故金日成主席の直系として初めて訪韓
国家元首に“分身”の家族まで
形と内容いずれも破格
「平昌以降」まで考えた戦略的判断
文大統領と10日に面会する可能性も
キム・ヨジョン副部長を媒介に金委員長と“間接対話”
関係改善越えて北朝鮮の核問題めぐる緊張緩和の分岐点
米国が肯定的に応えた場合は道広がる可能性も
大統領府「第一歩踏み出すだけ」楽観論を警戒
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長の実妹のキム・ヨジョン党中央委員会第1副部長が、平昌(ピョンチャン)冬季五輪を祝うための高官級代表団の一員として韓国を訪れるのは、“破格”と言える。金委員長が自分の考えを最も正確かつ明確に伝える“分身”として、キム副部長を選んだと解釈できる措置で、北朝鮮の高官級代表団の訪韓結果が今後の朝鮮半島情勢に大きな影響を及ぼすものとみられる。
統一部は7日午後、北朝鮮が通知文を送り、キム・ヨンナム最高人民会議常任委員会委員長を団長とする高官級代表団の団員として、キム副部長やチェ・フィ国家体育指導委員会委員長、リ・ソングォン祖国平和統一委員会委員長など3人が訪韓すると伝えてきたと明らかにした。北朝鮮憲法上の“国家元首”であるキム・ヨンナム常任委員長を団長にすることで“形式”の完成を図る一方、金正恩委員長に最も近いキム副部長を送ることで、“内容”まで最高水準に引き上げたものと言える。チョン・セヒョン元統一部長官は「キム副部長は南側で見て聞いたことをそのまま金正恩委員長に報告できる人物」だとし、「金委員長としては(キム副部長を通じて)さらに臨場感のある情報を入手する必要があっただろう」と話した。
北朝鮮の最高指導者一家の一員が韓国を訪れるのは分断以来、今回が初めてだ。そのうえ、キム副部長は金正恩委員長の政権以来、至近距離で彼を補佐してきた点で、北朝鮮にとっては最強の切り札と評価できる。
先月1日、金正恩(キム・ジョンウン)委員長の新年の辞以降、北朝鮮の動きは破格の連続だった。特に1月9日に閣僚級会談を皮切りに、南北対話を通じて様々な合意が相次ぎ、北朝鮮が平昌五輪への参加という一過性の行動を超えて、「平昌以降」まで考えているのではないかという見通しも示された。
イ・ジョンソク元統一部長官は「キム副部長を送る決定は、北朝鮮が南北関係の修復を超えて、積極的に朝鮮半島情勢の安定を目指す意向を示唆したもの」だと話した。平昌五輪を契機に南北関係の復元に始動をかけたのに続き、これを土台に核・ミサイル問題を巡って極限まで高まった朝鮮半島の緊張を緩和するため、キム副部長の来韓という“破格のカード”を取り出したということだ。南北関係に詳しい元当局者は「このような破格の行動は、逆に北朝鮮も朝鮮半島情勢の緊迫感をそれだけ深刻に受け止めていることを示すもの」だと話した。
キム常任委員長を始めとする北朝鮮の高官級代表団は9日、平昌五輪開幕式に出席した後、翌日の10日には大統領府を訪問し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と面会する可能性が高い。キム副部長が金正恩委員長の本音を最もよく知っているという点で、彼女を媒介に文大統領と金委員長が“間接対話”をする状況も考えられる。大統領府関係者は「(キム副部長が)相当の裁量権を持っているものと見られる」としたうえで、「(韓国側と)対話する際も、重みのある内容が話し合われるのではないかと思う」と話した。
すでに南北間に一定の意見交換が行われたはずという分析もある。ク・ガブ北韓大学院大学教授は「北朝鮮がキム副部長の派遣を決定したというのは、南北の間に水面下である程度の情勢に対する認識の共有が行われたことを裏付ける」と指摘した。金正恩委員長が家族を前面に出すくらいなら、核・ミサイル問題で触発された朝鮮半島情勢と関連し、一定の「戦略的判断」を下した可能性もあるいうことだ。
カギは、米国がどのような反応を示すかだ。韓米はすでに年次合同軍事演習を延期する決定を通じて、対話のための最小限の条件を設けた。北朝鮮も昨年11月29日「火星-15」型の試験発射の成功と共に「国家核武力の完成」を宣言して以来、2カ月以上核・ミサイル挑発を止めた状態だ。北朝鮮の積極的な動きに米国が応えるなら、朝米対話につながる“機会の空間”をもう少し広げることもできる。
一方、政府は性急な楽観論を警戒する雰囲気だ。大統領府関係者は「最も重要なのは核・ミサイル問題」だとしたうえで、「第一歩を踏み出すわけだが、最初から(非核化問題のような)本格的な話をするのは容易ではないだろう」と話した。