隠れた目的?
党綱領などが北の主張に似ているからと
「北朝鮮式社会主義追求」と推論
統合進歩党強制解散と議員職剥奪決定の効力は、“政治的死刑宣告”と同じだ。これほど厳しい措置を盛り込んだ憲法裁判所の決定文を見ると、明確かつ客観的な証拠もなしに推論に推論を重ねていることが分かる。極めて重大な権威と影響力を持つ上に、不服申し立ての機会も与えず、一審制で結論を下す憲法裁判所が、裁判の基本と言うべき“証拠裁判主義”の原則すら守らないことによって、自ら権威を貶めたという評価が出ている。
憲法裁判所決定の論理を単純化すれば、「(1)北朝鮮に追従する主導勢力が党を掌握し(2)北朝鮮式社会主義という隠れた目的を(3)暴力を動員して達成しようとしたために、統合進歩党は違憲政党である」と要約される。
暴力動員?
“実質的な危険”を強調しながら
具体的な根拠は提示せず
決定文に出てくる“主導勢力”という表現は、今回の解散決定を可能にした“万能キー”だ。憲法裁判所は“主導勢力”を“民族民主革命党(民革党・1997年解体)の残存勢力、及び彼らと理念的志向点を共にする党員”と説明している。17年前に解体された民革党の組織員や当時一緒に活動した経歴のある人々は、特別な根拠もなく“今現在”北朝鮮式社会主義を追求する主導勢力と見なされた。
反対意見を出したキム・イス裁判官は「多数意見は、10年以上も前の国家保安法違反刑事事件の判決や、長いこと進歩党の構成員たちと直接接触のなかった人々の証言に基づいて、進歩党の構成員たちの過去と現在の思想、信念を判断している」として「最小限の分析すら行わず、むやみに他人の理念的志向点と思想を何々だと断定することはできない」と批判した。
主導勢力の概念と基準自体があいまいな点も、今回の決定が厳密な立証よりは“印象批評”によって左右されたのではないかという疑問を持たせる。“主導勢力”という概念は、イ・ソッキ議員たちの“内乱扇動の集い”をそのまま進歩党の活動であると“帰属”させることにも動員された。130人ほどが参加した集りで出た発言を、約10万人が所属している政党の活動と見なすのは無理だという指摘が多いが、憲法裁判所はここでも「集りが主導勢力によって開催された点」を決定の根拠の一つに挙げている。
現在、イ議員の内乱陰謀・扇動容疑事件は上告審に係留されており有無罪が確定していない。その上、控訴審裁判ではイ議員が主導する地下革命組織(RO)の実体を認めなかった。にもかかわらず、憲法裁判所は、検察の捜査記録や民革党の総責任者だったキム・ヨンファン氏など証人たちの陳述を聞いただけで判断を下してしまったわけだ。培材大学法学科のキム・ジョンソ教授は「民主政治で核心的役割を果す政党に事実上の死刑判決を下すにあたって、厳格な証明もなしに“合理的推論”だけで可能だというのは説得力がない。これでは今後何でも民主的基本秩序に違背すると言うことができるようになる」と批判した。
憲法裁判所は進歩党の目的が違憲だと判断しながら、綱領である「進歩的民主主義」の隠れた目的が北朝鮮式社会主義であると見なした。進歩党綱領解説集には、北朝鮮式社会主義を追求するという言葉はない。憲法裁判所もこれを認めている。にも拘らず、「綱領解説集など、進歩党が発行した書籍に出てくる言葉は北朝鮮式社会主義、北の対南革命戦略と比較してみるとほぼ一致する」いう論理を展開した。「AとBが類似しているので、AはBに追従している」という単純な推論だ。進歩党を「従北主義」と批判した党内外の要人の発言を根拠に挙げて、「このような発言こそ、進歩党の実体を正確に表現したものと見られる」と断定した。亜州(アジュ)大学法学専門大学院のイ・ホンファン教授は「事実に対する正確な認識ができていない。まだ解明されていない事実を事実であるかのように前提にしている。理解し難い決定だ」と語った。 憲法裁判所自身も決定文の前の部分で「『疑わしい場合は自由を優先視する』近代立憲主義の伝統」に忠実であろうと努力したとしながらも、進歩党の“隠れた目的”は、北朝鮮式社会主義であると簡単に結論を下してしまった。
憲法裁判所は今回の事件で“比例原則”を適用したと強調する。進歩党の活動に具体的・実質的な危険があり、強制解散によって得られる利益の方が解散によって侵害される価値より大きいということだ。しかし憲法裁判所は、この部分についてもやはり具体的な根拠を提示することなく「北と対峙している大韓民国の特殊な状況を考慮しなければならない」とか「主導勢力はいつでも違憲な目的をすぐに実現することができる」と記しているだけだ。
湖原(ホウォン)大学法警察学部のナム・ボッキョン教授は「進歩党内部で行なわれた代理投票や党内予備選挙不正などが違法行為であることは確かだ。しかし、党内部の手続きで行なわれた事を民主的基本秩序の違背と見るならば、他の政党もこうしたことが起きればすべて解散しなければならないということになる」と指摘した。