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[寄稿]今必要なことは遠隔医療ではない

登録:2020-07-11 05:40 修正:2020-07-11 07:21
5月27日、全国保健医療産業労働組合が「遠隔医療」推進の中止と医療公共性の拡充を求める記者会見を大統領府前で行っている// ハンギョレ新聞社

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はあらゆる分野で新しい標準を要求している。この変化は人間の生命と安全を守るためのものであるから選択の余地がない。拒否できない流れである。こんな時ほど、妥当でない変化まで入り込むのではないかと注意深く見る必要がある。「非対面医療サービス」と名称だけ変えた遠隔医療導入がそれに該当する。

 医師が患者を直接診る対面診療よりどんな点が優れているといって、政府と関連産業界で異口同音に導入賛成を表明するのだろうか。

 いくつか長所はある。情報通信技術を利用して島しょ地域や医療機関に簡単に行くことのできない患者の場合、有用であり得る。医師と患者の間の感染を予防することができる。様々な理由で病院に行くのをためらっている患者にもいいかもしれない。一言で言って、医師と患者の双方が「負担なく」診療に応じることができる。

 では、医療界が反対の声を上げる理由は何か。最も大きな問題は医師と患者の間の疎通と共感が減って、患者の病歴聴取が難しくなる可能性があるということだ。また、聴診・触診なしに画面だけで見て診断するので誤診の危険が大きくなり、診療後に緊急な状況が生じても直ちに治療を始めることができないという問題がある。その上、情報通信技術を利用して映像で診療記録などを保存・伝送する過程で患者の個人情報が露出する危険も大きい。すなわち、患者は便利さを得る代わりに「正確な診断の機会」を放棄せざるを得ないこともあるということだ。

 さらに、遠隔医療によって年齢、経済的条件、教育水準、地域による医療アクセスの不均衡が生じ得るのであり、医療伝達体系の歪曲と共に結局は営利化につながる可能性がある。現時点での遠隔医療は不完全な診療により、患者にとって得るものより失うものが多いために反対するのだ。

 このような問題点があるにもかかわらず、大学病院や総合病院など「巨大病院」を代弁する大韓病院協会や経済団体、ヘルスケア業界が賛成するにはそれだけの理由がある。遠隔医療が導入されれば金を儲けることができるからだ。患者は遠隔医療が可能な大型病院に集中するだろうし、遠隔医療機器・資機材を製造する業者は多大な利益を得ることになるだろう。遠隔医療技術を活用したヘルスケア業者も乱立する可能性が大きい。反対に、町内の病院・医院は患者が減って廃業に追い込まれる恐れがあり、それによって国民の医療アクセスは困難になるだろう。

 医師は患者の状態を正確かつ綿密に診断しなければならない。そのような面で遠隔医療は便利さと効率性だけに焦点を合わせたシステムであり、必須医療の範疇に属すると見ることはできない。必須医療とは国民の健康と生命に必須の医療のことであるが、遠隔医療の導入は患者の便利性に寄与するだけで「国民の生命」とは直結しないからだ。実際のところ、患者の便利性も遠隔医療技術の「安全性」と「有効性」が検証されていないので実効性があるかどうか疑問である。

 政府は憂慮される遠隔医療導入議論を中断し、むしろ「包括的必須医療システム」の確立に努めてはどうだろうか。国民の生命・安全および基本的生活の質を保障する必須医療システムを準備して児童と母性、精神疾患者、障害者など脆弱階層をケアし、COVID-19のような感染病に対する安全体系を設けるのだ。

 COVID-19が深刻だが、このような時こそ基本に忠実でなければならない。新種感染症の出現が非対面イシューを呼び起こしたわけだが、遠隔医療導入に近視眼的に没頭するのではなく、包括的に接近すべきである。今必要なのは遠隔医療ではなく必須医療の整備・確立であることを明確に認識すべきだ。常に守られなければならない価値が存在する。便利さだけを追求するならば、私たちがこの猛暑の中でマスクを外さない苦労をする理由がないではないか。

//ハンギョレ新聞社

イ・ピルス大韓医師協会副会長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/951809.html韓国語原文入力:2020-07-01 17:35 
訳A.K

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