施しなければならなかった。しかし、北朝鮮はハノイの失敗で「制裁解除」ではなく「敵対視政策の撤回」を要求し、F-35などの新型兵器の導入や韓米合同軍事演習などに厳しい反応を見せていた。これに対する北朝鮮の最後通告が出たのは、7月26日の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の「勧言」を通じてだった。金委員長はこの日、新型戦術誘導兵器の威力示威射撃を参観した後、「南朝鮮当局者が事態発展の展望の危険性を適時に悟り、最新兵器の搬入や軍事演習のような自滅的行為を中断し、一日も早く昨年4月、9月のような正しい態度を取り戻してほしい」と述べた。米国のジャーナリストのボブ・ウッドワードが著書『怒り(RAGE)』で「がっかりした友達あるいは恋人」の手紙のようだったと描写した10日後の「親書」(8月5日分)で、金委員長はドナルド・トランプ米大統領に「私の信用は、実務的交渉が進められている間は挑発的訓練が取り消されるか延期されるということだった。朝鮮半島南部で行われる軍事演習は、誰に向けられているのか。彼らは誰かを封じ込めようとし、誰を倒して攻撃しようとしているのか」と尋ねた。金委員長は自尊心が大きく傷つけられたのか「南朝鮮の軍隊は私の相手にならない」と大言壮語を残した。

 しかし、GSOMIA終了という強気に出た政府は、米国と国内の保守層の憂慮を遮断するために「国防力強化」を強調しなければならなかった。キム・ヒョンジョン第2次長はGSOMIA終了の背景を説明する23日の会見で、「政府は今後、国防予算の増額、軍の偵察衛星など戦略資産の拡充を通じて安保力量強化を積極的に進めていく」と述べ、文在寅大統領も29日の国務会議で日本に「正直にならなければならない」と批判を述べた後、「強い国の基盤である自主国防と外交力の強化」に向けて「2020年国防予算は今年に比べ7.4%増えて、史上初めて50兆ウォン」を策定したと明らかにした。崇実大学のイ・ジョンチョル教授(政治学)は2020年6月、慶南大学極東問題研究所の討論会で、「韓国政府は2019年8月の局面で、韓日対戦を中心としたGSOMIA脱退をイシューの中心とし、南北関係を後方に置いた」と評価したが、これは実に「痛恨の指摘」と言える。

 GSOMIA終了に対する北朝鮮の反応は日米とは違い、言葉ではなく行動で行われた。24日、咸鏡南道宣徳(ソンドク)から東海上に「最強の我々式超大型放射砲」を試験発射したのだ。この光景を現場で指導・監督した金委員長は「敵対勢力の加重する軍事的脅威と圧迫攻勢を断固として制圧粉砕する我々式の戦略・戦術兵器開発を引き続き強く働きかけていかなければならない」と強調した。日本防衛省は、この日の発射のニュースを韓国合同参謀本部より26分早い朝7時10分に発表した。匿名の外務省幹部は朝日新聞の25日付紙面のインタビューで「日本は米国と連携しているし、独自に情報収集している。日本の能力が高いことを示せた」と述べた。「韓国の支援など必要ない」という冷淡な反応だった。激しいもみ合いを繰り広げた韓日は、長期間の冷却期に突入せざるを得なかった。日本では東京大学の和田春樹名誉教授ら知韓派の知識人が7月25日、「韓国は敵なのか」という声明を発表してムード転換に乗り出したが、社会全体の嫌韓ムードを変えることはできなかった。

 唯一の反転カードは、まもなく朝米実務交渉が再開されるという情報だった。8月末までポンペオ長官に対して荒々しい言葉を発していた北朝鮮は、突如9月9日、チェ・ソンヒ外務省第1次官の談話を通じて「9月下旬、合意された時間と場所」で実務会談を開くことを提案した。これに呼応するかのようにトランプ大統領は10日、ツイッターを通じて、朝米対話の大きな障害だったジョン・ボルトン国家安保担当補佐官を更迭した。また18日には、北朝鮮が激しく反感を表した「先に非核化」を骨子としたリビア式解決策を批判した。情勢変化を感知した文大統領は9月16日、首席・補佐官会議での冒頭発言で「まもなく朝米実務対話が再開され、南北首脳間の変わらぬ信頼と平和の意志が朝鮮半島平和プロセスを進展させる力になるだろう」と述べた。続いて9月末、韓国首脳としては初めて3年連続で国連総会に出席した。23日の韓米首脳会談に続き、24日に国連総会基調演説を行った文大統領は「(朝米)両首脳がさらに大きな一歩を踏み出すことを願う」と切に訴えた。

 誰もが首を長くして待っていた朝米実務交渉の日程が公開されたのは、10月1日のチェ・ソンヒ第1次官の談話を通じてだった。10月4日に予備接触、5日に実務交渉が予告された。これに先立ち北朝鮮は「交渉力強化」を狙ったのか、2日に東海の元山(ウォンサン)湾水域で潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)である北極星-3型を発射した。最大飛行高度は910キロ、距離は約450キロだった。慌てた安倍首相は午前8時57分、カメラの前に立ち「安保理決議違反」と強く抗議したが、トランプ大統領は「レッドライン」を超えた北朝鮮の挑発にも沈黙を守った。

 5日、スウェーデンの「ヴィラ・エルヴィックストランド」リゾートで開かれた朝米実務交渉は、午前2時間、午後4時間で終わった。午後6時30分、交渉を終えて駐スウェーデン北朝鮮大使館に戻ったキム・ミョンギル外務省巡回大使は、5分後に約30人の取材陣の前に戻り、準備した声明を読み上げた。

 「米国はこれまで柔軟なアプローチ、新しい方法、創発的な解決策を示唆し期待を膨らませたが、何も持って来ず我々を大きく失望させ、交渉意欲を失わせました」。交渉が虚しく決裂したのだ。最後の切り札がなくなったため、韓国はもはや「組織的退却」を準備しなければならなくなった。(続)

<※文中肩書は当時>

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|統一外交チーム長。大学で政治外交学を専攻。駆け出し記者時代から強制動員の被害問題と韓日関係に関心を持ち、多くの記事を書いてきた。2013年秋から2017年春までハンギョレ東京特派員を務め、安倍政権が推進してきた様々な政策を間近で探った。韓国語著書に『私は朝鮮人カミカゼだ』、『安倍とは何者か』、『26日間の光復』など、訳書に『真実: 私は「捏造記者」ではない』(植村隆著)、『安倍三代』(青木理著)がある。

(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
http://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/982449.html韓国語原文入力:2021-02-1002:40
訳C.M

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