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[記者手帳]記者が現場で体験した「カプサイシン放水銃」

登録:2015-05-11 22:53 修正:2015-05-12 14:52
セウォル号事故真相究明と政府のセウォル号惨事特別調査委員会施行令案廃棄を要求する「汎国民1泊2日徹夜行動」集会があった1日夜、ソウルの安国洞交差点で警察バスに上がり取材する カメラマンが催涙液が入った液体を放水銃で浴びせられている=イ・ジョンウ先任記者//ハンギョレ新聞社

 「ザァ〜ザァ〜ザァ〜」

 警察の放水車3台から吹き出される放水銃の音が鳴り響いていました。今月1日、ソウル鍾路(チョンノ)区安国(アングク)洞交差点で行われた、政府のセウォル号特別法施行令案の廃棄を促す徹夜集会を取材中だった私を含む記者や1000人の集会参加者は、夜10時12分、最初に発射された放水銃にびっくりさせられました。断続的に使用された放水銃が10時39分からは9分間、休まずにデモ隊に向かって放たれました。セウォル号事故の生存者家族の中には、放水銃に撃たれて倒れる人もいました。車両の壁の上にいた写真記者たちも、車両の下の取材記者たちとデモ参加者たちも、警察が例外なく撃ってくる放水銃にずぶ濡れになりました。

 10時12分、最初の放水銃が発射されてから、何かおかしいと思いました。鼻がむずむずして咳が続いたからです。しかし、警察が鼻の前で吹き付けるカプサイシンスプレーのせいだろうと、思い込んでいました。ところが、10時39分から9分間乱射した放水銃に撃たれてからは、これは「純粋な放水銃ではない」と確信しました。けむたい感じに襲われ、咳やくしゃみをなかなか止まらず、目が痛くて片方の目はしばらく開けられないほどでした。素肌に直接触れた首筋や二の腕は火傷をしたかのように火照り、ヒリヒリしました。周りを見回してみると、皆涙や鼻水を流して、咳やくしゃみをしていました。嘔吐と呼吸困難の症状を示す人もいました。ミネラルウォーターで放水銃に撃たれた部位を洗浄する人たちもいました。道に溜まっている水を見ると、牛乳のような色をしていました。夜明けに帰宅し、シャワーを浴びましたが、首と腕の火照りとヒリヒリした感じは収まりませんでした。この痛みは、翌日になっても半日以上続きました。 1時間20分間放たれた放水銃の正体は「催涙液入り放水銃」でした。その“毒性”を直接体験したからこそ、「老若男女に無差別に撃ってはならないもの」だと思えたのです。

1日のセウォル号・メーデー集会に参加した労働者や市民団体メンバーらが大統領府に向かって行進すると、警察がソウル・安国交差点で車壁で防ぎ、放水銃で催涙液入りの液体を放っている=イ・ジョンウ先任記者//ハンギョレ新聞社

 この催涙液は、「PAVA」と呼ばれる合成カプサイシンの一種です。警察は、2010年からのPAVAを放水銃に混ぜて使い始めました。それ以前には、「CS」と呼ばれる催涙液を使っていました。警察は、1980年代から約30年間、CS入り放水銃を使用してきましたが、発がん性物質など、人体への有害性が問題になると、2009年の平沢(ピョンテク)双龍自動車事態を最後に、CS使用を中止しました。産業安全保健法に基づいて作成された「化学物質等安全保健資料」(MSDS)によると、PAVAは「過度に露出された場合、死亡をもたらすこともある。皮膚や眼への接触・摂取した場合、非常に有害。かゆみ、水泡を引き起こす」などの影響を人体に与えると記載されています。保健医療団体連合は先月19日、「MSDSの内容によると、PAVAの危険性がまだすべて明らかにされたわけではないが、人体に有害な物質であり、『非常に有害な物質』であることは否定できない」と発表しました。

 警察は、「警察内部指針と規定に基づいて使用した」と主張しています。警察は今月1日と先月18日に開かれたセウォル号関連の集会で、放水銃に混ぜたPAVAの濃度は0.03%だと発表しました。警察がスイスから輸入しているPAVA溶液の濃度が3%だそうです。これを1%水に混ぜると0.03%になるわけです。

 警察が催涙液入り放水銃を撃つ根拠は何でしょうか?警察官職務執行法は、放水銃などの「危害性のある警察装備は必要最小限に使用すべきだ」と抽象的に規定しています。具体的な内容は、「危害性のある警察装備の使用基準等に関する規定」「警察装備管理規則」「放水車運用指針」に委任しています。ところが、「催涙液入り放水銃」については、警察が任意に変更できる内部指針に過ぎない「放水車運用指針」に記載されているだけです。この指針でも「不法行為者の制圧に必要な適正濃度で混合」して使用できると、“曖昧に”規定されています。催涙液の混合濃度や催涙液として使用できる化学薬品の種類等に関する規定はどこにもありません。警察は「『0.5%、1.0%、1.5%』という上中下の基準を持って使用している」とします。ボタンを押すと、機械がこの三つのいずれかの濃度で、自動的に混ぜてくれる方式だそうです。しかし、この基準は、内部「指針」より下の段階である、警察庁が地方庁や各警察署に送達する「公文書」に出てくる内容に過ぎません。要するに、警察の催涙液放水使用は「法的な根拠」がないのです。

 人体に有害な催涙液入り放水銃を、このように関連規定が曖昧で恣意的に変えられる指針に基づいて使用するのは、深刻な問題です。1日の集会に参加し、催涙液入り放水銃に撃たれて被害を被ったセウォル号遺族や市民など3人が、今月6日、憲法裁判所に警察の恣意的な催涙液放水使用の防止を求める憲法訴願を出したのも、そのためです。請求人らの法律代理人である「民主社会のための弁護士会」のパク・チュミン弁護士は「催涙液放水は市民の生命権、健康権、集会の自由などの基本権を侵害するものであるにもかかわらず、警察は法律的根拠なしにこれを使用しており、憲法に違反している。警察が任意で基準を変更できる“指針”ではなく、明示的な使用根拠を“法律”で定めなければならない」と述べました。

 憲法裁判所は昨年6月、放水銃の使用について「すでに発射行為が終了して基本権侵害状況が収束しており、憲法訴願を提起する実益がない。今後の集会現場で、当時のように近距離で放水銃を発射する行為が繰り返される可能性があると判断し難い」とし、審理もしないまま却下しました。一方、キム・イス、ソ・ギソク、イ・ジョンミ裁判官の3人は「集会・デモの現場で繰り返し放水銃の使用が予想される。生命・身体に重大な危害を加える可能性もあるので、法律でこれを規定しなければならない」と憲法裁判所で審理する必要があるという意見を出しました。以降、憲法裁判所の却下理由とは対照的に放水銃が繰り返し使用され、また、今回は催涙液入りの放水銃が使用され、危害性はより大きくなりました。憲法裁判所の新しい判断が必要とされる理由です。

キム・ギュナム記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力: 2015-05-07 15:19

https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/690163.html  訳H.J

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