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[キル・ユンヒョンの新冷戦韓日戦6]田中均「一日で非核化することなど決してない」

登録:2020-10-07 03:18 修正:2021-01-28 08:50
日本総合研究所国際戦略研究所の田中均理事長が、2019年11月20日に釜山海雲台区のBEXCOで開催されたハンギョレ釜山国際シンポジウム「米中戦略競争と東アジア:朝鮮半島平和プロセスの機会と挑戦」に出席し、発言している。釜山/シン・ソヨン記者//ハンギョレ新聞社

 「ここまで来るのは、簡単なことではありませんでした」

 史上初の朝米首脳会談を取材するために集まった写真記者たちのフラッシュの洗礼を受けながら、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は「破顔大笑」してみせた。そして数百回は練習したであろう「意を決した発言」を口にした。2018年6月12日午前9時16分(現地時間)。「SF映画のような」世紀の会談が行われたシンガポール・カペラホテルの会議室。金委員長は「我々の足を引っ張る過去があり、また誤った偏見と慣行が時には我々の目と耳を塞ぐこともあったが、すべてを乗り越えてここまで来た」と複雑な思いを詰め込んだ「冒頭発言」を終えた。逐次通訳で伝えられた金委員長の話を聞いたドナルド・トランプ大統領は「それは事実だ(That's true!)」と述べ、手を差し伸べて握手を求めた。

 それから4時間後、歴史的な6・12朝米シンガポール首脳会談の共同声明が公開された。この文書を受け取った日本は驚愕した。共同声明には「朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)は『板門店宣言』を再確認しつつ、朝鮮半島の完全な非核化のために努力することを確約した」という文句が入ってはいたものの、非核化の時期や方法などの「具体的内容」は抜けていたからだった。米国が固執してきた「永久かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」という表現も明記されていなかった。にもかかわらず米国は金委員長に「新たな関係樹立」と「朝鮮半島の恒久的かつ強固な平和体制構築」を約束するという大きな贈り物を与えた。それだけではなかった。トランプ大統領は会談後の記者会見で、韓米合同軍事演習には「巨額の費用がかかる」ことを理由に、交渉が進められている間は演習(war game)を中止するという「サプライズ宣言」を行った。日本の安倍晋三首相は会談直後、記者団に対し「今回の首脳会談で、朝鮮半島の非核化に向けた金正恩委員長の意志を今一度文書の形で確認した。北朝鮮をめぐる諸懸案の包括的解決に向けて一歩を踏み出した」との評価を述べた。心の中に沸きあがる不満を最大限抑えた外交的レトリックだった。

 日本国内の北朝鮮専門家たちは一斉に憂慮の声を上げた。2002年9月の小泉純一郎首相の訪朝を実現させた日本総合研究所国際戦略研究所の田中均理事長(元外務審議官)は、朝日新聞の「論座」への寄稿で「北朝鮮の核廃棄に向けて明確で具体的な合意をもたらすと期待していたとすれば、首脳会談の合意は明らかに期待はずれだ。大きな失望を禁じえない」と書いた。日本国内の朝鮮半島研究の第一人者である小此木政夫慶応大学名誉教授も、「(共同声明の)論理構成は従来の北朝鮮の主張に沿ったものだ。まず非核化を達成するのではなく、米朝相互の信頼醸成を通じて非核化を促進していくという点がそうだ。北朝鮮側はすでに(米朝が)『段階的非核化に合意した』と伝えている」と述べた。

 トランプ大統領が文書に署名した経緯は、ジョン・ボルトン前国家安保担当大統領補佐官の回顧録と、朝日新聞のソウル特派員だった牧野愛博氏の著書「『ルポ 金正恩とトランプ』などから、おおよその全貌を把握することができる。朝米は会談が決定した5月末から会談直前まで、合意文案作成のための「集中協議」を続けていた。この実務会談を主導したソン・キム駐フィリピン大使は当初、声明にCVIDと2020年(トランプ大統領の任期)までにという非核化の期限を明記しようとしていた。しかし、北朝鮮の実務交渉代表であるチェ・ソンヒ外務次官の防御は鉄壁だった。チェ次官は、当初は「非核化」という用語の使用さえ強く拒否した。米国が北朝鮮の体制を保障し、朝米間に信頼関係ができなければ非核化は不可能との主張を曲げなかったのだ。北朝鮮があまりにも体制保障にばかり集中したため、時に米国側が声を張り上げることもあった。チェ・ソンヒ次官は「共同声明で非核化に言及することは問題ない」という線までは譲歩したものの、CVIDには断固反対した。不安になった安倍首相は、シンガポール会談直前の6月7日の首脳会談で「CVIDを絶対に明記すべきだ」と繰り返し強調したが、トランプ大統領はCVIDの概念さえ理解していない状況だった。

 11日、シンガポールに到着したトランプ大統領に、マイク・ポンペオ米国務長官が、膠着状態に陥った実務交渉の情況を報告した。これに対するトランプ大統領の反応は、この会談は「広報イベント」であるため、「実質的な内容のないコミュニケ(共同声明)に署名し、記者会見で勝利を宣言して、ここを去ろう」というものだった。ギリギリまで続いた実務交渉の争点は、「終戦宣言」を対価として北朝鮮が具体的に何を出してくるかだった。「強硬派」ボルトンの立場は「明らかな対価を得るまで、終戦宣言は受け入れられない」というものだった。協議当日の12日午前1時、マシュー・ポッティンガー国家安保会議副補佐官が寝ていたボルトンを起こして、交渉が依然として膠着状態であることを伝えた。終戦宣言とその対価についての合意がなければ、共同声明は「簡素な声明(short statement)」にならざるを得なかった。トランプ大統領は12日午前、予想外にも、終戦宣言について言及していない短い文書に満足していると述べた。

 金正恩委員長は会談の結果に大いに満足した。「朝鮮半島非核化」の意志を明らかにしただけで、韓米合同軍事演習の中止と、新たな朝米関係の樹立、朝鮮半島平和体制構築に対する約束を引き出したからだ。金委員長は拡大会談でトランプ大統領に「北朝鮮の脅威を受けないで済むため、お互いに核ボタンの大きさを比較することもないだろう」と冗談を飛ばした。まるで公認された核保有国の首脳のような態度だった。そして「トランプ大統領が(ボルトン前補佐官らが反対した)『行動対行動』アプローチに合意してくれて嬉しい」と述べ、「次は国連(安保理)制裁の解除か」と尋ねた。しかしトランプ大統領は「行動対行動」アプローチに同意したことはなかった。金委員長がこの時点で、トランプ大統領が自分に完全に説得されたと「錯覚」していたことが分かる部分だ。北朝鮮の論理によると、1回目の会談で「韓米演習中止」という成果を得たのだから、2回目の会談の目標は国連制裁の解除にならねばならないはずだった。北朝鮮は実際に2・28ハノイ会談で、寧辺核施設廃棄の対価として、2016年以降国連が科している制裁の解除を要求することになる。2・28ハノイの破局の原因は、結局この「認識の不一致」だった。

 日本の保守の感情を代弁する月刊誌『文藝春秋』は、6・12合意が公開された直後の2018年8月号に佐藤優元外務省主任分析官と田中均元外務審議官の寄稿を並べて掲載した。佐藤氏はこの寄稿で「このゲームの勝者は金正恩」と述べ、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)さえ除去すれば済む米国と、中・短距離ミサイルの標的となる韓国・日本の事情は違うと指摘した。つまり、安倍首相は「日米は100%共にある」と何度も強調したが、6・12合意を通じて利害が一致しなくなったという認識を明らかにしたのだ。だとすれば、日本も対米依存から脱し、北朝鮮と独自の対話を模索する方向へと進まなければならなかった。その上、日本は安倍首相が「国政の最優先課題」と言ってきた「拉致問題」という難題を抱えていた。

 続く寄稿文で田中氏は、朝米合意は「期待外れ」と述べつつも、「合意の方向性は正しい」と言い切った。非核化に向けて朝米が信頼を築かなければならないという考え方が、自らが命をかけて進めた2002年9月の朝日平壌(ピョンヤン)宣言の基本的な考え方と一致するという見解だった。一時、日本の外務省内の「最高の戦略家」と呼ばれた田中氏は「私は現在の状況が本当に嫌だ。米国はもちろん日本の大切な同盟国であり、基本的価値を共有している。しかし、朝鮮半島問題においては利害が一致しない部分が実に多い。日韓を無視し、朝鮮半島の諸事案を米国の論理だけで決めることを断固として阻止すべきだ」と述べた。

 寄稿が一般に公開された7月3日、田中氏は日本記者クラブで講演した。講演の冒頭で彼は「ここでの会見は10回目」だが「これが最後だという思いを込めて」日本政府に対し「圧力」一辺倒の対北朝鮮政策を転換することを求めた。彼の主張の肝は、北朝鮮と日本が東京と平壌にそれぞれ連絡事務所を設置すべきだというものだった。

 「米朝首脳会談の結果、非核化はどうなるでしょう。皆さんどう思いますか。ポンペオ氏が北朝鮮に行けば、数日以内にロードマップ(非核化の日程表)ができると思いますか。それは不可能です。歴史を知っている人なら分かるはずです。(では)何が必要なのでしょうか。北朝鮮が非核化するにあたって(日本がそれなりのやり方で)関与すべきです。北朝鮮が一日で非核化することは決してありません。北朝鮮の核を(一気になくすことはできなくても)減らしていくことが日本の利益になると思いませんか」

 田中氏の叫びに、首相官邸はこれといった反応を示さなかった。しかしその後、日本でも朝日首脳会談の必要性を指摘する声が出始める。(続)

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|統一外交チーム記者。大学で政治外交学を専攻。駆け出し記者時代から強制動員の被害問題と韓日関係に関心を持ち、多くの記事を書いてきた。2013年秋から2017年春までハンギョレ東京特派員を務め、安倍政権が推進してきた様々な政策を間近で探った。韓国語著書に『私は朝鮮人カミカゼだ』、『安倍とは何者か』、『26日間の光復』など、訳書に『真実: 私は「捏造記者」ではない」(植村隆著)、『安倍三代』(青木理著)がある。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/963205.html韓国語原文入力:2020-09-22 16:55
訳D.K

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