最初はネタにはならないと思った。 ピョン・ホンチョル氏(46)が先月16日、大邱(テグ)で撒いたビラはわずか20枚だった。 それもパフォーマンスレベルで撒いた後、“認証ショット”だけ撮ってすぐにビラを拾って帰った。当時はすでに全国各地で朴槿恵(パク・クネ)大統領を批判するビラが、数千枚、数万枚撒かれていた。 常識的に見て警察が捜査に乗り出すはずがないので、ネタにもならないと思い、そのままやり過ごしていた。
予想を覆して警察は捜査に乗り出した。 警察官たちがピョン氏の自宅と妻の出版社の事務室にやってきて、引っ掻き回して行ったと思ったら、とうとう押収捜索令状まで取って12日にはピョン氏の自宅と妻の出版社の事務室を家宅捜索した。 押収して行ったピョン氏の携帯電話はまだ返していない。 人権運動連帯など市民団体は16日、大邱寿城(スソン)警察署前で記者会見を開き、「警察の過剰捜査であり表現の自由の侵害だ」として警察を相手に法的対応に乗り出すことを明らかにした。
先月17日、警察がピョン氏に最初の出頭要求書を送った時に書かれていた容疑は「軽犯罪処罰法」違反だった。 先月23日に送った2回目の出頭要求書に書かれていた容疑は「出版物などによる名誉毀損」(刑法第309条)だった。 今月12日の押収捜索令状に書かれた容疑は「名誉毀損」(刑法第307条)だった。 一晩経てば容疑が変わった。
最初から大統領府の顔色を伺ってスタートした無理な捜査だった。 わずかビラ20枚を撒いて、また拾って行ったことが軽犯罪処罰法違反ということ自体、説得力がなかった。 一枚きりのビラは裁判所から出版物と認められる可能性がほとんどないにも拘らず、「出版物などによる名誉毀損」を適用しようとしたのも理屈に合わないことだった。 結局、最後に警察が見つけた容疑が「名誉毀損」。しかし、名誉毀損罪は、被害者の告訴がなければ捜査しないのが一般的だ。「差し出がましい警察」という話が出て来る理由だ。
「大統領の悪口を言うことは民主社会で主権を持った市民の当然の権利です。 大統領の悪口を言って主権者がストレスを解消できるなら、私は喜んでそれを聴くことができます」。 故盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の言葉だ。 「私は人に忠誠は誓いません」。 大統領選での国家情報院コメント事件の特別捜査チーム長を務めたユン・ソギョル検事はこう言った。
警察の持つ権力は、大統領のような権力者が付与したものではない。 国民が委任したものだ。権力者の顔色を伺って捜査力を浪費するために警察に権限を与えたわけではない。 民主主義社会では、国民は腹が立てば大統領の悪口も言うくらいは十分に出来るのだ。 警察は盧元大統領とユン検事の言葉を覚えていてほしい。