「米国ではまだ多くの人々が『貧乏は個人のせい』であり、自ら解決しなければならないものだと思ってます。こうした固定観念を壊したい」
テイラー・ジョー・アイゼンバーグ「経済的保障プロジェクト」(ESP)常任理事は、15日に開かれた「新しい想像2018」カンファレンスを翌日に控え、ハンギョレのインタビューに応じてこのように述べた。「基本所得は人間の品位に関するメッセージ」というのが彼女の主張だ。ESPはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のフェイスブックの共同創業者クリス・ヒューズが、不平等問題を解決するために作った米国の研究財団だ。
ESPは来年、米国カリフォルニア州ストックトンという人口30万の都市でベーシック・インカム(基本所得)の実験を計画中だ。無作為に選定した100人の市民に1年半の間、毎月500ドルを与える。実験の核心は、貧しい人に対する米国民の固定観念を壊すことだ。
アイゼンバーグ氏は「貧困が個人の失敗のせいだという考えを壊すには、ベーシック・インカムを通じて貧しさから脱した成功の“ストーリー”が必要だ。人々を説得するには、計量化された数値よりストーリーがより良い手段だ」と話した。
ストックトンは富の偏重が激しく、多くの人々が1日2ドルも稼げないところだ。「自動化」のスピードが速く、仕事も早いテンポで消えている。27歳の若さのマイケル・タブス・ストックトン市長は、ここで不遇な子ども時代を過ごした。多くの米国人のようにタブス市長もマーティン・ルーサー・キング牧師の影響を受けた。キング牧師は1968年、39歳で生涯を終える前に残した本で「貧困を解決する最も簡単な方法は基本所得の保障」と書いた。「経済的安定が拡大されれば、心理的変化が起きる」というキング牧師の期待は、タブス市長の願いと変わらない。
アイゼンバーグ氏はチェロキー・インディアンを対象とした米国のデューク大学のベーシック・インカム実験を例に挙げ、「よく貧しい人たちに現金を渡すと、麻薬や酒を買うのに使ってしまうと考えますが、実験してみると実際はそうではない。より安定的な暮らしに向けて投資する。ベーシック・インカムが保障されれば、人間はより良い選択をするということを示すための“ストーリーテリング”が重要だ」と話した。ESPはストックトンの実験を通じて発掘した成功の経験をもとに、再びさまざまな人々から寄付を受けて実験を拡大していく計画だ。
ESPは昨年末「イントゥー・ザ・ブラック」(黒字の中へ)という名前の短編小説の公募大会を開いた。ベーシック・インカムを保障すると社会がどのように変わるか想像してみようという趣旨だった。1等の受賞作は、人工知能を備えた現金自動預け払い機(ATM)に関するものだった。お金を引き出す人々の表情、残高を確認した時の反応などをATMが読み取り、経済的困難に陥った人を各種社会保障プログラムと連携するというアイデアだった。アイゼンバーグ氏は「どうすれば技術の変化に人にとって良い方向に導くことができるか、基本所得を導入するなら誰のために、どのように導入するかを具体的に考えてみる良い機会だった」と話した。