蔓延する不平等と既得権政治に怒った民衆のデモが世界各地で噴出している。特にこの数カ月間はアジアや中東をはじめ南米、欧州、アフリカ大陸に至る世界全域で、街を占領した市民たちが政府の強硬策に対抗し、融和策を拒否しながら、抜本的な改革を要求している。
28日、チリの首都サンティアゴでは、政府による地下鉄料金の引き上げがきっかけとなった「民生苦デモ」が3週目に入っていた。このデモは終わりなき競争と社会的セーフティネットの弱体化の別名「新自由主義」に対する反対デモへと激烈に拡大した。セバスティアン・ピニェラ大統領は先週、首都圏一帯に非常事態を宣言した後に撤回したのに続き、この日は大規模な内閣改造を断行したが、爆発した民衆をなだめるには不十分だ。
イラクでは腐敗の清算と生活苦の解決を要求する激しいデモと政府の強硬鎮圧が今月1日から1カ月近く続いており、28日までに死者だけでも240人に迫るとAFP通信が伝えた。イラク政府は同日から夜間通行禁止に踏み切った。前日27日にはレバノンでも腐敗の清算と政治改革を求める反政府デモが11日目に突入しており、学校と銀行が1週間閉鎖されたままだ。同日、レバノンでは数万人の市民が首都ベイルート南部のティレまで手を取り合って国土全体を南北に縦断する長さ170キロメートルの人間の鎖を作り、連帯の意志を固めた。
3月に「反送中(逃亡犯条例改正反対)」デモから始まった香港のデモは「反中国民主化デモ」へと拡大し、7カ月たった今も収まる気配がない。スペインはカタルーニャ分離独立デモ、英国はブレグジットの賛成反対両派のデモで表出された対立の溝が深い。気候変動や生態系の危機に対する各国政府や企業の積極的対応を求めるデモも、世界全域で後を絶たない。
世界各地で起きているデモの様相と内容はそれぞれ異なるが、その底には社会的・経済的な二極化や民意をまともに代弁できない政治エリートに対する失望と怒りがある。英日刊紙ガーディアンは最近、「全世界でデモを触発したきっかけは多様だが、中産層の崩壊、民主主義の抑圧、変化の可能性に対する確信が(デモの)燃料になっている」と分析した。
インターネットやSNSなどのオンラインネットワークに支えられ、知識・情報の位階秩序が再編され、特定の指導部がなくても不特定多数による大規模なデモが可能になったのも20世紀の権力構造では想像しがたかった風景だ。フランス国際関係研究所のティエリ ・ド・モンブリアル氏はガーディアン紙上で「伝統的な上意下達式公権力システムがますます挑戦を受けており、参加型民主主義に対する要求が拡大する社会革命が起きている」と指摘した。
多くの国でデモ参加者が今年公開されたハリウッド映画『ジョーカー』の主人公に扮しているのも目を引く。映画『Vフォー・ヴェンデッタ』で有名になったデモ隊の定番仮面「ガイ・フォークス・マスク」の別バージョンだ。映画の中のジョーカーはコメディアンになりたいという素朴な夢を抱いていたが、日常の暴力と既得権の偽善に阻まれ、絶望したあげく悪者になっていく。フランスの歴史作家ウィリアム・ブランは最近、フランス24の番組で「映画『ジョーカー』は本当に挑発的な力があり、人々の声に耳を傾けず硬直した政治システムに対する抵抗のひとつの形態を反映している」と語った。『ジョーカー』において善と悪の区分が曖昧なように、世界全域を覆うデモも客観的な数値で区別されている富裕国と貧困国の境界が存在しない。『貧困の終焉』、『持続可能な発展の時代』などの著書がある米コロンビア大学のジェフリー・サックス教授(経済学)は最近、プロジェクト ・シンジケートへの寄稿に「フランス、香港、チリの役人は大衆の情緒とかけ離れており、燃料税の引き上げ、逃亡犯条例改正の推進、地下鉄料金の引き上げなど、一見穏健な政策が巨大な社会的怒りを触発しうることを見通せなかった」と書いた。これらの国々は伝統的基準では豊かで競争力があるが、実際に国民は日常生活に満足できていないというのだ。サックス氏は「一人当たりの国内総生産(GDP)はその国の国民の単なる平均所得にすぎず、所得の分配、公正さに対する大衆の認識、金融脆弱層の危機感、政府の信頼度などの全般的な生活の質を左右する他の条件については何も示せない」と指摘している。