本文に移動

[キル・ユンヒョンの新冷戦韓日戦4]電撃の朝米会談発表、安倍首相の反応

登録:2020-09-30 10:33 修正:2021-01-28 08:51
2018年3月8日午後(現地時間)、チョン・ウィヨン大統領府国家安保室長(当時)が米ワシントンのホワイトハウスでドナルド・トランプ大統領と面談した後、北朝鮮の金正恩委員長のトランプ訪朝招待などの面談内容を記者団に説明している=ワシントン/AFP・聯合ニュース

 「グッドイブニング。本日私はトランプ大統領に、最近の私の北朝鮮・平壌訪問の結果についてブリーフィングする栄誉を授かりました」

 2018年3月8日夜8時(現地時間)。韓国式のイントネーションが強く残るチョン・ウィヨン大統領府国家安保室長(当時)の英語が、暗くなったホワイトハウスの前庭に響き渡った。チョン室長はこの日、全世界を奇妙な「パニック」に巻き込んだニュースを公開した。ドナルド・トランプ米大統領が、過去70年にわたる朝米間の憎悪と不信を乗り越えて北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長と「今年5月までに会う」というニュースだった。チョン室長の右隣にはソ・フン前国家情報院長(現国家安保室長)、左隣には白髪のチョ・ユンジェ駐米大使(当時)がかすかに笑みを浮かべて寄り添っていた。当時のイム・ジョンソク大統領府秘書室長が季刊誌『創作と批評』夏号のインタビューで描写した通り、韓国外交史に末永く残るまさに「珍奇な光景」だった。

 (当時は現場にはいなかったが)この劇的な会見が決まる状況を伝えるイム室長の説明によると、トランプ大統領は当日午後遅く、チョン室長を突然ホワイトハウスに呼び出した。当時のハーバート・マクマスター国家安保補佐官と事前に会った後、トランプ大統領を表敬訪問しようとしていた韓国代表団は困惑した。案内を受けて入った米大統領の執務室「オーバルオフィス」には、米国側の主要責任者が20人ほど座っており、室内に席を設けられなかった同人数の人々が廊下をうろうろしていた。

 この席でチョン室長は、わずか3日前の5日、平壌でおよそ4時間12分にわたって会談した金正恩委員長が「明確な非核化の意志を持ってトランプ大統領と会うことを希望している」という事実を伝えた。

 トランプ大統領は金委員長の「非核化」メッセージをどのように受け入れたのか。米国の著名なジャーナリスト、ボブ・ウッドワードの2018年の著書『恐怖』によると、バラク・オバマ大統領(当時)は2016年11月10日、ホワイトハウスで当選して2日目のトランプ氏と会った。2人の会談は20分と予定されていたが、実際の会談時間は90分以上続いた。オバマ大統領は在任8年の間、「戦略的忍耐」というもっともらしい名分を掲げ、北朝鮮の核とミサイル問題を事実上放置してきた。その間、北朝鮮は2016年9月に5回目の核実験を強行し、米国本土への打撃に向けた弾道ミサイル能力を確保するため試験発射を繰り返した。遅くも致命的な政策の失敗を悟ったオバマ大統領は、2016年9月の国家安保会議で、北朝鮮の核とミサイルを除去するために米軍が北朝鮮に先制攻撃を加えることが可能か尋ねた。米情報当局と国防総省が1カ月後に下した結論は、「一度の攻撃ですべてを破壊することはできない」というものだった。その後予想されるのは、北朝鮮の報復攻撃による「恐ろしい破局」だった。オバマ大統領はそれから2カ月後、ホワイトハウスを訪れたトランプ氏に「朝鮮半島問題はあなたが始めなければならない最も大きく重要なことになるだろう。その問題が私の最大の悩みの種だった」と言うしかなかった。

 2018年初頭、ようやく南北対話が始まったが、これを眺めるホワイトハウスの見解は極めて否定的だった。唯一の例外はトランプ大統領だった。オバマ政権の「外交業績」と評価されるイランの核協定には極めて否定的だったトランプ(結局、米国はこの合意から一方的に離脱する)は、北朝鮮との対話には積極的に反応した。この判断には、オバマ大統領を超える「偉大な業績」を達成したいという欲望が作用しているのかもしれない。チョン室長の発言にトランプが直ちに反応した。

 「ほらみろ、私が言った通りだろう?そう、それだ。私は会う意思がある。だからあなたが記者会見をしなさい」

 慌てたチョン室長は、マクマスター補佐官と一緒に会見をするとし、一歩引いた。

 「ノー、ノー。一人でやってくれ」

 「マクマスターと相談してやる」

 「ノー。あなたがやれってば」

 この日の風景に関して、牧野愛博元ソウル特派員の昨年の著書『ルポ金正恩とトランプ』をみると、トランプ大統領が「金正恩委員長と4月に(米国の)西海岸」ですぐに会うと急いでいる場面が描かれている。チョン室長は4月末に南北首脳会談が予定されているという事実を伝え、「その後はどうか」と説得した。盛り上がったトランプ大統領は、2018年1月の就任後初めてホワイトハウスの記者室に立ち寄り、「もう少ししたら韓国の安保室長が重要な発表をする」と伝えた。米CNNのジェフ・ジェレニー記者は、奇妙に笑うトランプの顔を自分のアイフォンで撮ってツイッターに載せた。

 チョン室長の劇的な会見が開かれる直前の9日(現地時間)、東京でもう一つの記者会見が開かれた。東京の首相官邸で行われた2分44秒の略式会見で、安倍晋三首相は「苦虫をかみつぶした顔」としか説明できない表情で「今、トランプ大統領と日米(電話)首脳会談を行った。北朝鮮が非核化を前提に対話を始めると言った。こうした北朝鮮の変化を評価する」と述べた。

 同年1月に始まった南北の接近を眺める日本の立場は、冷淡極まりないものだった。わずか3日前の6日、チョン・ウィヨン室長を代表とする韓国特使団が、4月の南北首脳会談開催▽非核化に向けた朝米対話のための北朝鮮の意志確認▽対話期間中の核・ミサイル実験凍結などの成果を発表した後も、こうした態度は少しも変わらなかった。菅義偉官房長官(当時)は翌日の7日、定例記者会見で「北朝鮮問題に対応する時は、北朝鮮と進めた過去の対話が非核化につながらなかったという教訓を十分に考慮して対応しなければならない」と述べた。菅官房長官はこの日、マイク・ペンス米副大統領の6日の声明(「北朝鮮が非核化のために信頼でき、検証可能で、明確な措置を取るまですべてのオプションがテーブルの上にある」)をじつに3回も言及し、北朝鮮に対する米日の立場は完璧に一致すると強調した。しかし、9日午前に金委員長に会うというトランプ大統領の通知を受けた後、「北朝鮮の『微笑み外交』にだまされてはならない」という立場が「北朝鮮の変化を評価する」という方向に修正されたのだ。南北関係を改善し、北朝鮮核問題を解決し、東アジアの冷戦構造を崩すという韓国の「現状変更」戦略と、対北朝鮮圧迫と対中国牽制を通じて米日中心の従来の秩序を維持しようとする日本の「現状維持」戦略の間の最初の対決が、韓国の劇的な勝利で終わったのだ。苦い顔の安倍首相と対照的に、文在寅(ムン・ジェイン)大統領はチョン室長の会見直後、「(4月27日に開催される)南北首脳会談に続き(トランプ大統領と金委員長の)二人が会うなら、朝鮮半島の完全な非核化は本格的な軌道に乗るだろう。5月の会談は将来、朝鮮半島の平和を生み出した歴史的な道しるべとして記録されるだろう」と述べ、喜びを隠せなかった。

 しかし、東アジアの望ましい未来像をめぐる韓日間の真剣勝負は始まったばかりだった。トランプの強い希望によって始まった朝米対話自体を阻止することはできなかったが、今後の対話の流れが日本に不利になる場合、すべての外交力を動員してこれを阻止すればいいわけだった。朝鮮半島外交を担当する金杉憲治外務省アジア大洋州局長(当時)は、雑誌『外交』2018年5月付の対談で、日本の今後の対応を予想させる意味深な発言を残した。

 「今、瞬間的に楽観的な雰囲気が形成されているが、その後の展開を冷静に眺める必要がある。(中略)文政権は北朝鮮との和解を一つの目標に掲げて成立した政権だから、北朝鮮との心理的距離は日本、米国とは違う面がある。その点に留意し、日米韓の協力を緩めることなく推進する必要がある。いずれにせよ、対話の目的は北朝鮮の核の『完全かつ検証可能であり、不可逆的な廃棄』(CVID)だということを忘れてはならない」

 その後、韓国が韓米日協力から外れないようにしようとする日本の凄絶な対米アプローチが続く。河野太郎外相(当時)は3月16日、マクマスター補佐官、ジェームス・マティス国防長官らと会い「北朝鮮の核・ミサイルを放棄させるために最大限の圧力をかけなければならない」と述べ、安倍首相は4月17~18日の2日間、3回もトランプ大統領と会談し、韓国の逸脱を牽制した。この会談の結果を伝える日本外務省の資料によると、「両首脳は北朝鮮がCVID方式を通じてすべての大量破壊兵器とすべての弾道ミサイル計画を放棄することが必要だということを確認した」という表現が登場する。核だけでなく北朝鮮が中・短距離弾道ミサイルまで放棄しなければならないという、実現不可能な「最大値の要求」だった。

 これに先立ち、さらなる衝撃的なニュースが朝鮮半島を強打する。北朝鮮核問題を担当するホワイトハウス国家安保補佐官が、3月22日に突然交代したのだ。米陸軍将軍出身のマクマスターの後任に決まったのは、奇妙な口ひげを生やした「悪名高い」元祖ネオコンだった。北朝鮮の政権交代を公然と主張してきた対北朝鮮超強硬派のジョン・ボルトンが、歴史の前面に再登場する瞬間であった。(続)

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|統一外交チーム記者。大学で政治外交学を専攻。駆け出し記者時代から強制動員の被害問題と韓日関係に関心を持ち、多くの記事を書いてきた。2013年秋から2017年春までハンギョレ東京特派員を務め、安倍政権が推進してきた様々な政策を間近で探った。韓国語著書に『私は朝鮮人カミカゼだ』、『安倍とは何者か』、『26日間の光復』など、訳書に『真実: 私は「捏造記者」ではない」(植村隆著)、『安倍三代』(青木理著)がある。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/959351.html韓国語原文入力:2020-08-26 22:14
訳C.M

関連記事