バラク・オバマ米大統領は最近、米国の不平等問題を解決することに集中する様子だ。健康保険に続き、最低賃金引上げや超過労働手当ての拡大にまで戦線を広げた。オバマ大統領のこのような処置は、富の不平等が消費低迷や成長遅滞にまでつながっている現状に基づいている。
ところで、これを推進する米国政府の戦略が目を引く。立法を通じて全ての企業に実施させる前に、政府がまず実践するというものだ。2月に発表された最低賃金に関する大統領令の要旨は、政府が契約を結んで物品やサービスを調達する企業の場合、2015年から引き上げられた最低賃金を支給しなければならない。また、その企業が契約を結んで他の企業から調達する際にも、この賃金が適用されるようにした。
もちろん新たな法を作ったわけではないので、引き上げられた最低賃金の支払いを民間企業に強制することはない。ただ、このレベルに合わせなければ政府に品物を売ることはできないという点を明示したものだ。 最大規模の単一購買者である政府の地位を最大限に活用するという戦略だ。
事実、購入者としての政府は、常識的には理解できない行動をすることが多い。政府は国民から税金を取り立てて、良質の働き口を作り、環境を保全するために使用する。 しかし、政府がそれらを行なうのに必要な品物を購買したりサービスを委託する場合には、ひたすら最も安く提供する企業を選択して契約するのが普通だ。
その企業は、物やサービスを安く提供するために、賃金を少なく与えざるを得ず、非正規職を使わざるを得ず、規制を巧みに避けながら廃棄物を排出しようとする誘惑に直面する。そのようにして削減した費用で価格をできるだけ削らなければ、政府の購買入札で成功できないからだ。もちろん社会的に正しい方法で革新して費用を削減することもあろうが、多くの場合、社会的価値を毀損する道の方がはるかに容易に見える。
その上で、政府はその過程で破壊された社会的価値を復元するために、再び税金を支出する。非効率的な悪循環だ。
経済学ではこれを「外部効果」という用語で説明したりする。否定的な外部効果が大きいほど、悪い経済行為が市場で良いことのように選択される可能性が高くなる。そんな社会は持続可能性が低い。
オバマ大統領が最低賃金の引上げを推進する際に、最大購買者としての政府の責任を強調した理由がここにある。イギリスの場合、政府が製品やサービスを購入する際、最低価格の代わりに、社会的価値を考慮して最高価値を有する方を選択するように、法令及び指針が作られている。ヨーロッパ連合の次元でも、“欧州2020”戦略に合わせて社会的価値中心の調達指針を設け、経済・社会・環境的価値をバランスよく考慮した調達をしている。
最近、文在寅(ムン・ジェイン)議員は「社会的価値基本法」をテーマに政策討論会を開いた。政府が社会的に責任ある購買者として行動しなければならないという内容が盛り込まれていて、うれしい。ソウル市が進めている地方自治体購買の社会責任性強化方針も目を引く。この際、中央および地方自治体の購買原則を、最低価格の代わりに社会的責任を包括した最高価値購買に整理するのもいい方法だ。
また、金融機関の投資・融資・運用などでも、社会的価値を追求できるように制度的枠組みを設けることが必要だ。 金融の影響力は政府購買と同じくらい大きい。政府が持分を保有する金融機関から始めるのも手だ。行政部や他の政治家たちも、このような動きに積極的関心を持つべきだ。
人の人格が決定的に判断されるのは、財布の中のお金を使う時だという。政府も同じだ。本当に雇用や環境や人権を考える政府ならば、ビルの清掃委託業者の選定の際にもそのような価値を実践する企業を優先しなければならない。
イ・ウォンジェ経済評論家・CEPR(米国ワシントン)先任研究員