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労働契約書を初めて書いた高校生たち「社会に出るとき役に立ちそう」

登録:2015-04-11 00:02 修正:2015-04-11 07:39
この3月31日、京畿道水原市八達区三一商業高校1年6組の生徒たちと担任のホ・ジンマン先生が、労働契約書を作成する授業を終えた後、契約書を手に笑っている //ハンギョレ新聞社

 「中学で全泰壱(チョン・テイル)について習ったことある?」

 3月31日午後4時、京畿道水原市八達区の三一(サミル)商業高校1年6組の社会の時間。 担任であり社会科担当のホ・ジンマン先生が、授業の始めに生徒たちに質問した。 26人のうち2人が手を挙げた。 歴史の時間に習ったという。 他の中学に通っていた生徒たちは口々に「私の学校では教えてくれなかった」と言いだし、教室はにぎやかになった。

 「じゃあ、労働契約書について聞いたことのある人は?」

 今度は8人が手を挙げた。 ほとんどの子がガールズグループのガールズデイのヘリが出てくる「バイトの権利確保」の広告を見て「最低時給」は知っていたが、労働契約書があるという事は知らなかった。 銀行員、乗務員、公共機関の職員、大企業の社員、プログラマー、メイクアップアーティストなど、3年後に学校を卒業すればすぐ就職するという生徒たちが将来の希望を書いた自己紹介書が、教室の後の掲示板に貼ってあった。

 この日の授業のテーマは「労働契約書、交渉してから作成する」だった。 主教材である社会の教科書と連携して使用する副教材『共に生きる民主市民』に収録された「労働と経済」(2部2単元)のまとめの活動だ。 4~6人ずつ組になったグループごとに、各自アルバイト生と雇用主の役になって交渉する。 交渉後、“美しく正しい”労働契約書、を作成することが授業の目標だ。

バイト生と雇用主の役になり
交渉後に労働契約書を作成
「時給7千ウォン」「現実を知らない」と論争

1日7時間以上の勤務は不可など
青少年関連労働法を知らず
「今後、契約書を書く時には言いたいことがたくさんありそう」

 『共に生きる民主市民』の高校課程の執筆責任者でもあったホ先生は、「雇用労働部が作った『18歳未満の年少労働者用標準労働契約書』を自分で書いてみる授業だ。“年少労働者”とか“諸手当”など、生徒たちの知らない漢字が多く、漢文の先生に予め説明してほしいと別にお願いした」と説明した。

 ハンバーガー・ピザ店、コンビニ、炭火カルビ食堂、ビュッフェ、ガソリンスタンドの社長とそこでアルバイトしようとする求職者とに分けられた生徒たちは、すぐロールプレイに夢中になった。

 ガソリンスタンドを担当したグループでは、時給と勤務日数を巡って社長と求職者の間に論争が始まった。 求職者の役を演じたオ・ウンジさん(16)が最低時給(5580ウォン)を上回る時給7000ウォンを要求すると、社長役のパク・セミンさん(16)が「現実を知らない」と撥ね返した。 3カ月だけ働きたいという求職者には、社長役のチョン・ジェヒョン君(16)は「じきに辞めてしまうんじゃないのか。 短期より長期アルバイト生がほしい」と不快な気分をほのめかした。「きつ過ぎる」「勤務時間を10分減らしてほしい」「こどものくせにお金のことばかり言う」「じゃあ、やめろ」など、求職現場でよく出てきそうな会話がやり取りされた。

 中学3年だった昨年の冬休みを利用してコンビニでアルバイトをしたというパクさんは、「友達と週末に午後8時から午前6時まで働いたけれども、労働契約書は書かなかった。 これから契約書を書くときには、私も言うべきことがたくさんありそうだ」と話す。 労働基準法は原則的に、夜10時~午前6時は青少年を働かせてはならないと規定している。

 初めて労働契約書を書く生徒たちはいろいろミスをした。 ピザ店で週末のバイク宅配員の職を求める状況だったグループでは、お客さんの多い昼時と夕方の時間を含めて1日10時間働くことで労働契約が結ばれた。 労働基準法によって18歳未満の青少年は原則的に1日7時間、1週間に40時間以上の労働は禁止されている。 あとになって法違反であることを知った生徒たちは、7時間に労働時間を調整した。

 パク・ソウォンさん(16)は「青少年は1日7時間以上働いてはいけないという事を初めて知った。 ホテルでバイトをしていた友達は、仕事がきついと言いながらも『お金をたくさんくれるから』とそのまま我慢して働いていた。 学校で契約書を作成してみただけでも、社会に出た時とても役に立ちそうだ」と語った。 中華料理店のチラシを貼るバイトをやったことがあるというユ・ジンさん(16)は「こういう内容を、就職する前に学校で先に教えてほしい」と言った。

 生徒たちが教室で労働基本権に関する知識と感受性を伸ばすことは容易ではない。ホ先生は「労働についてちゃんと習ったことがないので、生徒たちが開かれた発想になって争点を学び、これを討論するだけでも3回以上授業しなければならない。 しかし、試験のためには先ず進度を進めなければならない。 結局、個々の教師の意志にかかっているわけだ」と語った。 2007年の教育課程改編を通して小中高で労働基本権教育が含まれるようになったが、直接的に労働を取り扱う内容はほとんどなく、別のテーマを習いながら“枝葉”的に言及されている状況だ。

水原/文・写真 チェ・ウリ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

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「職業・労働・人権…この教科書で学びましょう」

京畿道小・中・高校の半数以上

『共に生きる民主市民』を活用

ソウル・光州・忠清南道・全羅北道も採択の予定

昨年3月に発行された『共に生きる民主市民』 //ハンギョレ新聞社

 ひときわ輝く教科書がある。 昨年3月に発行された『共に生きる民主市民』(写真)は、従来の教科書ではほとんど扱わない“労働”関連の内容を学齢にあわせてきちんと教えようという趣旨で出版された。 京畿道教育庁の認定を受けた同教科書は、小3・4年生用では職業と休息の意味、児童労働を扱う。5・6年生用では、労働者と使用者の権利、週40時間労働とメーデーを学ぶ。 全泰壹(チョン・テイル)を説明したマンガも紹介している。

 中学校用教材の労働の単元のタイトルは「人と労働は一つです」だ。 労働三権を初めて教えるのだが、雇用労働部の青少年労働人権の広報マンガと青少年アルバイト十戒が紹介されている。 単元の最終コーナーでは「同一労働・同一賃金」に対する生徒自身の考えを書いてみる機会も与えられる。

 高校課程はもう少し深度が加わる。 労働の価値はもちろん、労働市場の柔軟性・安定性について現実社会で起きている多様な事例を挙げて生々しく実感を持って学べるようにしている。 1時間働いたらハンバーガーをいくつ買えるのか、主要国の非正規雇用の割合はどれくらいかなどを整理した。 労働時間の柔軟化やストライキなど、敏感なテーマも討論テーマにしている。

 『共に生きる民主市民』の執筆には、教師40人余りが参加した。 初等課程執筆の責任者である京畿道軍浦(クンポ)の堂洞(タンドン)初等学校のチャン・ギョンフン先生は、「今後どのような人生を生きていくのか、基本的な内容を盛り込もうとした。 外国と違って、韓国は労働を学ぶ機会が少なすぎる」と指摘した。

 米国・英国などでは「市民教育」という教科目で労働教育を深度をもって教えている。 ドイツは労働教育を生涯教育にしている。 フランスの人文実業系の高校課程では、労働組合と労働者代表、ストライキ、ストの政治・社会的役割も扱う。

 京畿道教育庁の調査の結果、管内1195校の初等学校のうち624校で、604校の中学校のうち384校で、451校の高等学校のうち334校で、この教科書を活用している。 京畿道だけでなく、ソウル・光州・忠清南道・全羅北道などでもこの教科書が採択された。

チェ・ウリ記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/schooling/685100.html 韓国語原文入力:2015-04-02 13:58
訳A.K(3459字)

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