8日(現地時間)に行われた米大統領選挙でドナルド・トランプ共和党候補が第45代米国大統領に当選した。東アジアと現代国際関係を研究する米国の代表的歴史学者であり政治学者のブルース・カミングス・シカゴ大客員教授(73)から今回の大統領選挙と米国社会、韓米関係、米中関係の未来を聞いた。カミングス教授は『朝鮮戦争の起源』(1986)で有名で、最近出した『アメリカ覇権の歴史』(2011)では、伝統的米国史叙述とは異なり東アジアと太平洋沿岸主義の観点で米国史を整理して注目された。対面インタビューは10月にソウル付岩洞(プアムドン)の與時齋「大化堂」で行われ、大統領選挙後に電子メールを通じて追加でインタビューを進めた。
-ドナルド・トランプ大統領当選者は、選挙過程で移民者・女性など少数者に対する嫌悪を露骨に見せた。ヨーロッパ極右派のように人種主義的情緒を刺激し、これを通じて低学歴白人層の支持を得て当選したという分析もある。今後、米国社会が前例を見ないほどに極端に流れる恐れがある。
「トランプが選挙運動過程で見せた人種主義的言動は、ヨーロッパ極右派と似ていた。大統領当選で政治的成功も成し遂げた。だが、そうした情緒が、実際に米国の政治構図自体を変えることはできないだろう。米国の政治はヨーロッパとは違い、永く中道に収束される傾向を見せてきた。極端な左派も、極端な右派も勢力を伸ばしたことがない。選挙運動期間の極右派勢力拡大ムードは、米国社会の特性を考慮すれば長くは続かないとみる」
-なぜそのように考えるのか?
「米国は根本的にヨーロッパとは異なる歴史を持っている。米国は封建制を経験していない。初期のアメリカ人の大多数は、空いている土地に旗を立てて耕作を始めた中産層農民だった。奴隷制は南部に限定されていた。封建領主のような強力な既得権層がいなかったので、極右派が力を得る可能性は低い。当初は頑丈な中産層が存在したので、極左派勢力も存在し難い。初めから資本主義社会だった米国社会の葛藤は、ヨーロッパとは違い政治地形も変わるほかはない。抵抗なしに定着した資本主義と、根強い自由主義の伝統がある。」
(彼の著書『アメリカ覇権の歴史』によれば、1800年にアメリカ人の90%は農作業をしていたし、すでに活発に農地を売買していた。1863年エイブラハム・リンカーン大統領は奴隷解放令と共にホームステッド法に署名して、アメリカ人が無償で土地の払い下げを受けて耕作できることになった。革命や政治的激変にともなう土地改革で封建制が崩れた他国とは大きな違いだ)
-ヨーロッパ式極右政治が定着することは難しかったとしても、(トランプ以後)対外貿易政策は大きく変わりうるのではないか?
「貿易に関する限り、トランプは保護主義者だ。すでに1980年代から貿易協定を批判してきたし、中国と日本に対して略奪者的な貿易慣行を日常的に行っていると非難もした。環太平洋経済パートナーシップ協定(TPP)は、完全に死亡宣告を受けた。トランプは北米自由貿易協定(NAFTA)の廃棄も公言した。だが、NAFTAは1994年以来、長い間守ってきた協定なのでその廃棄は容易ではないだろう」
-米国は常に自由貿易を擁護してきた。
「戦争中の1941年以後にも自由貿易を支える政治地形は強力だった。その後一度も揺らいだことはない。ところが、その地形は今明確に動揺している。アメリカ経済の脱産業化のせいだ。「ラストベルト」(衰退した工業地帯)という用語は、すでに30年前に出てきた。アメリカは1960~80年代に、日本、韓国、台湾に働き口を奪われた。2000~2010年の統計を見れば、アメリカはこの時期、中国に250万の働き口を奪われた。そのような大きな流れを、トランプが初めて強力な政治イシューに作り出したのだ」
-シリコンバレーの新産業が日増しに発展しているのに、脱産業化が大きな問題になるのか?
「低熟練や、鉄鋼、自動車のような旧産業の衰退は問題ないと見る政治家もいる。ヒラリー・クリントンは大学教育を受けられなかった白人労働者階層の支持を得るための活動はほとんどしなかった。だが、世界大戦以後に生まれたベビーブーム世代は依然として相当な人口を占める。これらの相当数は、中西部地域、あるいは他の地域で農場や自動車工場のようなところで働いてきた人々だ。60代以上のこれらの人々がトランプの核心支持層になった」
-米国の朝鮮半島政策に話題を変えてみよう。トランプ政権でも米国は対北朝鮮制裁を強化するという展望もある。また、選挙期間中、米国では官も民も「先制攻撃」に言及した。
「ビル・クリントン行政府でさえ、1994年当時には先制攻撃をしようとしたという点で(今の「先制攻撃論」に)多くの恐れがあるのは事実だ。幸い、先日のウィリアム・ペリー元国防長官の話を聞いて安堵した。彼は「北朝鮮のミサイルを阻めない以上、先制攻撃には実効性がない」と指摘した。先制攻撃概念はこうだ。北朝鮮が長距離ミサイルを撃つためには、設置後液体燃料注入まで数時間かかる。米国が衛星を通じてあらかじめ観察できる。ミサイル発射の直前に前もって攻撃することができる。これが先制攻撃の概念だ。だが、固体燃料を使うムスダンミサイルが開発された以上、もはや不可能だ。固体燃料は液体燃料とは異なり、常にミサイルに保存しておくことができ、いつでも発射可能だ」
-北朝鮮には統制不能という問題があるのではないか?
「それは事実だが、一種の戦略的安定性はさらに大きくなっていると見る。抑止理論(Deterrence theory)の観点で見れば、冷戦時代にソ連と米国は核兵器を持っていたので両国間に戦争は起きなかった」
-北朝鮮は核開発を続けると見るか?
「もしジョージ・ブッシュ行政府(2001~2009)の威嚇がなかったならば、北朝鮮は核開発をしなかっただろう。大統領就任後、ブッシュは北朝鮮をイラン、イラクとともに“悪の枢軸”と規定した。2002年9月、ブッシュは先制攻撃ドクトリンを明らかにし、これがイラク侵攻につながった。この時期に私は北朝鮮のメディアを注意深く読んだ。北朝鮮はサダム・フセイン大統領が核兵器を持っていなかったために侵攻されたと信じた。そこで公言したのが核抑止力だ。実際、核抑止力を誇示するためにスタンフォード大のジークフリード・ヘッカー教授のような専門家を北朝鮮に招請したりもした。そして、2006年に初の核実験を敢行する。もう強硬派の手に握られた北朝鮮の核は実在する脅威になった」
-バラク・オバマ行政府はいわゆる「戦略的忍耐」政策を固守してきた。その評価と展望は?
「戦略的忍耐戦略は失敗した。対北朝鮮制裁一辺倒は止めなければならない。代わりにキューバ、ミャンマー、イランとそうだったように、北朝鮮とも関係正常化に乗り出さなければならない。至急必要なことは、北朝鮮の核ミサイルプログラムを中断させることだ。今すぐ非核化を要求することは難しい。朝鮮半島の安定なくしては統一は難しい。注目すべき点は、現在北朝鮮は米国、中国、韓国とそれぞれゲームを行っているということだ。一例として、THAAD(高高度防衛ミサイル)配備問題は韓中関係を遠ざけたという側面で大きく間違った決定だ。北朝鮮に核、ミサイル試験をする名分まで提供することになった。米国は日本にもう一つのTHAADを配備しようとしている。短期間にこの地域は分裂の様相を見せている。興味深い点は、北朝鮮は自分たちが米国、中国、韓国をこうした混乱に陥れられることをよく知っているということだ」
-経済的、軍事的側面で米国と中国の葛藤を憂慮する見解も多い。
「もちろん中国問題は深刻だ。実際に米国は中国を包囲しようとしている。すでに中国周辺に相当な海軍力と空軍力を配置している。世界権力の根本軸は、中国と米国の間に置かれているという点を勘案すれば、憂うべき歩みだ。だが、中国と米国の間には途方もない経済的相互依存性が存在するという点も見逃してはならない。南シナ海の九段線のような軍事問題を除いては、多くのアイディアを交流している。このような脈絡で米中両国が自国経済に打撃を与える危機水準まで状況を推し進めはしないだろうと見る。ただし、米国は中国が地域の盟主として残ることを望んでいる。グローバル・ヘゲモニーとして登場することは願わない」
-中国が米国を脅かすほどのグローバル・ヘゲモニー国家になると見るか?
「何よりも軍事力の側面で中国が20~30年以内に米国に追いつくことは難しいだろう。経済的に中国は非常に強力だが、彼らだけの独歩的な技術は見当たらない。極めて重要なことは、中国は民主主義を導入するまでは覇権国家になりえない。民主化以後も覇権国家の地位を得るまでには相当な時間がかかるだろう。事実、中国の最大の問題は、他国の人々を刺激できるだけのソフトパワーがないことだ。現在、中国は1960年代の毛沢東当時よりアイディアが困窮している。中国の平和な浮上(和平掘起)基調を維持した江沢民、胡錦濤時代を見習う必要がある。南シナ海問題などで周辺国と軋轢を拡大するより「低姿勢を維持しろ。時間を稼げ」と強調した鄧小平の話を思い起こすべきだ」
與時齋イ・ウォンジェ企画理事、イ・スクヒョン客員研究員